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秘密結社velvet編|エピソード楔(Kusabi) Vol.3 ~招かれざる来訪者~


つたが殺害されてから、
ひと月ほどが経過しようとしていた、ある日―


velvet本部に招かれざる二人の姿があった。

セントラル治安庁・特殊事案捜査室のしいぶな
二人は、velvetの中枢へと足を踏み入れていた。


セントラル治安庁・特殊事案捜査室 しいぶな




応接室の重厚なソファに腰を下ろしていたのは、
velvetを支える三人の幹部——

velvet三極。

統制局・局長のくさび
制圧局・局長のうてな
そして、特務局・局長のいろは


くさび
うてないろは


「わざわざ特殊事案捜査室の方々がお越しになるなんて、大層なことね。どんなご用件かしら」
不敵な笑みを浮かべながら、くさびが口を開く。

「こちらこそ、幹部の方々が勢ぞろいで迎えてくれるとは…光栄なことで」
特に動じる様子もなく、しいが返した。

その直後、ぶなが間髪入れずに口を挟む。
うてな局長には感謝しておかなくちゃね、先日のマフィアの密航船の件では、こちらに随分と助かる形で動いていただいたようで…」

「別に、そちらを助けたつもりはないけど。結果的にそうなっただけじゃない?」
うてなは、軽く肩をすくめながら答えた。

その会話を遮るように、くさびは静かに声を上げる。

「それで、本日のご用件は何かしら?しいさん」
穏やかな口調。
だが、その声には先ほどよりも明らかな圧が宿っていた。

しいの目つきが、一段鋭くなる。
「そうだな。単刀直入に言おうか」

応接室の空気が、わずかに張り詰めた。



「ひと月ほど前、エリアE-4の繁華街にある路地裏で一人の記者が殺害された」
しいは、くさびから目を逸らさない。

「被害者の名前は、つた


その名を聞いても、いろはの表情は変わらない。
あの時、学園で忠告した記者。
その名前を、いろははこの場で初めて知った。

だが今のいろはは、velvetの幹部としてここに座っている。
治安庁の二人を前に、僅かな反応すら見せるわけにはいかない。

しいは続ける。
つたは事件直前までラグズフォート学園に潜入し、取材を行っていた。取材内容は――学園における汚職事件の疑惑」

「……それで?」
くさびは変わらぬ笑みを浮かべたまま、静かに問い返す。
「その記者の方が亡くなられた事件と、私どもvelvetに、どのような関わりがあるのかしら?」



くさびしい


「ラグズフォート学園と、velvetに繋がりがあることは確認している」
しいは、迷いなく言い切った。

だが、くさびは動じない。
「そう…」
ただ一言。
まるで初めから隠すつもりなどなかったかのように。

「今日ここへ来たのは、その事実を確かめるためじゃない」
しいは続けた。

つたは、学園に潜入していた。
その中で学園の背後にいる存在へ辿り着いた」


応接室の空気が静かに冷えていく。

「そして、その直後に殺害された」
しいの目は、くさびを捉えたまま離れない。

「こちらが何を疑っているか、わざわざ言葉にしなくても分かるだろう」

「ええ。そうね…」
くさびは、ゆったりと脚を組み直した。

「学園と私どもに繋がりがある。その記者の方が学園を調べていた。
そして、その方が亡くなられた…」
くさびは、ひとつひとつの事実を丁寧に並べる。

「その事実を繋ぎ合わせて、私どもが関わっていることになるのかしら?」

しいの眉が僅かに動く。
「関係がないとは、言わないんだな?」

「何に対しての関係を問われているのかしら?」
くさびは微笑んだまま問い返した。

「学園との繋がりを仰っているのであれば、否定はしないわ」
くさびのその声は穏やかだった。

「ですが、記者の方の死について何をお尋ねになりたいのか?私にはよく分からないわ」

くさびは否定しない。
だが、認めもしない。

答えを避けているのか。
あるいは、本当に何も知らないのか。

それを判断するだけの証拠を、しいたちはまだ持っていなかった。

「随分と、巧くかわすんだな」
しいが低い声で呟く。

「そうかしら…」
くさびは、穏やかに笑った。
「問われたことに、お答えしているだけよ」



その言葉に、いろはは黙ったままくさびを一瞬見た。

――やはり、何かを知っている?

そう思わずにはいられなかった。
だが、確証はない。

つたが殺害された夜。
くさびが誰かを動かした証拠も、誰かへ命令を下した記録も、何ひとつ掴めていない。

疑うことはできる。
けれど、追及するための決定的な一手がない。

その事実が、いろはの胸の内に鈍い焦りを残していた。



一方、うてなもまた、何ひとつ表情を変えることなく座っていた。

くさびが、つたの殺害に関わっている。

そんなことは考えたくなかった。

確かに、くさびは目的のためなら冷徹な判断も下す。
velvetを守るためなら、非情な選択をすることもあるだろう。

それでも、口封じのために誰かを消すような真似までするとは信じたくはない。

ただ――

くさびは一度も、つたの死との関わりを否定しなかった。

その事実だけが、うてなの胸の奥に静かに残った。

けれど、その思いが表に現れることはない。
今、この場にいるうてなはvelvetを背負う幹部の一人だ。



「さて…」
それまで沈黙していたぶなが、静かに口を開いた。

「学園とvelvetに繋がりがあることは、否定されないのね」

「否定する必要があるのかしら?」
くさびは、ぶなへと微笑みを向ける。

「こちらとしては、その繋がりの中身にも興味があるのだけれど」

「それは、今回の事件と直接関係のある質問かしら?」

「関係があるかどうかを調べるのが、私たちの仕事なので…」
ぶなの柔らかな口調に、ほんの僅かな鋭さが混じった。


「でしたら、どうぞご自由に」
くさびは、微塵も動揺を見せなかった。

「ただし――」
くさびの声が僅かに低くなる。

「疑念だけで私どもの領域へ踏み込まれるのであれば、相応の覚悟を持ってお越しいただけるかしら」

しいの目つきが一段鋭くなった。
「脅しか?」

「…まさか」
くさびは優雅に微笑んだ。

「…忠告ですわ」




――その日。

しいぶなは、くさびたちから決定的な言葉を引き出すことはできなかった。

疑念は残った。
確信に近い感触も、確かにあった。

だが、つたの死にvelvetが関わっていることを示す証拠はない。

一人の記者が命を落とした事件は、
その真相へ辿り着けぬまま、静かに暗礁へと乗り上げていった。

けれど――

この日、velvet本部で交わされた言葉は、
その場にいた者たちの胸の内に確かな爪痕を残していた。


つづく—





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