SONY「MDR-CD900ST」の「後継」は存在するのか?代替候補のヘッドホンを探してみた
SONY「MDR-CD900ST」はモニターヘッドホンの「定番」と言われることも多く、私も以前はこのヘッドホンには長い間お世話になっていました。
自分の耳が「MDR-CD900ST」に慣れてしまったせいか、これ以外のヘッドホンでミックスバランスの調整をしようとすると感覚が掴めずに失敗してしまうことも多く、なかなか手放せない状況が続いていました。
ただ「MDR-CD900ST」は1989年発売ということもあり、最近のヘッドホンと比べるとさすがに古さを感じる部分もあります。
高域に少しザラつきを感じたり、音像がかなり近く感じられたりするほか、着脱式ケーブルではないため断線した際のケーブルの修理が面倒だったりもします。
そこで、数年前から「MDR-CD900ST」に代わるヘッドホンを探すべく、色々なヘッドホンを買っては手放すということを繰り返していました。
その結果、現在は音楽制作用途のヘッドホンはOLLO Audio「X1」に落ち着いています。
とはいえ「X1」は日本国内での販売価格が9万円台(2026年時点)であり万人に勧められる製品ではありませんし、実際に使ってみて「コスパはあまり良くないな」と感じています。
また「X1」開放型で音漏れがあることや、価格的な理由から複数台を揃えてレコーディングでボーカリスト・演奏者に使ってもらうのは現実的ではありません。
そこで以前から「SONY MDR-CD900STの代わりとなるコストパフォーマンスに優れたモニターヘッドホン」を探してしました。
以下、CD900STの代わりの候補として検討したヘッドホンと、それぞれの製品の特徴などを整理しておきたいと思います。
◆CD900STの「代わり」に使うためのポイントは?
CD900STを長期間使ってきた人にとって、CD900STの「代わり」となる新しいヘッドホンを言えるためには、以下のような要素がポイントになると思われます。
価格帯がCD900STと同程度であること
まず大きいのは、やはり価格帯です。
CD900STが長年スタジオで使われ続けてきた理由のひとつは「業務用として導入しやすい価格」にあると思います。
かつては1万円を超えるヘッドホンはどちらかというと高価な部類でしたが、近年のモニターヘッドホン市場では高性能化と高価格化が進んでおり、
現在では3万円台〜6万円あたりがミドルクラス、ハイエンドになると10万円前後から、という製品も珍しくありません。
その中でCD900STは現在でも2026年時点で実売2万円前後に収まっており、プロ用途にも使えるモニターヘッドホンとしては比較的導入しやすい価格帯を維持しています。
特にレコーディング現場では、エンジニア本人だけでなく、ボーカリストや演奏者向けにも複数台のヘッドホンを用意する必要があります。
そうなると、1台5万円以上するモデルを人数分揃えるのは現実的ではありません。
その点、2万円前後の価格帯であれば複数台導入もしやすく、万が一の断線や破損が起きた際の負担も比較的軽く済みます。
CD900STと同じくらいの価格のヘッドホンであれば現場で気軽に他人に貸せますが、高額なヘッドホンは貸すのは躊躇してしまいますよね…。
そのためCD900STの代替候補を考える場合も、単純な音質性能だけでなく「2万円前後で導入できること」は重要な条件になると思います。
音漏しにくいこと(密閉型であること)
最近では、CD900STをミックスやマスタリング用途で使うケースは減ってきており、現在はレコーディング時のモニター用や、楽器練習用として使われることが多くなっているように感じます。
特にレコーディング用途では「音漏れしにくいこと」が非常に重要です。
開放型ヘッドホンは音の抜けが自然で聴きやすい反面、外部への音漏れが大きくなります。
そのため、ボーカル録音やアコースティック楽器の収録時には、ヘッドホンから漏れた音をマイクが拾ってしまうことがあります。
特に最近のコンデンサーマイクは感度が高いため、クリック音やオケの音漏れが録音に入り込んでしまい、後から修正が難しくなるケースも少なくありません。
そのため、CD900STの代替モデルを考える場合は「密閉型」のほうが良い、というケースが多いかと思います。
音質的な特徴が似ていること
CD900STが長年使われ続けている理由のひとつに「周波数特性における独特のバランス」があると思われます。
一般的なリスニング向けヘッドホンと比べると、高域の一部がやや強調されたような傾向があり、ボーカルの息遣いや歯擦音、ノイズなどを把握しやすい特徴があります。
そのため、ボーカリスト自身が声を確認しやすかったり、レコーディング時のノイズチェックがしやすかったりと、実用面でメリットがあります。
一方で、CD900STの低域は比較的控えめです。
最近のヘッドホンには低域を豊かに聴かせるモデルも多いですが、CD900STは必要以上に低域を膨らませないため、中高域がマスキングされにくく、音の輪郭を把握しやすい傾向があります。
この独特のバランスに長年慣れていると、別のヘッドホンへ移行した際に「音がこもって聞こえる」「低域が多すぎて中高域が見えにくい」と感じることがあります。
特にミックス作業では、長年使ってきたモニター環境に耳が最適化されていることも多く、周波数バランスが大きく変わると、音量バランスやEQ調整の感覚を改めて掴み直す必要が出てきます。
そのため、CD900STの代替モデルを探す場合は、単純な音質の良し悪しだけではなく、「中高域の見え方」や「低域の量感」といった方向性に、ある程度共通点があることも重要だと思います。
音質面でCD900STよりも優れていること
前述した「音の方向性がCD900STに近い」という点とは少し矛盾する話に聞こえるかも知れませんが、CD900STよりも音質の劣るヘッドホンを買うくらいであれば「使い慣れたCD900STを使い続けたほうが良い」と思う人のほうが多いと思います。
そのため、CD900STの後継機として評価されるためには、従来のモニター傾向を受け継ぎつつも、より新しい設計や技術が取り入れられていて、解像度や定位感、低域の表現力、長時間使用時の聴きやすさなど、総合的な音質面でCD900STを上回っている必要があると思います。
特に近年は、レコーディング用途だけでなく、DTMや配信、音楽鑑賞まで幅広く使われることが増えているため、単純なモニター性能だけではなく、現代的なリスニング環境に適応できるバランスの良さも求められるかも知れません。
メンテナンス性に優れていること
CD900STが長年現場で使われ続けている理由のひとつにメンテナンスのしやすさがあります。
CD900STは業務用モデルのため一般的な保証は付いていませんが、その代わりに交換用パーツが非常に充実しています。
イヤーパッドはもちろん、ヘッドバンドやドライバーユニット、ハウジング、さらには固定用のネジに至るまで個別に入手できます。
そのため、どこか一部が故障しても、その部分だけを交換しながら使い続けることができます。
この「壊れたら買い替え」ではなく「直しながら使う」という運用ができる点は、他のヘッドホンにはあまり見られない大きな強みです。
修理の手間はかかるものの、長い目で見ればコストパフォーマンスにも優れていますし、使い慣れた音を維持できるという安心感もあります。
一方で、こうした高いメンテナンス性を備えた製品は意外と少なく、あっても高価格帯に集中しがちです。
2万円前後の価格帯でCD900STと同等レベルのパーツ供給や修理のしやすさを求めるのは現実的には難しい面があります。
それでも、CD900STの代替や後継を考えるのであれば、「長く使い続けられる構造であること」、そして「消耗品や主要パーツが入手しやすいこと」は、無視できない重要な条件です。
軽いこと
CD900STは約200gとヘッドホンの中でもかなり軽い部類に入ります。
そのため長時間装着していても首や肩への負担が少なく、髪の長い人に装着してもらっても、激しいパフォーマンスでもズレることが少ないです。
レコーディングやミックスなど、集中して使い続ける用途では、この軽さが大きな快適さにつながります。
近年は音質や機能性の向上と引き換えに、300g〜400gクラスの重量があるモデルも増えています。
確かに性能面では魅力的ですが、長時間の使用や収録現場での使い回しを考えると、重さは無視できない要素です。
特にレコーディングでは、さまざまな人にヘッドホンを装着してもらうことになります。
女性ボーカリストや楽器演奏者など、体格や筋力に個人差があることを考えると、できるだけ軽いほうが負担が少なく、重さによってズレてくることも少ないので、ストレスなく使ってもらえます。
また、軽量なヘッドホンは着脱のしやすさや取り回しの良さにもつながるため、現場での扱いやすさという点でもメリットがあります。
CD900STの代替や後継を考えるうえでも、この「軽さ」は単なるスペック以上に重要なポイントです。
簡単に入手できて、今後も販売が継続される可能性が高いこと
CD900STがこれほど長く使われ続けている最大の理由は、30年以上にわたって安定して販売されてきた点にあります。
登場は1990年前後ですが、その間にも数多くのヘッドホンが発売され、そして生産終了になってきました。
その中でCD900STはゾンビのように生き残り続け、現場の定番として定着しています。
いわば、多くのモデルが入れ替わる中で使われ続けてきた「基準」のような存在です。
この点を踏まえると、CD900STの代替となるモデルには、単に音質や使い勝手が優れているだけでなく、今後も長期間にわたって安定して供給される見込みがあることが重要になります。
短期間で生産終了してしまうモデルでは現場の機材としては安心して採用しにくいためです。
さらに入手のしやすさも見逃せません。
CD900STは多くの楽器店やオンラインショップで常に流通しており必要なときにすぐ手に入ります。
たとえばレコーディング数日前に断線や故障が起きても、店頭で買い替えたり、ネットで即座に手配したりできます。
在庫切れでしばらく入手できない、といった事態が起こりにくいのは大きな強みです。
そのため、代替モデルを考える際には、販売チャネルの広さや流通の安定性も重要な判断材料になります。
多くの店舗で取り扱いがあり、継続的に供給される体制が整っているかどうかは、実用面で大きな差につながります。
以上のポイントを踏まえ、ここからはCD900STの「代わり」となり得るヘッドホンを整理していきます。
◆SONY / MDR-M1ST
CD900STの「後継」として、まず最初に名前が挙がるのがSONYの「MDR-M1ST」だと思います。
MDR-M1STは、SONYが新世代のモニターヘッドホンとして開発したモデルで、メーカーとしてもCD900STの流れを引き継ぐ位置づけにあります。
実際、レコーディング用途を強く意識した設計になっており、スタジオユースを前提とした作りはCD900STと共通しています。
ただし、完成度の高いヘッドホンである一方で、CD900STの「完全な代替」とまでは言い切れない部分もあります。
現場によっては導入が進んでいるもののCD900STから一斉に置き換わっているという状況にはなっていません。
まず価格面では、2026年5月時点でおおよそ3万円前後と、CD900STよりも一段上の価格帯に位置しています。
この時点で「気軽に買い足せる定番機」という立ち位置からは少し離れます。
音の傾向も両者で大きく異なります。
MDR-M1STは低域の量感や情報量がしっかりしており、現代的な音作りに対応しやすいバランスになっています。
一方で、CD900STに比べると中低域がやや厚く、環境やソースによっては少しこもったように感じることもあります。
現在の音楽制作では低域の精度や量感が重要視されるため、その点ではMDR-M1STのほうが扱いやすい場面もあります。
ただ、長年CD900STの音に慣れている人にとってはモニターの基準が大きく変わることになり、違和感を覚えるケースもあります。
その一方で、音漏れの少なさや耐久性、パーツ交換のしやすさ、軽量さ、入手のしやすさといった実用面では、CD900STと共通する強みをしっかり備えています。
現場で使い続けるうえで重要なポイントはきちんと押さえられています。
総合的に見ると、価格と音の方向性の違いを受け入れられるのであれば、MDR-M1STはCD900STの後継候補として最も有力なモデルのひとつです。
CD900STの「代わり」というよりは「現代的にアップデートされた別の基準機」として捉えると理解しやすい存在です。
◆AKG ( アーカーゲー ) / K371
AKGの「K371」は2019年頃に登場した密閉型のモニターヘッドホンです。
このモデルの特徴は「Harman Target(ハーマンターゲット)」と呼ばれる周波数特性をベースに設計されている点にあります。
これは人が自然で心地よいと感じやすい音のバランスを、膨大なリスニングテストのデータから導き出したものです。
そうした背景もあり、K371は特に海外で高く評価されています。
価格帯は2026年時点でCD900STと同程度か、やや手頃な水準に収まっています。
音漏れも少なく、重量も約255gと比較的軽量で、装着感も良好です。
イヤーパッドの質感も柔らかく、長時間使用でも疲れにくい点はCD900STより優れていると感じる人も多いはずです。
また、近年はハーマンターゲットに近いチューニングの製品が増えているため、K371の音に慣れておくと、他のヘッドホンへ移行する際にも違和感が出にくいというメリットがあります。
そういった意味では、特定の機種に依存しすぎない「汎用的な基準」として使いやすいモデルです。
測定データ上でも、周波数特性の滑らかさや帯域バランスの面ではCD900STより優れている部分が多く見られます。
ただし、実際の現場ではK371へ完全に移行しているケースはそれほど多くありません。
その理由のひとつとして音のキャラクターの違いが挙げられます。
K371は全体的に整ったバランスで聴きやすい反面、CD900STのような中高域の強調やピークが少なく「音が普通に聴こえる」「細かいノイズや粗が目立ちにくい」と感じる人もいます。
レコーディング現場では、あえて粗が見えやすい音を好むケースもあるため、この点が評価の分かれ目になっているのかも知れません。
さらに、国内外のレビューでは耐久性に関する指摘も一定数見られます。
すべての個体に問題があるわけではないと思いますが、現場で長時間に渡ってハードに使うという用途では気になるポイントです。
とはいえ、レコーディング用途に限らず、ミックスやマスタリングまで幅広く対応できるバランスの良さは大きな魅力です。
価格を抑えつつ、クセの少ないモニター環境を整えたいのであれば、CD900STよりも扱いやすいと感じる人も多いモデルです。
◆Austrian Audio / Hi-X20
個人的に「CD900STの後継のダークホース」だと思っているのが、Austrian Audioの「Hi-X20」です。
細かいレビューは別に整理したいと考えていますが、このモデルはCD900STとほぼ同じ価格帯にありながら、高域の一部が強調されているという共通点もあり、CD900STで不足しがちな低域も十分に出ていている点が魅力です。
そのうえで上位機種と同系統のドライバーが採用されていることもあり、分離感や解像感はCD900STより優れていると感じます。
細かいニュアンスや定位の把握がしやすく現代的な制作環境にも十分対応できますし、軽量で装着感も良く長時間の使用にも向いています。
一方で、実際にはAustrian Audioのヘッドホンは、そこまで広く普及している印象がなく、中古市場を見てもSONYなどの製品と比べるとリセールバリューも少し低い印象を受けます。
その理由はいくつか考えられます。
まず、Austrian Audioというブランド自体の認知度です。
AKG出身のエンジニアによって立ち上げられたメーカーではありますが、SONYやAKGと比べると一般的な知名度はまだ高いとは言えません。
大規模なプロモーションも多くないため、そもそも存在を知らないという人も少なくないと思います。
さらに、新興ブランドという位置づけもあり今後どの程度長期的に製品供給が続くのかが読みづらい点もあります。
スタジオ用途では「長く同じ機材を使い続けられるかどうか」が重要になるため、この点は導入の判断に影響します。
音質面についてもやや評価が分かれる部分があります。
Austrian Audioのヘッドホンはトランジェントの鋭さや解像度の高さは優秀ですが、音の分離がはっきりしすぎると感じる人もいると思います。
音も左右に綺麗に分離される傾向があるため、他のヘッドホンやスピーカーに切り替えた際に、聴こえ方の違いに慣れるまで少し時間がかかることがあります。
総合的に見ると性能面ではCD900STの後継としてのポテンシャルは持っていると感じられるものの、市場全体で見たときにCD900STのような圧倒的な定番機になる可能性は残念ながら低いかも知れません。
なお同シリーズにはさらに低価格な「Hi-X15」もラインナップされています。
「Hi-X15」は価格を考えると解像感や分離の良さは非常に優秀で個人的には好きなサウンドですが、Hi-X20よりもさらに高域が強調された印象があり、音のクセは強めです。
コストパフォーマンスは高く刺さる人には「替えの効かない最高の1台」になると思いますが、他方で「自分には全く合わない」と感じる人もいると思われ、モニターヘッドホンとしては万人向けとは言いにくいモデルかも知れません。
とはいえ、Austrian Audioのヘッドホンは知名度がやや低いせいかタイミングが合えばフリマサイトや店舗なので中古品が手頃な価格で入手できることもあるので、「性能の高い製品を安く入手したい」という場合には魅力的だと思います。
◆ADAM AUDIO ( アダムオーディオ ) / H200
「Hi-X20」と同じく、価格と音質のバランスから見てCD900STの代替候補になり得るのがADAM AUDIOの「H200」です。
ADAM AUDIOは、独自のリボンツィーター(折りたたまれた構造の高域用ドライバー)で知られるスピーカーメーカーで、これまではプロ向けの高価格帯モデルを中心に展開してきました。
音にこだわるユーザーには定評がある一方で、やや敷居の高いブランドという印象を持たれていたメーカーです。
近年はその流れが変わり比較的手頃な価格帯のスピーカーも展開するようになりました。
その延長線上で登場したヘッドホンが「H200」です。
2万円台という良心的な価格設定は、これまでのADAM AUDIOのイメージからするとかなり意外性があります。
音の傾向は、同社のスピーカーに通じる部分があり、高域はクリアで抜けがよく、低域は控えめでタイトにまとまっています。
全体として見通しの良いサウンドで、CD900STに近い方向性を持ちながら、より整ったバランスに仕上がっています。
そういった意味では、CD900STの延長線上にある「上位互換的な音」と感じる人も多いはずです。
重量は約250gと比較的軽く、長時間の使用にも向いています。
さらに、専用ソフトウェアによる音響補正や、持ち運び用のキャリーバッグが付属するなど、付加価値の面でも充実しています。
価格を考えると、コストパフォーマンスはかなり高い部類です。
こうした完成度の高さやブランド力を踏まえると、定番モデルとして広く普及しても不思議ではない製品です。
実際、海外では一定の評価を得ている印象があります。
ただし、日本国内では現時点でそれほど広く浸透しているとは言いにくい状況です。
理由としては、ヘッドホン分野におけるブランド認知がまだ高くないことや、デザインの好みが分かれる点などが影響している可能性があります。
総合的に見ると「H200」は性能・価格ともに非常に魅力的で、CD900STの代替として十分検討に値するモデルです。
◆YAMAHA ( ヤマハ ) / HPH-MT8
YAMAHAの「HPH-MT8」は趣味で音楽制作を行うユーザーだけでなく、プロからの評価も高いモニターヘッドホンであり、比較的新しいモデルでありながら既に一定の実績を持っています。
音の傾向は高域がしっかり出ていて、低域はやや引き締まったバランスです。
いわゆる「見通しの良いモニターサウンド」で、CD900STやテンモニ(スタジオに置いてあることの多かった定番モニタースピーカー)に通じる日本の制作現場で好まれてきた方向性に近い音作りになっています。
さらに、低域は弱いもののサブベース帯域まで把握できるレンジの広さもあり、情報量という点ではCD900STよりも「明確に良い」と感じる人も多いはずです。
価格は2026年5月時点でおよそ2万5千円前後とCD900STよりやや高めではありますが、着脱式ケーブルが2種類付属しており、筐体設計がしっかりしていることなどを考えると、納得感のある価格です。
音漏れも少なく、ヤマハというブランドの信頼性を踏まえると、長期的に供給される安心感もあります。
こうした点から見ても「HPH-MT8」はCD900STの代替候補として十分に有力なモデルです。
一方で、使い勝手の面では気になる点もあります。
まず重量は約350gと重めです。
長時間装着していると首や肩に負担がかかりやすく、演奏中に頭を動かした際にズレを感じることもあります。
レコーディング用途で不特定多数の人に使ってもらう場合、この重さは無視できない要素です。
音質面では1kHz付近がやや強調されているように感じる場面があります。
ボーカルや楽器の存在感を捉えやすいという意味ではメリットですが、その影響でミックス時にボーカルをやや小さめに判断してしまうこともあり得ます。
また高域のエッジが少し強いため、環境や音源によっては聴き疲れを感じやすいこともあり、長時間の作業では、適度に休憩を挟むなどの工夫が必要かも知れません。
とはいえ、分離感や解像度の高さは価格帯を考えると非常に優秀です。
音の細部までしっかり確認したい人や、この音の傾向が合う人にとっては、CD900STに代わる最高のモニターヘッドホンになり得るモデルです。
◆Beyerdynamic ( ベイヤーダイナミック ) / DT770PRO
Beyerdynamicは海外の制作現場を中心に長年定番として使われてきたモニターヘッドホンメーカーです。
音質と装着感の良さから、音楽制作だけでなく一部のプロゲーマーからも支持されています。
その中でも「DT770 PRO」は密閉型で音漏れが少なく、扱いやすいモデルです。
音の傾向は、高域と低域がやや強調されたような、やや「ドンシャリ」寄りのバランスです。
CD900STと比べると低域の量感がしっかりしており「900STは低音が足りない」と感じていた人には魅力的に感じるかも知れません。
重量は約270gと軽い部類で装着感も良好です。
特にベロア素材のイヤーパッドは快適性が高く、長時間の使用でも疲れにくい点は大きなメリットです。
レコーディング用途でも無理なく使えます。
以前であれば価格の手頃さもあり「CD900STの代わりとしておすすめしやすいモデル」のひとつでした。
しかし、近年は為替の影響などもあり価格が上昇し、2026年5月時点では3万円前後と、以前に比べてかなり割高感が出ています。
またDT770 PROは基本設計が古く、ルーツは1980年代にさかのぼります。
細かな改良は重ねられており、現代では「DT770 PRO X」という改良版も販売されていますが、元となっている設計思想自体は現代の新しいモデルと比べると一世代前のものです。
そのため、解像度や分離感といった点では、より新しい設計のヘッドホンに見劣りする部分もあることも否定できうず、今の時代において3万円程度という価格で購入するメリットがあるかというとコスパ的には微妙なところかも知れません。
とはいえ、この独特の音のキャラクターは代えが効きにくく、ハマる人には長く使い続けられる魅力があります。
低域の量感と広がりを重視する用途には今でも十分通用します。
総合的に見ると現在の価格帯では「万人におすすめしやすい定番機」とまでは言い難いものの、音の傾向がはっきりしているため、好みが合えば有力な選択肢となりうるモデルです。
◆Audio technica ( オーディオテクニカ ) / ATH-M50x
Audio-Technicaの「ATH-M50x」も、モニターヘッドホンの定番としてよく名前が挙がるモデルです。
CD900STは低域の量感が控えめですが、ATH-M50xは低域も比較的しっかり出ており、全体的に迫力のある音に仕上がっています。
価格帯もCD900STと近く密閉型で音漏れも少ないため、扱いやすさという点では共通しています。
高域がやや強調された「伝統的なモニターヘッドホン」らしい音作りも、CD900STに慣れている人にとっては違和感を覚えにくく、安心して使える要素です。
またカラーバリエーションが豊富で、限定カラーモデルも販売されることもあるため、見た目にこだわりたい人や所有欲を重視する人にとっては魅力的だと思われます。
一方でこのモデルのベースとなっている「ATH-M50」は2007年頃に登場しており、現行のATH-M50x自体も基本的な音の方向性は大きく変わっていません。
そのため、設計面ですでに成熟した昔ながらのモニターヘッドホンという印象であり、最新モデルと比べると新しさという点ではやや見劣りする部分もあります。
現在では良くも悪くも「完成された定番機の1つ」という立ち位置にあり、CD900STと同様に長く使われてきた「ベテラン機種」のひとつと言えます。
その分、ハズレにくいという安心感はありますが「新しい基準になるモデル」として再び大きく広がる可能性は高くないと思われます。
とはいえバランスの良さと扱いやすさは今でも十分に通用します。
1つのヘッドホンで低域まで確認したい人や、リスニング用途も兼ねたい人にとっては、CD900STとはまた違った魅力を持つ選択肢です。
◆SONY / MDR-7506
CD900STの兄弟機種として、同じくモニターヘッドホンの定番とされているのがSONYの「MDR-7506」です。
CD900STが主に日本国内のスタジオで広く使われてきたのに対し、MDR-7506は海外市場を意識したモデルです。
イヤーカップの帯の色の違いから、CD900STは「赤帯」、MDR-7506は「青帯」と呼ばれることもあり、見た目で区別されることもあります。
MDR-7506は、CD900STよりも価格が抑えられていることが多く、音漏れが少ない、音の傾向が近い、折りたたみができて持ち運びやすいといった実用面でのメリットが揃っています。
加えて、交換パーツも入手しやすく、メンテナンス性や流通の安定性という点でも安心感があります。
ただし、このモデルも発売は1991年前後と古く、基本設計はCD900STと同じく30年以上前のものです。
現在の音楽制作では、より広い帯域や解像度、低域の精度が求められる場面も増えており、そうした点で物足りなさを感じるケースも出てきています。
また、CD900STとほぼ同時期に登場し、価格も比較的安価であるにもかかわらず、日本国内ではCD900STのほうが長く主流として使われてきました。
MDR-7506は今でも人気の高い機種ではありますが、こういった過去の実績を考えると、今後MDR-7506がCD900STに代わる新たな定番として広く普及する可能性は高くないと思われます。
とはいえ、実用性の高さと扱いやすさは今でも十分に魅力的です。
携帯性やコストを重視しつつ、CD900STに近い感覚で使えるモデルを探している人にとっては、引き続き有力な選択肢のひとつであることは間違いないと思います。
◆CLASSIC PRO/ CPH7000・CPH3000
モニターヘッドホンの中でも、圧倒的なコストパフォーマンスを誇っているのがCLASSIC PRO「CPH7000」です。
音の傾向はCD900STに近く、中高域が見やすいバランスを持ちながら、低域はCD900STよりも多めに感じられます。
「とにかく安く、それなりに使えるモニターヘッドホンが欲しい」という場面では頼りになる選択肢です。
ただし、純粋な音質面でCD900STを上回るかというと微妙なところです。
全体の解像度や細かいニュアンスの表現では上位機種に劣ると感じる人も多いと思いますし、あくまで「この価格を考えれば優秀」という位置づけです。
また音楽制作やレコーディングの現場では機材のブランド、信頼性、イメージが重視されるケースも少なくないため、商用スタジオに常設する機材としては選ばれにくい側面もあります。
ちなみに、より低価格なモデルとして「CPH3000」もラインナップされています。
こちらはよりコンパクトで取り回しが良く、複数台をまとめて用意したい場面では便利です。
低域の量感も多く、リスニング用途では分かりやすい音に感じられることもあります。
一方でCPH3000は低域が強すぎてバランスが崩れて聴こえることがあり、モニター用途としてはやや扱いづらい面があります。
加えて、ケーブルが細くて短く耐久性に不安が残る点や、ミニプラグ仕様のため変換アダプタが必要になる点、イヤーパッドの装着感や外れやすさ、音漏れのしやすさなど、実用面で気になる部分もあります。
こうした点を踏まえるとCPH3000はあくまで「低価格を最優先した選択肢」として考えるのが現実的だと思います。
CD900STの代替として使うにはやや力不足ですがコストを抑えつつ数を揃えたい場面では有力な選択肢となりうる製品です。
◆結局どれが良いのか?
ここまで見てきたようにSONY「MDR-CD900ST」の「後継」になり得るヘッドホンを探してみると、意外にも「完全な上位互換」と言い切れる製品を決めるのは困難だと思います。
どのモデルにも強みがある一方で、弱点やクセもあり「これを選べばすべて解決」という製品はなかなか見当たりません。
逆に言えば、それだけCD900STが特殊で「定規」や「基準器」として定着してしまったが故に、単純にスペックだけで置き換えすることが難しいヘッドホンになってしまっているようにも思われます。
ヘッドホン業界は新製品の入れ替わりが激しく、数年で消えていくモデルも珍しくありませんが、その中でCD900STが30年以上にわたって現場で使われ続けてきた理由も改めて理解できます。
色々と比較したうえで、個人的な結論を整理すると以下のような印象です。
音の解像度や分離感、トランジェントの鋭さを重視するなら
→Austrian Audio「Hi-X20」
音の細かさや反応速度は、この価格帯ではかなり優秀だと思います
スピーカー環境との違和感の少なさや、現代的な設計思想を重視するなら
→ADAM AUDIO「H200」
モニターとしての自然さがあり、伝統的なモニターヘッドホンとは違った方向性の完成度があります
低域の量感や現代的なサウンドへの対応力を重視するなら
→SONY「MDR-M1ST」
CD900STとは音の方向性が異なるものの、SONYらしい業務用ヘッドホンとしての完成度は高いです
クセの少ない素直なサウンドを求めるなら
→AKG「K371」
ハーマンターゲット系の周波数特性は優秀で、このバランスに慣れておくと、他の機材への移行もしやすいというメリットがあります
予算をできるだけ抑えたいのであれば
→SONY「MDR-7506」やCLASSIC PROシリーズ
大量導入や予備用途では、価格の安さが大きな武器になります
結局のところ「CD900STの代わり」を探すというよりは、「自分がどの用途を重視するのか」に合わせて選ぶことが重要なのかもしれません。
また音質の捉え方は個人によって異なるだけでなく、ヘッドホンの場合は装着者の形状(頭部・耳の形・髪型)によっても変化するため、可能であれば事前の試聴をしてから購入を判断するほうが後悔が少ないと思います。
……とはいえ、勢いで買って「思ってたのと違う!」と一喜一憂するプロセス自体も楽しかったりもするのですが。。。
