残月村の異聞|みっつめ
※負傷・流血描写を含みます。
ドクッ、ドクッ。
熱を帯びた脈動とともに、右腕に激しい痛みが走る。
――いてぇよ……。
動かない身体で右腕を見れば、肘から下が大岩に押し潰されていた。
隙間から溢れた血が、岩の下を流れる川へと赤く広がっていく。
――夢って言ってくれ。
気を失いそうなほどの激痛は、徐々に断続的な鈍い痛みへと変わっていった。
顔に水飛沫がかかる。
川の水位が少しずつ上がっているのだ。
――くそっ!動かねぇ!
痛みに耐えながら身を起こそうとした。
だが、右腕が大岩の下敷きになっていて無理だった。
もう時間がない。
このままでは岩ごと川に沈む。
――嫌だ!
歯で引きちぎったTシャツの布を口に咥える。
生唾を飲み込んでから、右腕を引っ張った。
咥えた布と川の音に悲鳴は搔き消される。
呼吸が荒くなった。
布を食いしばり、何度も、何度も、右腕を強く引く。
ちぎれる鈍い音とともに、ようやく身体が離れた。
無理に引きちぎった肘上の傷口は、ギザギザに裂けてひどい有様だった。
気を失いそうになる。
だが、早く逃げなければならない。
じゃないと、利き腕を捨てた意味がない。
ふらりと立ち上がる。
失った腕の傷口から、一気に血が流れ落ちた。
俺は一度だけ川を見た。
――ごめんな。
そして村に向かって歩き出す。
歩く。
ひたすら歩く。
蛇が這ったような血の道ができた。
足がもつれ、そのまま地面に倒れ込む。
ドクン。
無いはずの右腕が、一度だけ脈を打ったーー。
みっつめ、崖から落とされた人形は、ころころと転がり、腕をなくしました。
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