田中碧への誹謗中傷?戦犯は森保監督ただ一人である
このコラムは、「ブラジルに逆転負けしたけど森保監督はよくやった」と思っている方は、絶対に読まないでください。
森保監督はここ数年で最も悪い采配が最も重要な試合で出てしまったのだから。

窓の外では、東京の蒸し暑い真夏がアスファルトを煮溶かしていた。 私は冷房の効きが悪いバーの片隅で、氷の溶けかけたジントニックを弄んでいた。四十四歳。建築デザイナーの仕事で詰め込まれた頭を冷やすために、一人で飲んでいたのだけれど、目の前の席に座る男の独り言が、私の神経を逆なでした。
「いや、交代策は妥当だったはずですよ。ブラジルの攻撃を止めるための、現実的な修正だった」
紺色のポロシャツの襟元まで汗で濡らした、二十代前半とおぼしき男が、スマホの速報を眺めながら呟いた。 私は反射的にグラスを置いていた。 「現実的? あれが? 逃げ以外の何物でもないでしょう」
男が驚いた顔でこちらを見た。切れ長の目に、理屈っぽい光が宿っている。 「逃げじゃない。強豪ブラジルを相手に、勝ち点を守り抜くための英断です。あの時間帯、守備を固めるのは監督として当然の――」 「馬鹿を言わないで。あの交代で、日本は自分たちのアイデンティティをドブに捨てたのよ」
私は詰めていた椅子を横に寄せた。男もまた、カウンターの肘掛けに体を預け、私の方へ身を乗り出す。気づけば、肩が触れ合うほどの距離になっていた。熱帯夜の熱気が、互いの肌を伝って伝播する。
「アイデンティティ? そんな綺麗な言葉でサッカーは勝てませんよ! 守田がいればという結果論にすがるのは、あまりに無責任だ」 「結果論じゃないわ、戦術の欠如よ!」 私は男の顔を覗き込んだ。彼の額に浮かぶ汗が、ネオンの光を反射して光っている。酒のせいか、怒りのせいか、耳の奥で自分の鼓動がうるさいほどに鳴っていた。
「あなたは見ていなかったの? 堂安や中村の、あの『なぜ』という顔を! 彼らこそが、あの試合で最も攻撃的で、世界と対等に渡り合えるカードだった。それを引き抜いて、ブラジルに『あとは自由に攻めてくれ』とパスを出したのが森保よ!」 「うるさいな、あなたが監督ならどうするっていうんですか! 守備の要を失ったチームで、どうやってブラジルのあのクロスを凌ぐんです!」
男はグラスに残ったテキーラを煽り、私に迫った。彼の息混じりの熱い吐息が首筋にかかる。香水の匂いと、男特有の汗の匂いが混ざり合って、不思議と私の理性を麻痺させた。 二人の口論は激しさを増し、周囲の客が露骨に席を離れていく。店主が青筋を立ててこちらを睨んだ。 「あんたたち、他所でやってくれ!」
店を追い出された私たちは、湿気を含んだ夜風の中に放り出された。だが、議論は終わらない。男の指が、私の肘を強く掴んだ。 「あんたみたいな素人が、監督の孤独を理解できるわけがない」 「素人? 私は建築の構造でさえ、常に荷重の最適解を考えてるのよ。試合の崩壊なんて、設計図を見れば一目でわかるわ」
私たちは、ただの感情的な議論を超えていた。相手を論破することと、相手の体温を奪い合うことの境界線が、曖昧になっていく。 「いいよ、どこか行こう。まだ話は終わってない」 男の強い掌に導かれるまま、私たちは雑居ビルの角を曲がった。路地裏の湿った空気が、私たちの火照った体を冷やすどころか、より一層の密度で密着させる。
ホテルの部屋に入っても、議論は止まなかった。シャツを脱ぎ捨てることも、ネクタイを解くことも、サッカーの戦術論を語るための動作のように思えた。 「結局、あんたは森保を擁護したいだけじゃない。自分の敗北を認めたくないだけよ」 男はベッドに倒れ込みながら、私を見上げた。その目には、挑戦的な色と、抗いがたい情欲が宿っていた。
「……負けた悔しさを、あんたの体で思い知らせてやるよ」
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