カミュ『ペスト』読書会──不条理の中で、人はどう生きるのか
2026年6月28日(日)、仙台市内にて「読書会アパート3号室」第28回を開催しました。
参加者は主催者を含めて12名。今回も初参加の方を3名お迎えし、大盛り上がりの3時間となりました。
自己紹介と「最後の晩餐は?」
今回も最初は自己紹介から。
参加理由とあわせて、
「もし人生最後の食事を選べるなら、何を食べたい?」
というテーマで一人ずつ話していただきました。
お寿司、白飯とみそ汁、家族と手巻き寿司、高級ワイン、塩鮭定食、カツオの藁焼き……などなど
「最後の晩餐に食べたいもの」と、その日着ていた服の色が偶然一致する人が続出。思いがけない偶然に会場は大きな笑いに包まれ、一気に和やかな空気になりました。
そんなアイスブレイクのおかげで、今回も初参加の方を含め、リラックスした空気の中で読書会がスタートしました。
課題本は『ペスト』
今回の課題作品は、アルベール・カミュ『ペスト』。

コロナ禍を経て再び注目を集めたこの作品ですが、実際に読んでみると、「感染症の小説」というイメージだけでは語り尽くせない、人間そのものを描いた作品でした。
「難しかった。」
今回もっとも多く聞かれた感想がこれでした。
「読むだけで一仕事だった。」
「一人だったら途中で挫折していた。」
「コロナ禍にも挑戦したけれど読めなかった。」
そんな声が次々に上がります。
一方で、「読んでよかった。」
「最後の10ページは読み終わるのがもったいなくて少しずつ読んだ。」
という声も。
また、
「パニック小説だと思っていたら違った。」
「感染症を描いた作品というより、人間を描いた群像劇だった。」
という感想も印象的でした。
ペストそのものよりも、その状況の中で人がどう生きるのか。
リュー、タルー、ランベール、グラン、コタール、パヌルー神父──それぞれが異なる価値観を持ちながら、不条理に向き合っていく姿に、多くの参加者が惹かれていました。
グループに分かれての対話
前半は3つのグループに分かれて感想共有。
作品を読み終えた印象はさまざまでしたが、多くの人が話題にしていたのはリュー医師でした。
「リューは現場の人。」
「ランベールから『あなたは抽象の世界に生きている』と言われる場面が印象的だった。」
目の前の患者を救うことに追われ、愛について考える余裕もない。
理想や理念ではなく、ただ目の前の人を助け続ける。
そんな姿に、東日本大震災やコロナ禍の医療現場を重ねた参加者もいました。
また、「英雄が世界を救う物語ではない。」という声も。
派手なヒロイズムではなく、それぞれが自分の役割を淡々と果たしていく。その積み重ねによって、人間の誠実さが描かれている作品なのではないか、という意見も出ました。
休憩を挟み、後半はグループを入れ替えて2グループに分かれて再び対話へ。
今度は作品の哲学的なテーマへと話は広がっていきます。
「抽象」と「具体」
今回、何度も話題になったキーワードが「抽象」と「具体」でした。
実際にコロナ禍の医療現場で働いていた参加者からは、
「患者さんが病院を抜け出そうとすることもあった。」
「外にいる人にとってはコロナは抽象だけど、現場では毎日が具体だった。」という実体験が語られました。
ニュースで見る感染症と、目の前の患者。
その違いは、『ペスト』の中でランベールがリューに投げかけた言葉とも重なります。
また、東日本大震災を経験した参加者からも、
「現場はとにかく目の前のことを回すしかない。」という話がありました。
不条理は、遠くから見れば抽象的な出来事でも、その只中にいる人にとっては極めて具体的な現実。
『ペスト』は、その「現場」を描いた小説なのだという読みが共有されていました。
英雄ではなく、誠実に生きる人たち
今回、特に人気だった登場人物がタルーでした。
「理想主義者。」
「潔癖すぎる。」
「厨二病と言われていて笑った。」
という声もありつつ、
「聖者になろうとしていた人。」として語る参加者もいました。
人を傷つけずに生きたい。汚れずに生きたい。
けれど、人は誰しも誰かを傷つけずには生きられない。
その矛盾に苦しみ続けたタルー。
そんな彼が最後に救われたのではないか、という解釈も語られました。
また、リューの母の存在についても話題に。
多くを語らず、ただそばにいる。
その静かな包容力が、タルーに慈悲を与えたのではないかという読みもありました。
一方で、えんどう豆を鍋から鍋へ移し続ける老人も印象的な人物として何度も話題になりました。
一見、意味のない繰り返しに見える日常。
けれど、その淡々とした営みの中にこそ、タルーは聖性を見いだしていたのではないか。
世界を変える英雄ではなく、日々を繰り返し誠実に生きる人。
そんな人間への眼差しが、『ペスト』全体に流れているように感じられました。
人間讃歌としての『ペスト』
『異邦人』を読んだときには、
「カミュって人間に興味がない作家なのかな。」と思っていたという参加者もいました。
しかし、『ペスト』を読み終えて、その印象は大きく変わったそうです。「人間って悪くない。」
「名もない人たちにも優しい視線を向けている。」
「これは人間讃歌なんだと思った。」
そんな感想がいくつも聞かれました。
また、「コロナ禍や東日本大震災のあと、この作品が世界中で読まれた理由がよく分かった。」という声も。
ペストは終わっても、また戻ってくるかもしれない。
不条理はなくならない。
それでも、人は生きていく。
『ペスト』は、「死ぬかどうか」ではなく、「どう生きるか」を問い続ける作品なのだということを、改めて感じる読書会となりました。
「今日の感想」
最後に、参加者のみなさんに「今日参加してみてどうだった?」と聞いてみました。
・登場人物もテーマも多くて話し足りないくらいだった。『異邦人』の印象とは違い、人間の善性を信じている作品だと思った。
・カミュは人間が好きなんだと感じた。名もない人たちへの眼差しが印象的だった。
・「愛するものと引き離されることほど価値があるものなんてない」というリューの言葉が心に残った。
・読むだけでも大変だったが、みなさんの話を聞いて自分の考えが整理された。
・医療従事者の話を聞き、えんどう豆の老人への見方が変わった。徒労に思えることにも意味があるのかもしれないと思えた。
・今までで一番難しい課題本だった。でも、一人ではたどり着けないところまでみんなで読めた気がした。
・名前のない人たちの人生に目が向くようになった。これからは周りの人や世界をもっと見ていきたいと思った。
・初参加だったが、自分では思いつかない読み方ばかりで、とても刺激になった。
・コロナ禍で挫折した作品をようやく読み切ることができた。アウトプットできてよかった。
・タルーに感情移入していた。「世の中とうまく折り合いをつけられない人」として読んでいたので、今日の話がとても印象に残った。
・再読だったが、みなさんの話を聞いてさらに理解が深まった。また不条理な時代が来たら、この作品を読み返すのだろうと思う。
『ペスト』は決して読みやすい作品ではありません。
けれど、一人では気づけなかったことが、誰かの感想を聞くことで少しずつ見えてくる。
今回も、「読書会だからこそ読めた一冊」だったという声が多く聞かれました。
読書会のあとも、話は尽きず
読書会のあとは、近くのファミリーレストランへ移動して二次会へ。
「まだ話し足りない」という人がほとんどで、多くの方がそのまま参加してくださいました。
『ペスト』について語り残したことはもちろん、昨日配信した『スマホ時代の哲学』の話題にも。
そこから、それぞれがスマホとどう付き合っているのか、SNSとの向き合い方など、話は思いがけない方向へ広がっていきました。
気づけば二次会も2時間以上。一冊の本をきっかけに集まった人たちが、本の話に限らず、日々感じていることまで自然に語り合える時間となりました。

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次回の「読書会アパート3号室」は7月26日(日)。
谷崎潤一郎の『痴人の愛』を課題本に開催します。

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