【12R】昼休憩
ただのカレーが、希望に見えた日
「よし、昼休憩にするべ」
1歳厩舎に場長の声が響く
ブラッシングしている馬からリードを外して、馬房の外に出る。気づけば昼休憩の時間になっていた。
まだ胸は痛む。ただ噛まれただけだからわざわざ報告はしない。
結局のところ厩舎の半分もブラッシングを終えることはできなかった。できて5頭ほどだった。
まだまだ、性格の知らない1歳馬達がたくさんいる。
これからまだまだ知れることにワクワクしながら、厩舎の棚にブラシを片付ける。
やっと昼休憩だ。
朝は6時から仕事をしていて、今は11時45分。これから13時までが昼休憩。
厩舎の外に出ると、みんな車に乗って牧場を後にしている。
そう、昼休憩になるとみんな一旦家に帰って昼休憩を取るのがこの牧場のスタイルだ。
それを知らなかった私は場長に質問する。
「社宅に帰っていいんですか?」
「帰らねぇと、昼めし食えねぇからな」
たしかにそうだが、一般的な会社では、家にわざわざ帰りはしない。それが新鮮で不思議な感覚だった。
そう言うと場長は車に乗って家に帰っていった。
砂利道を走り去る車の音が消えると、急に風の音だけが耳に届いた
自分も社宅に帰るか
私の社宅は1歳厩舎から一分もかからない場所にある。厩舎のすぐ目の前だ。
歩いて社宅に戻る。
玄関で長靴を脱いで、部屋に上がる。
一気に緊張の糸が、途切れて疲れが襲ってくる。
朝6時から気を張りっぱなしだった分、疲労と睡魔が、襲ってきた。
「とりあえず昼食を食べて、エネルギーは蓄えないと」
レンジにサトウのご飯を入れて、ボンカレーを湯煎する。
ただ出来上がるのを待つだけ
『昼飯を食べないといけない』と自然に思った自分に驚く。
1人でご飯を食べることには慣れていた。
実家にいる時は、いつも1人でご飯を食べていた。
なにも始まることがなく、なにも終わらない日々を過ごしていたあの頃、母親が作ってくれたご飯を食べるだけで少し罪悪感があった。
そんな自分が、今は馬に噛まれながら生きている。
朝から仕事を終えて、昼からの仕事に備えて、エネルギーを蓄えるためにご飯を食べる。
たしかにそこには希望があった。
出来上がったカレーをかっこむ。
初めての一人暮らしの料理は、レトルトカレーにパックご飯。ただのレトルトカレーなのにものすごくおいしく感じた。
このまま仕事着で眠るのは汗が気持ち悪い。
シャワーを浴びるために服を脱ぐと左胸の一部が紫色に変色しあざができていた。
シャワーがしみる。
軽くシャワーを浴びて部屋着に着替えて、布団にはいる
今は12時ちょうど
「あと50分は寝れるな。」
アラームをセットし昼寝にはいる。
すぐアラームがなる。
体感10分。
爆睡していた。
もう12時50分、急いで仕事着に着替えて、社宅を飛び出す。
あまり休んだ気にならない初めての昼休憩だった。
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