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これは「孤独のグルメ」喫茶店版かぁ?「喫茶おじさん」原田ひ香

【 今夜はナポリタンだな 】

「どうやら、メニューの森に迷い込んでしまったようだ……」
「迷ったときは、両方頼めばいいじゃないか」
「ナポリタンってのは、おかずにもなるんだよ」
「たっぷりソースのハンバーグは、男の子の味だよ」
「古き良き吉祥寺が、この店一軒に集約されているようだ」

「孤独のグルメ」Season 1 第7話  吉祥寺の「カヤシマ」での五郎のつぶやき
ナポリタンとハンバーグのセット  みそ汁付き

【 書名買い 】

遠い昔、配信やダウンロードなど夢にも思わず、CDすらなかった頃、
音楽を自宅で聞くには「レコード」を購入したりレンタルした。
通常は知っている曲やアルバムをショップで探して購入したのだが
まれにLPのジャケットが気に入って購入することがあった。
いわゆる「ジャケ買い(ジャケット買い)」というやつだ。
“当たり” の時もあったし “ハズレ” もあった。それが面白かった。
今日読んだ文庫は、ジャケ買いならぬ「書名買い」だ。
「喫茶おじさん」という題名で迷わず手に取ってレジへ直行した。
どんな “喫茶店” の話を “おじさん” がするのか?

【 原田ひ香 】

これまで何冊か原田ひ香の著書を読んでいる。
2021年の年末の長期入院時に何冊か本を持ち込んだが
その中の一冊が原田ひ香の「ランチ酒」の文庫だった。
なんとも美味しそうなランチの数々と昼酒の描写に
「退院したら何を食べよう」と考えていたことを思い出す。

このなかでは「古本食堂」が “my favorite”

【 “松尾 純一郎”という男 】

主人公は「松尾まつお純一郎じゅんいちろう」という57歳の早期退職をした男なのだが
ページをめくるに連れてなぜかこの男のことが嫌いになっていく。
優柔不断というか計画性が無いというか周りが見えないというか
とにかく読んでいると「イライラ」してくる。
「それなら読まなきゃいいじゃない」
とそう思われるだろう。そう、それが一番いい。
しかし、この男の周りの人間(家族や元嫁、前職の友人、同窓生等)が
このダメな男をどこか見下すような言葉をしばしば発するかたわら、
「おまえ(あなた)がうらやましい」と口にする。
なぜなのかはまだ分からない。
「どうしてだ?どこがうらやましいの?」
それは知りたい・・・。原田ひ香の術中にはまっている。
ページをめくる理由わけがもう一つ・・・。
喫茶店の描写が生き生きと目の前に浮かんでくるのだ。
この物語に登場する店は、店名こそ出していないが
全て実在の店舗だ。私も行ったことのある店が何件か出てくる。
「う~、飲んでみたい。食べてみたい!」とその店にいざなわれる。
著者はロケハンとは言わないが店に行って実際にオーダーをし、
珈琲や紅茶等のドリンクや軽食、スィーツ類を全て実食している。
その描写は実に具体的かつ的確で絵に描けそうだ。
それを語っている松尾純一郎は無職の “井之頭五郎” って感じ。
但し五郎ほど優秀な社会人ではない。

【 出てきた店舗 】

文中に登場する喫茶店はほぼ実在の店だ。
詳細な記述はないが場所や店舗の特徴がサラッと書かれている。
(但し2023年10月刊行の小説なのでその後閉店している店もある)
個人的に当たりをつけた店は以下の通り。
1. カフェ英國屋 東京大丸店
2. カヤバ珈琲 根津
3. ハウス・ペコ 根津
4. プチモンド赤羽西口(25年12月閉店)
5. 珈琲専門店 伯爵 池袋北口(or東口)
6. 珈琲貴族エジンバラ 新宿三丁目店
7. 築地 京都河原町店
8. イノダコーヒー 烏丸御池店 
※この店と英國屋の表現がごっちゃになっている気がする
9. 珈琲ショパン 神田淡路町店

ジャズ喫茶やローカルの個人店は守備範囲に入れていないようだ。
あくまでも “純喫茶” で “軽食” を扱っている店が主体になっている。
特徴は「店で手抽出した珈琲」を出すことはマスト。その上で
「モーニングサービス」がある。「トースト・サンドイッチ」を出す。
「レスカ・クリソ」「ナポリタン」「パフェ・ケーキ類」を出す。
それなりに「老舗」である等々。
これら全てを網羅していなくてもいくつか当てはまればいいようだ。

【 イライラの正体 】

これでいいのだ。
こうしているうちに自分は老いる。
いつか別のことをしたくなる日も来るかもしれない。
だけど。
今は、これでいい。

「喫茶おじさん」エピローグ  最後の五行

「なにが『これでいいのだ』だ。バカボンのパパか!」
と最後まで突っ込みを入れながら文庫本を閉じた。
読んでしまった。最後まで。
そして分かった。このイガイガした嫌な感じ。
砂を噛んだような嫌悪の感覚が何なのかが…。
「松尾純一郎」は「ワタシ」だった。
胃液が逆流するような『同族嫌悪』の感覚。
「タブレット純」の「ムクの祈り」を読んだ時と同じだ。

“松尾純一郎” のダメさ加減が自分のダメさと重なってしまって
イライラする。“純一郎” が隣にいたら怒鳴っているだろう。
自分は一所懸命やっている、家族や友人のことを大切にしている、
自分の力量不足は薄々分かっていたし高望みなどはしない、
でもどこかの誰かには、世間にはそれなりに認められたい。
会社のことや世間のこと、家族のことや友人のことはすっかり
分かっているつもりでいたのに何一つ理解していなかった。
計画性も明確なビジョンも無いのに何かできると思っていた。
挙句に大事な財産や信用、そして何より時間を失っていく。
「いい人」「優しい人」が「良い人」ではない。
そうなんだ。怖がってきちんと現実に向き合わずに
当らず触らずの関係だけで過ごしていると自分の周りで
何が起こっているかを捉えることができなくなる。
「本当に何もわかってない」
そう言い残して大事な人は去っていく。

※私が今、こうやって好き勝手に文章を書いていられるのも
パートナーが私を見限って見捨てなかったからだ。
家族に見限られ、健康を損ね、その上で少ない友人に去られたら、
いまごろ墓石の下だったのではないかと、そう思っている。
今こうしていられるのは、まれにみる「幸せ」なんだと
改めてしみじみと感じさせられた「小説」だった。

【 松尾純一郎のこの先 】

とりあえず協議離婚が成立したが今後も元妻と娘とは会えるようだ。
自宅を処分し財産分与を行って三分の二は元妻と娘に分与した。
手元に残ったのは資産の三分の一だが、建設会社を早期退職した時の
退職金の半分は無計画に始めた喫茶店を半年で潰してしまい失くした。
池袋から歩いて12分の小さなアパート(家賃6万円、管理費3千円)に移り
そこで部屋の中にテーブルと数個のイスを置いて “喫茶店” を開いた。
まだ珈琲だけの店で常連はまだ近所の老人一人だ。だが、そのうち
最初のパートナーから教わった“ナポリタン” を出すことを目標にしている。

「今は、これでいい。」

【 余談 】
松尾純一郎が最初のパートナーから教わったナポリタンのレシピ
(214頁~216頁)を今夜の夕飯に作ってみようと密かに思っている。
上手くできたらあとで画像をアップしてみたい。

新橋  パーラーキムラヤのナポリタン

【 P.S / 元嫁 登美子のレシピのナポリタン 】

作ってみた。
パートナーの評価は良かったです。

具はベーコン、ソーセージ、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム

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