読了本感想㉔『バレエ・メカニック』/津原泰水
津原泰水の作品は『綺譚集』以来の二冊目でした。
『綺譚集』を読んだ時にも思ったのですが、この人は本当に文章が上手だし、発想もものすごく豊かだな、という印象でした。
もちろん、まだ二冊目なので偉そうなことは言えませんが、何故これほど才能のある人が一般的にはあまり有名ではないのだろう? エロ・グロみたいな表現も多いので読者を選ぶのかもしれないけれど、それにしてももっともっと知られてもいい作家ではないのかな、と、そんなことを思いました。そして、2022年に若くして亡くなってしまったことが、本当に悔やまれる作家だな、と。
本作も本当にぶっ飛んだ内容でした。
物語の序盤から次々と不可思議な現象が主人公の周りで起こり始める訳ですが、海もないのに津波がきたり、ビルほどの大きさの巨大な蜘蛛が街の中を徘徊したりと、その内容はものすごく突飛で、もはや小説の枠を超えており、いい意味で漫画やアニメ的でした。加藤清正のブロンズ像が襲い掛かって来るところなどは、私は思わず漫画『GANTZ』のことを思い出してしまいました。
もちろんこれも誉め言葉ですが、この人は発想のリミッターが壊れているんじゃないだろうか、と思いました。何にも縛られることなしに、自由自在に書きたいことを書いている、といった印象を持ちました。そして、こんな風に小説を書けたらきっと楽しいだろうな、と思うと同時に、もちろんこれは、こんなぶっ飛んだ発想をも正確に文章で表現できる作者の技量あってのことなので、真似しようと思ってもなかなか真似出来るものではないだろうな、とも。
ハヤカワ文庫から出ていますし、本作をもしジャンル分けするならば、当然「SF」というくくりになるとは思うのですが、ジャンル分け、という行為自体が、津原泰水の作品には馴染まないのではないかと思いました。ジャンルで縛ることがこれほど難しそうな作家というのも、珍しいのではないかと思いました。(本人は自分の作品は全て広義の幻想小説だ、と言っていたそうですが)
事実、彼の作品は、幻想小説、ミステリ、ホラーなど、様々なジャンルとして発表されてきたようですし、様々なジャンルを好む読者層に愛読されてきたようです。
……本来はこれが理想なのかもしれません。
もちろんこれは才能のある人限定の話なのですが、ジャンルなど気にせずに書きたいものを書いて貰い、出来上がってきたものがSF的ならSFとして、エンタメ的ならエンタメとして、発表、販売することが出来れば、作家にとっては一番いいのではないかと思うのです。
ジャンル分け、などという無粋なものは本来は後付けであるべきであって、作家にはそんなことは気にせずに自由に書いて貰ったほうが、いいものが出来るのではないかと思うのです。
……いっそジャンル分けなどやめてしまったらどうなのだろう? と、そんなことも私などは思うのです。
ですが、そうなった世界を少しだけ想像してみたところ、本屋に行ってもどの棚を見ればいいのか分からないし、内容が全く分からないまま高い本を買うのはなかなか勇気がいりそうですし、作家側にはいいこと尽くめかもしれませんが、我々読者側には不便なことも多そうですので、あまり現実的ではないのかもしれませんが。
あ、いえ、ですが、ジャンルも分からないまま本を読む、という体験も、考えようによってはなかなか面白いかもしれません。物語の途中で突然登場人物が殺されて、あ、なんだ、この本はミステリだったのか、とそこで初めて気づいたりするのも、なかなか興味深い読書体験にはなりそうです。そういえば何年か前に、表紙を隠して販売する文庫本のことが話題になったという記憶もありますし。
こんな風に考えてきますと、やはり、「純文学」というジャンル分けは案外いいものなのかもしれません。「純文学」自体の定義が曖昧すぎて、内容がどんなものでも許されるような、そこに何が書かれていても平然と読者も受け入れてしまうような、そんな雰囲気があるからです。
ただ、これも、「純文学」という言葉を聞いただけで敬遠してしまうような人も中にはいると思いますので、良し悪しなのかもしれませんが……。
とにかく、本当に面白い作品でした。
SF好きも、普段純文学しか読まない人も、漫画やアニメ的な表現な好きな人も、様々な人が楽しめるジャンルレスの作品だと思いますので、是非とも読んでみて欲しいです。
あと、別ページで大喜利しています。こちらも是非。
