なぜ『なんでも描けます!』とアピールするイラストレーターほど、単価が上がらないのか?
「仕事は選ばず、なんでも受けるべき」
受注がまだ安定しない時期、
こんな言葉を信じて頑張ってきた方は多いと思います。
実際、なんでも受けたからこそ今の実績がある。
それは間違いではありません。
でも、キャリアが中堅にさしかかった今もその考えのままだと、
実は単価と信頼が少しずつ下がっていく危険があります。
理由はシンプルです。
「なんでも描けます」という人は、誰の記憶にも残らないから。
高級ホテルや高級ブランドを思い出してみてください。
値引きをしない、ドレスコードがある、写真撮影は一部禁止……。
選ばれているブランドほど、
「やらないこと」をはっきり決めています。
制限があるからこそ、価値が生まれているのです。
では、イラストレーターは何を「やらない」と決めればいいのか?
この記事では、断る力をあなたの武器に変える「やらないことリスト」のつくり方を、5つのステップでお伝えします。
🎨 「なんでも描けます」が信頼されない理由
まず、なぜ「なんでも描けます」がうまくいかないのかを整理しておきましょう。
理由は2つあります。
1つ目は、記憶に残らないから。
クライアントの立場で考えてみてください。「なんでも描けます」という人と、「ゆるくてあたたかい動物イラストだけを描いています」という人。半年後にふと思い出すのは、どちらでしょうか?
境界線のない看板は、誰の頭にも引っかかりません。逆に、範囲をしぼった看板は「あの人といえばコレ」と覚えてもらえます。
これは、街の飲食店で考えると分かりやすいです。「和洋中なんでもあります」というお店より、「餃子しかありません」というお店のほうが、なぜか行列ができていたりしますよね。メニューをしぼることは、お客さんを減らすことではなく、「思い出してもらえる理由」をつくることなのです。

2つ目は、期待値が上がりすぎるから。
「なんでもできます」と言われると、クライアントは「じゃあ、これもあれもお願いできるよね」と期待します。でも実際は、得意不得意がありますし、時間にも限りがありますよね。
すると何が起きるか。
「なんでもできるって言ってたのに、やってくれないじゃん」
期待が高かったぶん、がっかりされてしまう。誠実なつもりで言った「なんでも描けます」が、逆にマイナス評価につながるのです。
大事なのはここです。断ることは不誠実ではありません。むしろ「やらないことを先に伝えておく」ことこそが、本当の誠実さなのです。先に言っておけば、クライアントはがっかりしませんし、トラブルも減ります。

📌 「やらないこと」には3つのタイプがある
とはいえ、ただ「アレはやりません」「コレも禁止です」と並べるだけでは、感じの悪い人になってしまいます。
そこで知っておきたいのが、「やらないこと」には3つのタイプがあるという考え方です。

✅ タイプ1:お客様メリット型
お客様を守るために、あえてやらないパターンです。
例えば「修正は3回までとさせていただきます」。これだけだと冷たく聞こえますが、理由をつけるとこう変わります。
修正は3回までとしています。回数を区切ることで、1回ごとのすり合わせを丁寧に行い、クオリティを保つためです。
無限に修正を受けると、集中力も品質も下がります。つまり回数制限は、自分がラクをするためではなく、お客様に良い絵を届けるためのルールなんですね。
✅ タイプ2:哲学型
自分が何を大切にしているかを伝えるパターンです。
例えば「丸投げのご依頼はお受けしていません」。これも理由とセットにします。
ラフの確認やご意見のやりとりなしでは、本当に喜ばれるイラストは作れないと考えています。二人三脚で進めてくださる方とお仕事がしたいです。
こう書かれていたら、「この人はちゃんと考えて仕事をしている」と感じませんか? やらないことを語ると、あなたの仕事への姿勢が伝わるのです。
✅ タイプ3:差別化型
まわりのイラストレーターと逆のことを打ち出すパターンです。
多くの人が「安く・早く対応します!」とアピールしているなら、あえてこう言ってみる。
「安く早く」はやっていません。そのぶん、何年も使い続けられるイラストを、じっくり時間をかけてお届けします。
ほかにも、多くの人が「即日納品OK!」を売りにしているなら、「特急案件はお受けしていません。1枚1枚に、ラフから納品まで最低2週間をかけています」と打ち出すのもアリです。
まわりと真逆のことを言うだけで、目立ちます。「差別化」と聞くと難しく感じますが、ライバルがやっていることを、自分はやらないと決める。それだけでも立派な差別化になるのです。
✅ 「やらないことリスト」をつくる5ステップ
ここからは実践です。次の5ステップで、あなただけのリストを作っていきましょう。

💡 ステップ1:嫌な仕事・嫌な条件を10個書き出す
最初に書くのは、理想ではありません。嫌だったことです。
何度も無料で修正させられた
相場よりずっと安い金額で買い叩かれた
深夜や休日に平気で連絡がきた
ラフOKのあとに全部ひっくり返された
こういう「もう二度とやりたくない」という経験を、正直に10個書き出してください。受注経験があるあなたなら、すらすら出てくるはずです。ブランドはきれいごとからではなく、「この仕事はもうしたくない」という本音から生まれます。
書き出してみると、意外な発見もあります。「自分は金額の安さよりも、連絡の雑さにストレスを感じていたんだ」とか、「修正そのものより、理由の説明がないやり直しが嫌だったんだ」とか。自分が本当に何を大切にしたいのかが、嫌なことリストの裏側から見えてくるのです。
💡 ステップ2:ブランドを象徴する3つに絞る
10個すべてを表に出すと、ただの「禁止事項だらけの面倒な人」に見えてしまいます。表に出すのは3つまで。
選ぶ基準は、さっきの3タイプです。お客様メリット型・哲学型・差別化型から、1つずつ選ぶとバランスが良くなります。
💡 ステップ3:「なぜやらないのか」を言語化する
ここがいちばん大事なステップです。理由のない禁止は、ただのわがままに見えます。次のテンプレートに当てはめてみてください。
私は○○しません。
なぜなら、××を守るためです。
その代わり、△△を約束します。
例えばこうです。
私は値引きをしません。なぜなら、価格を下げるとリサーチや修正にかける時間を削ることになるからです。その代わり、いただいた金額に見合う品質を必ずお届けします。
「しません」で終わらず、「約束します」で締めるのがポイント。断りの言葉が、そのまま信頼の言葉に変わります。
💡 ステップ4:プロフィール・見積書・ご依頼ページに明記する
リストは、頭の中にあるだけでは意味がありません。表に出してはじめてブランドになります。
SNSやポートフォリオのプロフィール
ご依頼ページ(「ご依頼の前にお読みください」の欄)
見積書や契約時のご案内
多くの人は「できること」しか書いていません。だからこそ「お受けしていないこと」を書くと、目立ちますし、ミスマッチな依頼も減ります。
例えば、ご依頼ページにこんな一文があったらどうでしょう。
【お受けしていないご依頼】
・お見積もりの比較だけを目的としたご相談
・ラフ確認なしの「おまかせ」進行
理由:じっくり対話しながら作ることが、良いイラストへのいちばんの近道だと考えているためです。
これを読んだクライアントは「この人は仕事に筋が通っている」と感じます。そして、この条件に合う人だけが連絡をくれるようになる。つまり、リストがあなたの代わりにクライアントを選んでくれるのです。営業の手間が減って、良いお客様だけが残る。これが明記することの最大のメリットです。
💡 ステップ5:例外をつくらない
やらないことリストがいちばん壊れやすいのは、ここです。
「大口のクライアントだから」
「知り合いだから」
「今月は売上がほしいから」
一度でも例外をつくると、「言えば曲げてくれる人」になってしまいます。そうなるとルールは無いのと同じです。
ただし、現実には「どうしても」という場面もありますよね。そこでおすすめなのが、例外もルールにしておくこと。
特急対応は、通常料金の50%増しでお受けしています。
こう決めておけば、それは例外ではなく「特急プラン」という商品になります。あなたの判断がブレることもありません。
💡 断り方ひとつで、印象は180度変わる
最後に、伝え方の話をさせてください。
同じ内容でも、言い方で印象はまったく変わります。
❌ 値引きは一切しません。
⭕ 品質を守るため、値引きは行っていません。

上は「感じの悪い人」、下は「信念のある人」に見えませんか?
書いてある事実は同じなのに、です。
もうひとつ例を出します。
❌ 土日祝のご連絡には対応しません。
⭕ 平日にしっかり集中してお応えするため、土日祝はお休みをいただいています。ご返信は翌営業日となります。
順番のコツは、「守りたいもの」→「だからやらないこと」→「代わりの約束」 の流れで伝えることです。禁止から話しはじめるのではなく、理由から話しはじめる。それだけで、同じルールがまったく違って聞こえます。
「でも、断ったら仕事が減るんじゃ……」と不安になる方もいるかもしれません。たしかに、条件に合わない依頼は減ります。でも思い出してください。あなたが本当に減らしたかったのは、安くて消耗する仕事だったはずです。そこが減ったぶん、時間と気力を、単価の良い仕事や作品づくりに回せる。これは損ではなく、入れ替えです。
中堅のあなたには、すでに実績と経験があります。あとは断る勇気をほんの少し持つだけで、「安くてなんでもやってくれる人」から「この条件でもお願いしたい人」へと、見られ方が変わっていきます。
🎨 まとめ:ブランドは「やらないこと」で強くなる
今日の内容をふり返ります。
「なんでも描けます」は記憶に残らず、期待値だけを上げてしまう
やらないことには3タイプある(お客様メリット型・哲学型・差別化型)
「しません。なぜなら××のため。その代わり△△を約束します」で伝える
今日からできるアクションを1つだけ。
「嫌だった仕事・条件」を、まず3つだけメモしてみてください。それがあなたの「やらないことリスト」の種になります。
できることを増やすだけが成長ではありません。やらないことを決めて、それを守り続ける。その積み重ねが、あなたを「選ばれるイラストレーター」にしてくれます。
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