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【作品解説】「ない」という場所に住む者の物語~幻想譚「嫌われ者」

幻想譚「嫌われ者」を読むとき、まず目につくのは「夢」という言葉の扱われ方だ。だが、ここで語られる夢は、一般的な希望や目標とはまったく別の質感を持っている。むしろ、主人公にとって夢とは『持ったことがないもの』であり、 その欠如こそが彼の存在の根っこになっている。

彼は「ない」を受け入れている。
それは諦めではなく、むしろ自分の輪郭を形づくる静かな事実として。

「そんなものないし、そもそもからなかったし、これからもない」

この詩のような反復は、彼の世界の中心にある空洞を、 まるで呪文のように確かめる行為だ。

一方で、彼は「夢を叶える側」に廻る。
自分には夢がないのに、他者の夢を叶える。それは矛盾のようでいて、だからこそ生きていく術としての唯一の現実でもある。
しかし夢を現実に変えた瞬間、それはもう夢ではなく現実になる。だから彼は嫌われる。 夢を叶える者は、また夢を壊す者でもあるからだ。

この作品の面白さは、 主人公が幻想の側に立っているのに、 語り口が妙に現実的である点にある。

彼は「現実の世界に行きたかった」と言う。しかし夢がないために、幻想の側に留まり続ける。その姿は「幻想の世界でしか生きられない者」の静かな哀しみを帯びている。

作品に登場する女は、 彼の「ない」という世界に寄り添う存在だ。
彼女もまた夢を持たない。だからこそ、ふたりは同じ暗がりの中で体温を確かめ合う。名前も過去も未来もいらない。ただ「ない」という共通項だけが、 ふたりをつなぎ止めている。この作品は、夢を持つことの価値を語らない。 むしろ、夢がないという状態を肯定する。

夢がないからこそ、幻想の側に立ち続けられる者がいる。 夢がないからこそ、誰かの夢を叶えることができる。

そして最後にふたりが声を合わせる
「そんなものないし、そもそもからなかったし、これからもない」
という言葉は、 欠如の宣言であると同時に、 ふたりが共有できる唯一の『現実』でもある。
しかし、その姿はどこか楽しそうだ。
「ない」という世界でしか出会えないふたりが、 その暗がりの中で、確かに生きているからだ。

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