中国がレアアース輸出を許可した本当の理由
2026年2月6日、共同通信がこう報じました。
中国当局が1月にレアアースの対日輸出規制を強化した後、複数の輸出を許可していた。
「中国が折れた」「高市外交の成果だ」。SNSにはそんな声が並んでいます。
本当にそうでしょうか。
止めたのに流す
1月6日、中国は軍民両用品目の対日輸出規制を発表し、即日実行しました。レアアース7種類を含む数百品目。高市首相の「台湾有事は存立危機事態になり得る」という国会答弁への報復とされています。
ところがその後、レアアースの対日輸出が複数許可されていた。
規制しておいて流す。矛盾しています。
ただ、これを「制裁」だと思うから矛盾に見える。制裁なら全部止めるはず。中国がやっているのは制裁ではありません。
調教です。
完全に止めたらどうなるか。日本は本気で代替調達に走ります。南鳥島の海底レアアース泥。オーストラリアのLynas。アメリカのMP Materials。前回書いた通り、どれもコストは高い。赤字体質だし廃棄物問題もある。でも「完全に止められた」となれば、コスト度外視で動くしかない。
政治的にも「中国は信用できない」が確定する。衆院選前なら、高市政権の「脱中国」路線に強烈な追い風になる。
中国はそれを分かっている。
だから完全には止めない。チョロチョロ流す。「まだ買えるじゃないか」「全面禁輸じゃなかった」「そこまで深刻じゃない」。この空気を作りたい。脱中国の本気度を削ぐ。急いで代替調達を進める必要はない、と思わせる。
全開でも全閉でもなく、微妙に開け閉めできる。蛇口を握っている側の特権です。
2月4日と2月6日
日付を並べます。
2月4日、バンス副大統領が「強制力のある最低価格制度」を備えたレアアース貿易圏構想を発表。前回の記事で書いた通り、翻訳すれば「安い中国製を買うな。高くても西側製を買え。価格は俺たちが決める」。
2月6日、中国のレアアース一部許可が報じられる。
この2日間の距離を、偶然と見るかどうか。
中国にとって、バンス構想は悪夢でしょう。レアアースの市場支配は中国最大の外交カード。日米欧がバラバラに中国から買っているから成立している。個別に脅せる。個別に蛇口を調整できる。一つの貿易圏にまとまったら、それができなくなる。
中国が本当に潰したいのは、高市個人ではありません。
日米欧のレアアース連携という枠組み自体です。
日本は蝶番の位置にいる。世界最大級のレアアース消費国で、日米同盟の要で、中国経済との結びつきも深い。日本を揺さぶれば枠組み全体がぐらつく。
バンス構想に日本が本気で乗る前に、冷水をかけておく。
「中国から買えますよ? わざわざアメリカの高いやつ買います?」
それが「一部許可」の正体ではないでしょうか。
誰にも裏目
日本国内では、これが高市総理の追い風になります。
「中国が折れた」「強硬姿勢が成果を上げた」。そう読む人のほうが多い。中国の意図とは正反対の解釈が広まる。
ただ、高市政権にとっても手放しでは喜べない。
「ほら、中国から買えるじゃないか。わざわざ高い西側製を買う必要あるのか」。産業界からその声が出れば、バンス構想への参加は鈍る。脱中国の旗を振りながら、足元では中国依存が続く。前回書いた「表では脱中国、裏では中国製」の二重構造がそのまま残る。
中国にも裏目。高市にも裏目。
誰も得をしていないように見えて、蛇口を握っている側だけが構造的な優位を保ち続ける。
報道されない圧力
記事にはもう一つ、見落としやすい情報があります。
「日中間貿易は鉱工業分野を含め輸出入とも通関遅延が相次いでいる」
レアアースは派手だから報道される。でも本当に効いているのは、報道されない無数の通関遅延でしょう。日本企業の現場が日々困っている、地味で持続的な圧力。
レアアースの蛇口で世論を揺らし、通関遅延で産業界を締め上げる。
派手なパンチではなく、ボディーブロー。
蛇口の前で
前回こう書きました。
「本当に必要なのはリスクヘッジ」「保険のようなもの」。そして「その保険料を誰が決めるのか」が問題だ、と。
今回見えてきたのは、保険に入ろうとする動き自体を中国が潰しにかかっているということ。
バンス構想は保険の枠組みです。中国はそれが成立する前に崩したい。日本に「まだ中国から買える」と思わせて、保険に入る動機を削ぐ。
アメリカは「高い保険に入れ」と言う。中国は「保険なんていらない」と言う。
どちらも日本のことを考えてはいない。
「脱中国」も「対中融和」も、結局は蛇口の前でどちらを向くかの話です。蛇口を握られていること自体は、どちらを向いても変わらない。
選挙が終わっても、蛇口はそこにあります。
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