残月村の異聞│いっつめ
※グロテスクな描写を含みます。
ぷちぃ。
前歯で噛んだ瞬間、それは口の中で弾けた音を立てた。
抵抗感のある弾力。
じわっ……と粘ついた食感が広がる。
それを食べたのは初めてだった。
美味くはない。
苦味があるし、なにより腹がまったく膨れない。
――腹が減った……。
何日も森の中を彷徨っている。
湧き水を飲み、下痢を起こした。
木の実は固くて食べられたものではなく、すぐ吐き出した。
野草に手をつけたが、腹の足しにもならない。
それでも食べられるだけマシだった。
そして、その葉を食べる芋虫を、ついには口にした。
昔、テレビ番組の罰ゲームで虫を食べる芸能人を見たことがある。
――まじかよ……。
――俺には、ぜってぇ無理。
その時はそう思った。
まさか今、自分が味わう側になるとは。
だが、これは番組の罰ゲームじゃない。
生きるためだ。
村に戻ったら、皆に笑い話として聞かせてやる。
そう前向きに考え、再び森の中を歩いた。
もう何日になるだろうか。
空腹なのに、腹だけが妙に膨れていた。
下痢もひどい。
ちゃぷん。
ちゃぷん。
ペットボトルの水が波打つような音が、自分の腹の奥からかすかに聞こえる。
――腹が減った!
――腹が減った!
森から抜け出せない焦りより、空腹でどうしょうもなく苛立つ。
草でも、虫でも、あらかた食べた。
生き物の姿を見かけた。
だが、逃げ足が早く捕まえることはできなかった。
――ああ、肉を食べたい。
その時、地面に奇妙な跡を見つけた。
蛇が通った跡のようにも見えた。
自然と口元が緩む。
ふらつく足で、その跡を追った。
そして見つけた。
地面に飛び散った赤黒い染み。
その先に、それは倒れていた。
近づいたが、もう息はしていないようだった。
乾ききった喉を鳴らす。
それは人の道を外す行為かもしれない。
だが今の俺には、目に映るあらゆるものが――
食えるか、
食えないか、
それだけだった。
ゆっくり近づき、その場にしゃがみ込む。
その下から一匹の蛇がぬるりと這い出した。
俺に見向きもせずに、茂みの中へと消えていく。
俺は変色したそれを手に掴んだ――。
いっつめ、お腹に穴を開けられた人形は、わらわらと虫たちを詰めこまれました
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