20260326

津原泰水「夢分けの船」を読了した。
この本は発売直後に買った津原先生最期の長篇である。
まだ彼を亡くしたことを受け入れられないままの状態で買い、読む事が出来ていなかった。

今回の入院に当たって、本を何冊か持っていくことにしたのだが、とても自然な成り行きで、この本はラインナップに加わった。
他にも積んでる本はたくさんある、それにも関わらず、この本はごく当然の顔で鞄の中に収まった。
怪我をして歩けなくなり、リハビリを経て徐々に歩けるようになる中でアクシデントとして起きた再手術。
これが無事に終われば、私はまた船出することが出来る。今度は遠く、うんと、遠くまで。
そのための、今この瞬間の、読書体験だった。

「夢分けの船」は、純然たる青春小説だ。
常に黄色い日差しの温もりの中で夢を見ているような風合いをしていた。
書かれた時代によるものなのか、明治時代の文章を用いているからなのか、主人公たちの歳の頃を置いてきてしまったからなのかは判然としない。全部かもしれない。
青春小説を、懐かしいと思いながら読む日が来るだなんて!
いつもなら薄い、フィクションという膜越しに成される読書体験を飛び越してしまった。
音楽に傾倒した日々はなかったというのに、その眩しさはいつか、逆光のなかで写真を撮ろうとするような心地だった。
誰にでもある、ありふれた、懐かしい記憶の手触りをしていた。

読書のほかはリハビリの再開があった。
術後、夫が初めての見舞いにやって来て、パソコンを持って来てくれた。
少しづつ次作を書き進めている。
身体は、傷痕が痛い以外は元気にしている。
化膿する可能性があるとかであまり血糖値の上がるものを摂取しては駄目だと言われてしまったが、主治医はOKだしてるのであまり神経質にならなくていいだろうと思っている。
例えば二日に一回カフェオレを呑むとか、たまの見舞いにドーナツを買ってきてもらうくらいならば。
あとは、村上春樹訳の「グレート・ギャッツビー」を病院の休憩室で見つけたので読み進めている。

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