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公園のパフィン 8 「知恵と勇気と 滑走路」

これまでのおはなし
1 高原・きゃべつ ともうします
2 カンリキョクはいじわるです
3 さわがしいりすと 美人のハクビシン
4 麦のおかゆはよく効きます
5 ぺコリーナ・ポコリーノ
6 にぎやかな水生園
7 ふかふかの動物園

ある日、わたしが駅で出会った小さなうさぎ。
たったひとり、住み家をさがして旅をしていました。
パフィンという名前をもらい、公園での暮らしが始まります。
でも、すべての森と園をめぐらなければ、本当の仲間にはなれません。
西の森と水生園をたどり、動物園へ。
つかまって閉じこめられてしまいましたが
ラビットショーのうさぎたちが脱出させてくれます。

ぼく、跳びます

 うさぎの仲間たちを後にして、ぼくは空気入れかえ穴の中を進みました。
 つるつるした細いトンネルで、まっくらです。
 耳をぴんと立てて、かすかな音をさぐりました。
 穴はまっすぐ続いて、先で行き止まりになっているようです。

 前のほうがぱっと明るくなりました。
 びっくりして、しりもちをついてしまいます。
 トンネルの先、行き止まりと思っていたところが開いたのです。
 むこうからもれてきたのは、それほど強い光ではありませんでしたが、
まっくらに慣れた目にはまぶしく感じました。
 その明かりをバックに、細長い姿がゆらりと揺れてぼくを招いているように見えます。
 サールバドールでしょうか?
 東の森の王様が来てくれたのでしょうか?

「よーく考えてみると」
 ゆったりとした声がしました。
 うさぎ語です!
「おとなりのうさぎ舎から、通風孔を伝って、だれか一匹わたしのおうちにやって来た、と思うんだけれど。これ正解?」

 この声がきっと、ナガコさんです!
 ナガコさんもうさぎなんでしょうか?
 ぼくは残りのトンネルをいそいで進みながら言いました。
「こんにちは! ぼく東の森から……」
 言いかけてつるっと滑り、穴の出口から飛び出してしまいました。
 落っこちる!
 と思った瞬間、どん、と力強いものに支えられます。
 灰色の、ざらざらした、太くて長い大きな大きな……
 それはぼくをやわらかく巻いて、宙に持ち上げています。
 それは目の前の大きなお顔につながっていました。
 目があるから、お顔だとわかります。
 優しそうで賢そうな、人間のような目です。

「あなたはゾウをはじめて見たとおもうけれど、これ正解?」

 ゾウ!
 今日は一日びっくりすることばかりでしたが、これは特大級の驚きです。
「え、え、正解です」
 やっとのことでそう言うと、ゾウは鼻をそっと下ろして、ぼくを床に立たせてくれました。
 下から見ると、ますます大きな体です。
 その向こうに見える天井は高く、お部屋はとてつもなく広く、大木のような柱がいくつもあります。

「さあ、落ち着いてね。わたしはゾウのナガコ。わたしは長く長ぁく考えるの、だからけっしてまちがえない」
 ナガコさんは歌うようにそう言いました。
「ぼく、東の森から来たうさぎのパフィンです。
ナガコさん、どうしてそんなに上手にうさぎ語が話せるんですか?」
 ふふふ、とナガコさんは笑って長い鼻をゆらしました。
「おとなりさん、いつもショーでごいっしょする仲良しよ。
うさぎの言葉、わかりたくて長く長ぁく考えたの。
そうしたらわかった、耳をすましてよく聞いて、お鼻をつぼめて似た音を出せばいいって。これ正解!」
 ぼくは感心しました。
「ぼくも、いろいろな言葉がわかればいいなあ。そうしたら、それぞれの言葉でごあいさつできるのに」
 ぼくは今までのことをお話ししました。
 公園にやってきたところから、うさぎのみんなが空気穴に押し上げてくれたところまで。

 ぼくをじっと見つめながら、しずかに聞いてくれたナガコさんはうなずきました。
「ということは、はやくここを出発しないと、公園めぐりを終えられないのね? では、鍵のかかったゾウ舎を出て、外の運動場を横切って、お堀と高い柵をこえて、外に出なければ……」
 ナガコさんの言葉を聞きながら、ぼくはどんどん目が丸くなっていったのだと思います。
 鍵? 柵? お堀? 
 ここから出るのがそんなに大変だなんて!

 ナガコさんが心配そうに見たので、はっとしました。
「大丈夫です、うさぎ一匹出られる穴がどこかにあれば……」
 ナガコさんは鼻を左右に振りました。
「いいえ。わたしは長ぁく考えてみる。正解があるはずよ」
 そして、目をつむって考え始めました。

 ナガコさんはなかなか目を開けません。
 ぼくはお部屋を見まわしました。
 ひとつの面は厚いガラス窓がついていて、むこうは真っ暗です。
 ふたつの面はがんじょうそうな壁、もうひとつの面にはぴかぴかした金属の棒が並んでいて、そのむこうにも大きなお部屋があるようでした。でも、こちらも真っ暗です。
 うさぎなら棒の間をすり抜けられそうですが、その後はどうしたら出られるのかわかりません。

 考えこんでいるナガコさんの頭上、高い天井には窓とランプがついています。
 うす明かりを浴びて、まるで彫像のように見えるナガコさんが、ふと目をひらきました。
「正解! ひらめいた」
 うれしそうに言って、ぼくにほほえみました。
 ずん、ずん、と歩き出します。

 ナガコさんは、鉄の棒でしましまになっている壁の、いちばん右のすき間から鼻を突き出しました。
「パフィン、棒の間から外に出て、わたしのお鼻に乗ってごらんなさい」
 何をするのでしょう?
 ふしぎに思いながら鉄柱をすり抜けて、ぼくは鼻の先にとび乗りました。
 ぐんぐん、と鼻のリフトが上がります。
 ちょうど人間のおとなの身長ほどの高さで、ナガコさんは鼻をぐっと右側に曲げました。
「そこにある、壁に引っこんだ小さなボタンを押せる? ゾウの鼻では難しいの」
 たしかにありますが、なかなか手が届きません。
 がんばって体をいっぱいに伸ばします。

 とどきました!
 かちっ!
 ボタンの下から銀色の横棒が、しゅっという音と共にせり出してきました。
「ハンドルが出てきたら、それを時計の針と同じ方に回すの。できる?」
 ナガコさんの声を聞いて、ぼくはまた手をぐっと伸ばします。
 うさぎの手でハンドルをつかむのはむずかしいですが、注意深く、押し上げ、押し下げて回しました。

 ごーん、ごーん、ごんごんごん……。

 床の下から低い音がひびいて、ぼくはどきっとしました。
 思わずナガコさんの鼻につかまると、それはすうっと動いて元どおり、お部屋の中に引っこめられました。

「大正解! カギは開いた。さあ、行きましょう」
 ナガコさんが言って、ぼくを床に下ろします。
 そして、棒の並んだ壁に向かってまっすぐに歩き出しました。
 額をぐっと棒に押しあてると、おどろいたことに、壁がそのまま外に向かって開いたのです。
 真ん中の棒を中心に、右の壁は外にまわり、左の壁は内にまわるのです。
 ナガコさんはゆうゆうと回転とびらを抜け、つぎのお部屋に出ていきます。

 となりは暗くてがらんとしていましたが、ナガコさんは迷いなく進んでいきました。
 向かいの壁を鼻でさぐり、何かのスイッチを見つけたらしく、がちっと音を立ててそれを押しました。

 ぐーん、ぐーん、ぐんぐんぐん……。

 今度は上の方からうなるような音がひびきました。
 ぼくの目の前、すうっと横いっぽんに白い線があらわれます。
 見るまにその線が太くなり、長い四角になります。
 上に向かって壁がせり上がったのです!
 ゾウ一頭が通れる大きな出口が開きました。

 むうっと暑い空気と湿気が押しよせてきます。
 目の前に広がるのはゾウの運動場、そしてその上に広がる夏の青い夜空でした。
 ナガコさんはのし、のし、と歩いていきます。
 動物園はもう閉まっているのでしょう、まわりには人っ子ひとりいません。

 運動場の端っこ、岩に似せた壁の前でナガコさんは立ち止まりました。「さあ、ここからが大変。このむこうは深いお堀と高い柵。パフィンはここから柵まで、自分の力で跳ばないといけない」

 ぼくは岩壁を見ました。
 手前に数本の、ひょろっとした木が植えてありますが、足場になりそうではありません。
 上に見える白い柵は、とても遠くに感じられました。
 あそこまで跳ぶことなどできるんでしょうか?
 もしお堀に落ちたら、と考えてしまいます。
 今度は、ベーブもカメも助けてくれないでしょう。
 もしもおぼれたら……。

 胸の中がどっきんどっきんしていました。
 ナガコさんが心配そうな、でも、ちょっときびしい目で見ています。
 そう、ぼくは勇気を出さなければいけないんです。

 東の森のおうちを思い浮かべました。
 ハナビさんがとびらをつけてくれた、三つも表札のあるおうちを。
 テロッテが走り回る楡の木、涼しく流れる小川を思い浮かべました。

「ぼく、跳びます」
 ふりあおいで、きっぱりと言いました。
「ぼく、ぜったいに東の森にもどらなくちゃいけないんです」
「正解」
 ナガコさんが微笑みました。

 白い柵に向かってジャンプするための滑走路を、ナガコさんが自分の鼻でつくってくれることになりました。
 おしりから鼻先まで、まっしぐらに駆けてジャンプします。
 充分な力があれば、ふみきりが正確なら、もしかしたら届く……
 いえ、きっと届きます。

 肩掛けかばんにはハナモモが十個ほど残っていました。
 ナガコさんがぺろりとひと口で平らげてくれます。
 ぼくは身軽になりました。

 さて出発です。
 ナガコさんが鼻でぼくを背中に乗せてくれます。
 岩壁を超えて白い柵へ、ぴんと鼻を伸ばしました。
 ぼくは深呼吸して、もういちど深呼吸して、そして……
 ダッシュ!

 走って、走って、もっと速く、走って、ふみきって、
 ジャンプ!

 ぽーんと放たれたボールのように、ぼくはお堀の上を飛んでいきます。
 ぐんぐん高くなり、ひゅーっと風を切り、
 星のちりばめられた空を横切って、
 遠く遠く。
 もっと遠く!

 ばすん、と脚のばねをきかせて白い柵に着陸しました。
 勢いでもうひとつ、ぽんと跳んで地面に降ります。
 成功です!
 やったぁ、と振り返り、とびあがり、
 柵の間から見えるナガコさんに両手を振ります。
 ありがとう! と叫びます。
 ナガコさんは鼻を大きく振って笑っています。
 きっと、正解、と言ってくれているのでしょう。

 ぼくはもう一度とびあがって手をふり、そして駆け出しました。
 青い夏の夜の下を、いちもくさんに。
 帰りたい場所にむかって。
 

予想外のできごと

 そして……。
 パフィンからわたしが聞いたところでは、動物園を後にし、東の森に帰ってくるまでがまた大変だったようです。
(ひょっとこおじさんが追いかけてきたり、ひろばが盆踊りの人々でいっぱいだったり)
 ともかく、真夜中には楢の木に帰り着くことができました。
 ほっと安心し、葉っぱのお布団に倒れこんで、きゅーっと眠りこんでしまったとか。
 だから、翌日お昼にテロッテに起こされるまで、ぜんぜん知らなかったというわけです。
 つまり……表札が四枚に増えていることを。

 
 太陽の真下、汗をふきふき東の森にやってきたわたしは、巣箱のおうちから頭をつき出してテロッテと話しているパフィンに声をかけました。
「お帰り! 公園めぐりはどうだった?」
「ハナビさん、見てください、すごいんですよ!」
 パフィンはたいそう興奮したようすで目を輝かせています。
 そこでわたしは四枚目の表札に気づいたのでした。
「どうだどうだ! テロッテテロッテ!」
 やかましいりすが言います。
「公園じゅうのボスたちのお墨付きだい! たいしたもんだ!」

 十センチ四方ほどの薄い木の板でした。
 爪あとのような、噛みあとのような、複雑な模様が記されています。
 わたしには読めません。
「なんて書いてあるんだい?」
 仕方なくテロッテに尋ねます。
「ふふん」
 りすは得意げに鼻を天に向けました。
「いいかい、こうだよ。
 我々はパフィンの努力をみとめ、東の森への居住を許可する……東の森、へびのサールバドール。西の森、オオタカのコノハ。水生園、スッポンのノブオ。動物園、ゾウのナガコ」
「オオタカ? スッポン? ゾウだって?」
 わたしはあっけにとられました。
「パフィン、それはいったい、どういうこと?」
「聞いてください。ハナビさん!」
 パフィンは木の家から身を乗り出します。
「ぼくね、カメさんやナガコさんがボスだなんて知らなかったんです。オオタカさんまで見守っていてくれたなんて……」
 そこてわたしはパフィンの公園めぐりのお話を、あたまからしっぽまでまるまると聞いたのでした。
 
 このようにして、パフィンは東の森のひとりとして認められました。
 やれやれ、ひと安心……と、わたしも胸をなでおろしたのです。
 まさか、パフィンが新しい表札をもらった次の日に、あんなことが起こるなんて予想もしていませんでしたから。

 その日も朝からお日さまが力いっぱい輝き、森ではセミがはりきって鳴いていました。
 午後にはとてつもなく気温が上がりそうです。
 わたしは朝のうちに公園をたずねました。
 わたしはパフィンに、学校で行う動物語の演劇に出演してもらえないか、とたのみに行くところでした。
 本物のうさぎに出てもらえたら、とてもすてきなお芝居になるでしょう。
 でもその日、わたしは頼みごとをすっかりわすれてしまいました。
 それどころではない事件が起こったのです。

つづく

これからのおはなし
9 ダム事件
10 おじさんは踊り わたしはひらめく
11 バールとビー玉
12 がんばれがんばれ、つるかめつるかめ
13 そして、水は

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