【AIマンガ】不意打ちは、ずるいだろ

朝の台所というのは、たいてい戦場である。
トーストは焦げる。味噌汁は吹く。娘はスマホを見たままパンをかじる。父親はネクタイを締めながら「早く食え、遅刻するぞ」と言う。毎朝おなじことを言っている。言わずにいられないのであった。
慎一は毎朝、飯を作る男である。妻はもういない。だから作る。理由はそれだけだ。トーストを焼き、味噌汁をこしらえ、ほうれん草をゆでる。誰にほめられるわけでもない。ほめられたくて包丁を握るような人間は、たぶん三日でやめてしまう。
ところがその朝、陽菜がぽつりと言ったのである。
「お父さん。いつもごはん作ってくれて、ありがとう」
シーン……である。
壁の時計の秒針だけがコチコチ鳴っている。慎一の箸が止まる。頭の中がまっしろになる。それでようやく出てきた言葉が「……お、おう」だけだったのだから、四十年生きた男の語彙などたかが知れているのであった。
娘のほうはあっさりしたもので、「じゃ、行ってきます」と出ていく。カチッ、と玄関の音。
その音を聞いてから、慎一は泣いた。ティッシュを一枚つかんで、ズビッとやった。うさぎのゆきがベレー帽をかぶったまま、不思議そうに見上げている。
「……不意打ちは、ずるいだろ」
まったくそのとおりなのであった。
人間、正面から来るものにはだいたい耐えられる。怒鳴られても、無視されても、こっちが身構えているぶん、なんとかしのげる。ところが不意打ちだけはどうにもならない。しかも十四歳が、朝の食卓で、目も合わせずに、味噌汁の湯気ごしに言ってくるのである。卑怯である。ずるい。
思うに、家族というのは毎日の同じことでできている。同じ時間に起きて、同じ味噌汁をよそって、同じ小言を言う。その繰り返しは、ふつう誰にも数えられないまま流れていく。それを一言で数えてしまう子どもがときどきいる。父親はそこでたいてい、やられるのであった。
だから慎一は、明日の朝もまた味噌汁をつくるのだろう。ほうれん草をゆでて、トーストを焼いて、そしてまた「早く食え、遅刻するぞ」と言うのだろう。ずるい不意打ちを、また待ちながら。
読んでくれてありがとう。この父娘の話、まだしばらく続きます。

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