【一度染みついた滑り方は、身体が覚えているから】
いま、もしあなたが暗闇の中にいて、次から次へと押し寄せる災難に押しつぶされそうになっているなら。

そして「元気を出して」という周囲の優しい言葉さえ、今のあなたには少し重すぎて、
どう受け止めていいか分からないなら、この手紙を、あなた一人だけのために書きます。
人はよく「前を向いて」と言います。
けれど、本当に傷ついているときに前を向くのは、想像以上にエネルギーがいることです。
無理に笑顔を作る必要も、今すぐ立ち上がる必要もありません。
まずは、ただ深呼吸をして、ここに座っていてください。
思い返せば、私自身の人生もつまづきの連続でした。
強がりで、無計画で、有頂天になっては転び、夜中や朝方の静けさの中でページをめくるように、
一人で抱え込んだ答えを探し続けてきました。
周りからは「楽観主義者だ」「強い人だ」と思われることも多かったけれど、
本当はただ、何度もヘマをしながら泥臭く前に進むことしかできなかっただけなのです。
昔、夢中で滑っていた冬の記憶があります。
何年も雪山から離れていて、久しぶりに白いゲレンデの上に立ったとき、ふと恐怖が心をよぎりました。
「もう昔のように滑れないかもしれない」と。けれど、いざ風を切って一歩踏み出すと、
身体はちゃんと覚えていました。
重心の乗せ方も、風を切る感覚も、指先に残る感触も。何も失われてなどいなかったのです。
カメラのレンズを覗く感覚も、同じでした。
しばらく触れていなくても、手にとれば過去の感触や光の捉え方が、一瞬で蘇ってくる。
人生で積み重ねてきた「経験」や「痛み」も、まったく同じだと思うのです。
いま、あなたの手元から大切なものが消えてしまったように見えても、
積み重なる試練に心が折れそうになっていても、あなたがこれまで流してきた汗や涙、
迷いながらも選んできた道のりは、何一つとして消えていません。
あなたの身体に、心に、消えない「経験値」として深く刻み込まれています。
あなたが何度も転びながら手に入れてきたその生きる術は、誰にも奪えない、あなただけのあたたかな哲学です。
今夜は、その傷ついた心をそのまま自宅に持ち帰って、どうか温かい温もりの中で休ませてあげてください。
転んだ経験がある人だけが、立ち上がる人の痛みに寄り添えます。
試練を潜り抜けてきた人だけが、深みのある優しい眼差しを持つことができます。
あなたがこれまでに越えてきた数々の夜が、今度はあなた自身を優しく包む光になります。
雪山で途方に暮れたあの日も、一歩踏み出せば滑り出せたように。
あなたがまた「自分の人生」というゲレンデに立つとき、身体は、心は、間違いなく滑り方を覚えています。
大丈夫。
あなたの過去も、流した涙も、何一つ無駄にはなっていません。
今はゆっくり休んで、また風を感じたくなったとき、あなたのペースで一歩を踏み出せばいい。
私は、あなたがまた自分のしなやかな強さを思い出して、
静かに、けれど確かに前を見つめるその日を、心から信じています。



【あとがき】
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https://note.com/donchan_13/n/nadbb8f5012e7
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