読書メモ『破局』遠野遥
この前にちょうど高山羽根子さんの『首里の馬』という沖縄が舞台のファンタジックな小説を読んでいて(これもよかった!)、次は何を読もうかなとぼんやり考えながら読後リサーチをしていたら、この遠野遥さんの『破局』が、同じ回の芥川賞で同時受賞だったというのを見つけたので、続けて読んでみることにした。ちなみに2020年の作品。(もう六年も前!)
キーワード、というかモチーフは、「肉」「かくれんぼ」「ゾンビ」
冒頭部分が何やらよくわからないスポーツの話で、最初はあんまり引き込まれることもなく、まあ仕方なく、って感じで読み始めたんだけど、次の章?(章分けされているわけではないのだけど場面変わったところ)で、だんだん面白くなってきて…
ちなみに私はスポーツの話にだけは本当に疎くて、ステップ、ファイト、アタック、タックルバック、とか言われても、作中では何の競技なのかは明記されていないから、書評や選評や解説を読むまではそれが「ラグビー」だってことすらも分からなかった。
と言っても、べつに、これはラグビーのお話ではない。むしろラグビー以上に「セックス」の方が競技として描かれている割合が多いかもしれない。
主人公の〈私〉は人並み以上にルールとかモラルとかに厳しくて、わいせつ罪とかで捕まるような人には全くの共感を示さないわりに、性欲は人一倍強くて、その性欲の強さと倫理観の強さがぶつかっている感じ。で、筋肉質だし自分に厳しくストイックな男性だから、女性からもそこそこモテて、そのモテるがゆえに、女たちに(というか性欲に?)翻弄されて、身を滅ぼす…まではいかないのかもしれないけど、まあそれに近いお話。
作中の〈灯(あかり)〉っていう後輩(のちの彼女)が、主人公を家に誘う場面で、なんかこんな話、前にも読んだことあるようなー?と(ワクワク、いい意味での)既視感。
思い出してみたら、私が学生時代に仲良くしてた(というか可愛がってもらっていた)大学教授が匿名で書いてプレゼントしてくれた私小説(未発表)にもそんな場面があったんだった。(笑)
貞操観念の強い公務員の男性主人公(しかもこっちは妻子持ち)が、異常に性欲の強い(というより愛情乞食でメンヘラの)女にあれよあれよと誘惑されて落ちるところまで落ちていく(?)って話。匿名で書いて一応フィクションってことにしてあったけど、あれって実際あの先生の実体験だろうなって思ったし、現実にもこういう話は「あるある」だからリアリティがある。
その他、私が個人的に(いい意味で)引っかかった点は、
主人公の友人〈膝〉(名前変過ぎ!)が、おそらくアル中で、その彼が「酒なんて飲むもんじゃないよな。でも飲んじゃうのは仕方ないと思うんだ。どこにでも売ってるんだから。誰でも簡単に買えちゃうのがいけないんだよ。たとえば、ビールが一缶一万円くらいしたとする。それなら俺だって飲まないよ。いや、どうかな、約束はできないけど。一番いいのは、この世から酒がなくなって、…(以下割愛)」ってごちゃごちゃ述べてる場面。
この「酒なんてものが最初からなければ俺は飲まなくて済むのに」という主張が、なんとも、いかにも依存症者らしい責任転嫁ぶりで、気に入った(笑)。いや現実にこんな人が身近にいたら気に入っている場合じゃないのだけど、小説の中では可愛く思える。
つい先日、友人の一人が、一番安い保険のプランにしか入っていなかった状態で軽い物損事故を起こして予想外の支払いが発生してしまった状況で「最初から全部カバーする一番高いプランしか選べないようにしてくれたらいいのに!」と愚痴っていて、それとも似ているなって思ってしまった。自分の選択の結果なのに、それを選べてしまう環境とか状況に責任転嫁する何とも身勝手な人間な姿。
あと、このアル中の〈膝〉は、漫才もやっていて「ネタを書き始めると、何日か家にこも」り、「その時期は風呂にも入らないし、メシもカップラーメンとか、そういうのしか食わない」らしいのだけど、私もそんなことができる身分になりたいなーと思った。
私も本来なら、ひとたび小説を書き始めたら、人にも会いたくないし、外出たくないし、それこそ寝食の暇も惜しんで書きたくなるもんなんだ。だけど今の私には仕事もあるし子の世話もあるし教会の奉仕もあるし、社会との繋がりがつねにある「真人間生活」をしてるから、なかなかそこまで自分の世界や殻にこもるってことが難しくて。けどそれは同時に芸術性を犠牲にすることでもあって、そうやって社会人としてまともに振る舞える自分を残している限り、100%文学に没頭することは難しい、不器用な私の場合はね。社会においてまともであればあるほど、文学としては酷く凡庸でつまらないものしか書けない。
社会性と文学性(あるいは芸術性)って反比例の関係なんじゃないかと思う。純文的な脳ミソになればなるほど外では生きづらくなって、社会不適合を起こしていく気がするから。どうしたものやら。
って本題の書評的な内容から話が逸れてしまったけど、そういった余談に導くような小ネタも散りばめられていて、面白い作品でした!
