見出し画像

園の文化を育てるわらべうた 慈光保育園の保育実践(前編)

── 保育現場にエシカルな心を


編集|Ethical Education Academia

本記事は、2026年8月8日にエシカル・エデュケーションと慈光保育園の職員で行った実践体感セミナー『わらべうたで広がる、思いやりの保育』の内容をもとに、読みやすく再構成・文書化したものです。


はじめに

「わらべうた」と聞くと、
昔から歌い継がれてきた遊び歌を思い浮かべる方も多いかもしれません。

しかし、保育現場でのわらべうたは、単に歌を楽しむ時間ではありません。

子どもが安心して保育者とつながる時間であり、
保育者自身も子どもと心を通わせるきっかけになるもの。

そして、それを園全体で共有していくことで、
保育そのものの質やチームのあり方まで変えていく力を持っています。

一方で、新しい実践としてわらべうたを取り入れることは、
決して簡単なことではありません。

「本当にこのやり方でいいのだろうか」
「これまでの保育とどう違うのだろう」
「職員みんなで取り組めるだろうか」

そんな戸惑いは、どの園にも起こり得ます。

だからこそ重要になるのが、
園の方針を現場へ届け、現場の声を受け止めながら、
一歩ずつ実践を育てていく存在です。

今回ご紹介するのは、慈光保育園で副主任を務めるEさんの実践です。

クラス運営や職員の状況を調整する立場として、
どのようにわらべうたを園の文化へと育てていったのか。その歩みをご紹介します。

「方針を伝える」ではなく「橋を架ける」

副主任は、自分のクラスだけを見る立場ではありません。

園全体の方針を理解しながら、
各クラスの状況や職員一人ひとりの様子にも目を配り、
保育が円滑に進むよう支えていく役割があります。

だからこそ、新しい取り組みを始めるときには
園長の思いも理解できますし、現場が感じる戸惑いも痛いほど分かります。

園の理想と、現場の日常。
その間にある小さな温度差を埋めていくこと。

それが、副主任という役割の大切な仕事なのだと感じています。

戸惑いからはじまった取り組み

現在、慈光保育園では、わらべうたは園の日常に自然と溶け込んでいます。

しかし、最初からそうだったわけではありません。

もともと園では、季節の歌を大切にしてきた歴史がありました。

その中で、新たに「わらべうた」をどのように取り入れればよいのか。
いつ、どんな場面で使えばよいのか。
Eさん自身も、「正直しっくりこなかった」と振り返られていました。

だからこそ、職員が不安になる気持ちも理解できます。

「まずはやってみよう。」

そう伝える立場でありながら、
自分自身も迷いながら歩いてきた経験がある。

この等身大の姿勢こそが、
職員からの信頼につながっていったのだと思います。

「やってください」では、文化にはならない

新しい保育の取り組みは、研修を一度受けただけでは定着しません。

毎週、クラスのLINEでその週に歌うわらべうたを共有する。
昼の会で一緒に歌ってみる。
振り返りの時間に、子どもの姿や困りごとを話し合う。

慈光保育園では、こうした小さな積み重ねを続けてきました。

それでも、歌詞を忘れてしまうことがあります。
どの場面で歌えばいいか迷うこともあります。
得意・不得意もあります。

そんなとき、Eさんが大切にしていたのは、
職員の隣に立ち、一緒に歌うこと。

横からそっと歌い始めることで、「あ、そうだった」と思い出せる。
責められるのではなく、支えてもらえたという安心感が生まれる。

子どもに安心を届ける保育だからこそ、
保育者自身も安心して挑戦できる環境が必要なのだと感じます。

わらべうたが育てたのは、子どもだけではなかった

わらべうたを取り入れると、子どもたちにも変化がありました。

泣いていた子が泣き止んで、笑顔が増える。
保育者と目を合わせるようになる。
おむつ交換も安心して受けられるようになる。

しかし、それと同じくらい印象的だったのは、職員の変化です。

「どう歌えばいいの?」と不安だった職員が、少しずつ自信を持ち始める。

一緒に歌い合う姿が増える。
困ったときには相談し合える。

わらべうたは、子どもと保育者をつなぐだけでなく、保育者同士もつないでいったのです。

特別な活動ではなく、園の文化へ

Eさんのお話を伺っていて感じたのは、
わらべうたを特別な保育として扱っていないことでした。

日々の保育の中で自然に歌う。
困ったら相談する。
一緒に歌う。

その積み重ねによって、わらべうたは「新しい取り組み」から、
「園では当たり前に行われる保育」へと変わっていきました。

文化とは、一度の研修で生まれるものではありません。
誰か一人が頑張ることでもありません。

園全体で少しずつ積み重ねていくことで、初めて根づいていくものなのだと、この実践は教えてくれます。

おわりに

保育研修では、「どんな実践をしているか」が紹介されることは多くあります。

けれど、実際に現場で求められるのは、
「どうすれば職員みんなで続けられるのか」という視点ではないでしょうか。

今回の実践から見えてきたのは、
園の方針を伝える人ではなく、人と人をつなぐ存在が必要だということでした。

わらべうたを通して子どもの安心を育てる。
そして、その実践を支える保育者同士の安心も育てる。
その両方があって初めて、わらべうたは園の文化として根づいていきます。

次回の中編では、チーフ(クラスリーダー)の視点から、一日の保育の流れの中で、わらべうたがどのように子どもと保育者双方の安心を支え、クラス運営やチームワークにつながっていったのかを、具体的な実践とともにご紹介します。どうぞお楽しみに。


上杉 千恵子|プロフィール

エシカル・エデュケーション考案者。
絵本・保育環境・人との関係性を軸に、
保育現場に「心の余裕」と「やさしさの循環」を生み出す研修・講演を全国で行っている。
著書『エシカル・エデュケーション』。


講演・研修のご相談はこちら

エシカル・エデュケーション(上杉千恵子)に関する
講演・研修のご相談は、こちらからお受けしています。


いいなと思ったら応援しよう!