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つかこうへい『出発』 なぜ濱吉演出なのか

今回、演出に紙魚の濱吉清太朗さんを迎え、ドナルカ・パッカーンの川口典成はドラマトゥルクとして本作に関わります。

私(川口典成)が濱吉さんに演出をお願いしたのは、『出発』という戯曲を、既存の「つか劇」のイメージから一度解放し、テキストそのものから舞台を立ち上げてくれる演出家だと見込んだからです。

濱吉さんと初めて会ったのは、「知念正真『人類館』を読む!」という戯曲読解セミナーでした。時代や場所が飛躍する戯曲をリアリズムという観点から粘り強く読み進める姿勢、自らの読解を言葉にする言語化能力、戯曲を戯曲史のなかに位置づける演劇史的な視野、そして何より、ディスカッションのなかで安易に自らの考えを曲げない、ある意味での頑固さに、演出家としての魅力を感じました。

紙魚「ハムレット」(2024年)
紙魚「人形の家」(2024年)
中国成渝国際演劇祭参加作品

ちょうどその頃、私は日本近代戯曲を読み進めながら、ドナルカ・パッカーンという企画の中で、戯曲によっては、自分はドラマトゥルクとして作品に関わり、演出家との協働によって、戯曲の新たな可能性を引き出すという創作のあり方を選択しても良いのではないか、と考え始めていました。

前回のnote「新たな『つか劇』の種を探して」で、私は次のように書きました。

つかこうへいの戯曲を読むことは、案外難しい。テキストだけを読んでいるつもりでも、気づけば私たちは「つか劇」を読んでしまっている。……テキスト自体を読む、というよりむしろ、つかこうへいの「劇的さ」というイメージのフィルターを通して読んでいる、読んでしまっている。

新たな「つか劇」の種を探して

つかこうへいの演劇を同時代に体験してきた演劇人には、「つか劇」のイメージから自由になってテキストを立ち上げることに、一つの困難が付き纏います。しかし同時に、つかこうへいの戯曲は、文字通りに読む以上に、つかこうへいという演劇人の文脈を理解した上で読み解かなければ、見えてこないものが数多くあります。

つまり、「つか劇」というイメージから距離を取りながら、その文脈はきちんと引き受けること。この二つを両立させることが、つかこうへいの戯曲を現在の演劇として立ち上げるうえで、最も重要な課題なのです。

今回上演する『出発』初稿版は、つか劇の上演スタイルが固まる以前に書かれた作品です。そのため、「つか劇」のスパイスは確かに振られていますが、それ以上に、劇作家・つかこうへいを生み出した土壌となっている近代劇の骨格が明瞭にあらわれています。

だから私は、ドラマトゥルクとして、『出発』に流れる日本近代劇の系譜と、つかこうへいという演劇人の文脈を読み解くことに徹しようと考えました。一方で、演出は、「つか劇」を再現することではなく、そのテキストそのものと格闘し、新たな舞台を立ち上げられる演出家に託したい。そして、濱吉さんに声をかけました。

現状、この目論見は、とてもうまくいっているように感じています。稽古では、いわゆる「つか劇」のイメージに振り回されることなく、『出発』というテキストそのものが持つ力を出発点に、俳優の身体や関係性から少しずつ舞台が立ち上がっています。

「新たな『つか劇』の種を見つけ、つかこうへいの戯曲を現在の演劇として立ち上げるという作業は、日本のここ100年のなかでいつのまにか見過ごされてきた価値や感覚を掘り起こす試みでもあるはずだ」

新たな「つか劇」の種を探して

『出発』を日本近代劇の系譜の中にもう一度置き直し、既存の「つか劇」のイメージから距離を置きながら、つかこうへいという演劇人が切り開いた可能性を現在へと接続すること。

菊池寛『父帰る』から、つかこうへい『出発』へ。その間には、日本の近代化のなかで形づくられた家族観、父性、母性、戦争、民族といった問題が横たわっています。そうした歴史をテキストの中から掘り起こしていく。「つか劇」をなぞるのではなく、『出発』という戯曲そのものから、日本の近代史と現在をつなぐ舞台を立ち上げる。

私はドラマトゥルクとして、そのための文脈を読み解く。濱吉さんは演出家として、それを俳優の身体と舞台上の関係へと変換していく。その協働から、今回の『出発』がどのように立ち上がるのか、ぜひ愉しみにしていただければと思います。

演出家プロフィール 濱吉清太朗
演出家・紙魚主宰・日本演出者協会理事。2001 年生まれ、静岡市出身。2021 年、演劇創作集団「紙魚」を立ち上げる。以降「紙を食べる虫である紙魚(しみ)のように古今東西の戯曲や書物、記録を咀嚼し明日の栄養にしていく」ことをコンセプトとした創作活動を行う。2022 年、日本最大級の演出家コンクールである『演劇人コンクール』にて一次上演審査通過、最終上演審査進出(公演中止)。2024 年、日本大学芸術学部演劇学科卒業。日本では珍しい劇作を行わない専業的演出家として活動している。主な演出作品に『ハムレット』『I Do! I Do!』『劇的なるものをめぐってまごつく二人』がある。2024 年、中国の成都国際演劇祭にて『人形の家』を上演。また、『ハリー・ポッターと呪いの子(TBS/ホリプロ)』や静岡舞台芸術劇場(SPAC)、オペラ等で演出助手としても活動している。
紙魚
https://shimisilverfish.wordpress.com/

公演情報 
ドナルカ・パッカーン 令和8年公演第2弾
つかこうへい「出発」

ドナルカ・パッカーン「出発」(作:つかこうへい)

作:つかこうへい
演出:濱吉清太朗(紙魚)
ドラマトゥルク:川口典成(ドナルカ・パッカーン)
中野テルプシコール

チケット予約(当日精算)

公演情報


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