遠回しさん/慎重くん【2】何者
【あらすじ】
綾瀬と狭山は書店のアルバイト。初めてシフトが被った日、二人は同じ小説が好きだと知った。
それから、何日か経った。
綾瀬と狭山は、アルバイトの合間に言葉を交わすようになっていた。
ある日の夕方。
狭山がレジ作業をしていたのを見つけて、
綾瀬が隣に行く。
「手伝います!」
「ありがとうございます。」
狭山は軽く頭を下げる。
……真面目だなあ。
綾瀬は見えないようにして、そっと口もとを緩めた。
「あっ、そうだ、狭山さん。」
「はい。」
「この前の『ノルウェイの森』なんですけど……」
狭山は黙ってうなずく。
「村上春樹で、一番好きなんですか?」
「うーん。難しいけれど、たぶん。」
「たぶん、なんだ?」
「いや、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』もいいから、迷っちゃって。」
綾瀬は思わず、笑みをこぼす。
「正直なんですね。」
「友達からは、慎重すぎって言われる……」
そう言って、狭山は頭をかいた。
「じゃあ、ほかの作家は?」
「……朝井リョウとか。」
「え、ちょっと意外かも。」
「『何者』は、面白いですよ。読後感がまた、あとを引く感じで。」
「あっ、わたしも読みました。SNSはあまりやらないほうなんだけれど、怖くなったな……」
「じゃあ、綾瀬さんはどの作家が?」
どうしようか少し考えたけれど、素直に答えることにした。
「……江國香織とか。」
狭山がじっと見るので、恥ずかしくなってしまう。
「おれ、実は読んだことないんですよ。」
綾瀬は「あっ」って思う。
「じゃあ、今度持ってきます。」
「えっ、いいんですか?」
「今度、シフトが一緒のときに。」
「ありがとうございます。」
店長が、綾瀬を呼ぶ声が聞こえた。
綾瀬は持ち場に戻っていく。
その背中を見送りながら、狭山は、まだ言葉を探していた。
綾瀬は、
なにを読んでもらおうか
そればかり、考えていた。
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