AIに選ばれる本、選ばれない本
本を探す場所が、書店の棚から、Amazonの検索窓へ。
そして、ついにAIへと移りつつある。
こんな風に言われ始めています。
日経クロストレンドが2026年に1万人を対象に行った調査では、生成AIはもはや調べものの道具にとどまらず、「何を買うか」を決める流れそのものを変え始めている、と指摘されています。
これまで自社商品やサービスを検索にヒットさせるには「SEO=Search Engine Optimization(検索最適化)」が命綱でした。ところが、これからは「AIO=AI Optimization(AI最適化)」というわけです。
「おすすめの本は?」とChatGPTに聞いて、返ってきた回答から読む本を選ぶ——そういう本の買い方が、これから普通になってくるのかもしれません。
だとしたら、編集者として一度きちんと確かめておきたいことがありました。
「AIは、自社本をちゃんとお勧めしてくれるのか?」
気になったので、実験してみました。
4つのAIに、まったく同じ質問をぶつけた
ChatGPT、Gemini、Grok、そしてClaude。4つのAIに5つのジャンル——株式投資、AI活用、運・自己啓発、世界情勢・インテリジェンス、心理学——で、一字一句おなじ質問を投げました。「初心者におすすめの本を教えて」というふうに。
以下、教えてください。
1 株式投資を始めたい初心者におすすめの本を教えて
2 ChatGPTを仕事で使いこなすためのおすすめ本は?
3 運が良くなる、ツキを引き寄せる系のおすすめ本は?
4 世界情勢やインテリジェンスを学べるおすすめ本は?
5 心理学を仕事やコミュニケーションに活かせるおすすめ本は?
5ジャンル × 4ツールで、ぜんぶで20マス。
さて、フォレスト出版の本は、いくつ顔を出したか?

20マスのうち、4マス。
フォレストの本でいうと、2タイトルでした。
ヒットした2冊は、どちらも「よく売れた本」だった
出てきたのは、2冊です。
ひとつは、AI活用のジャンルで挙がった『ChatGPT最強の仕事術』(池田朋弘)。これは4つのうち3つのAI——ChatGPT、Grok、Claude——が、揃って薦めてきました。外したのはGeminiだけです。
もうひとつは、株式投資のジャンルで出てきた『お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ)。じつはこれ、私が担当した1冊です。ただ、拾ってくれたのは4つのうちClaudeひとつだけでした。
共通点は、はっきりしています。
どちらも、実際によく売れて、レビューも多く、「おすすめ本まとめ」のような記事に何度も載ってきた本だということ。AIは結局、世の中ですでに語られている本を要約して薦めてきます。だから——売れて、語られて、引用された本ほど、複数のAIが揃って拾う。②のジャンルで3つのAIが同じ一冊に行き着いたのは、その何よりの証拠です。
同じ本でも、AIによって拾われたり、消えたりする
ここからが、編集者として見逃せない発見でした。
おなじ「フォレスト本がヒットした」でも、ツールによって結果がまるで違うのです。
②の『ChatGPT最強の仕事術』は3つが拾ってGeminiだけが外し、①の『お金は寝かせて増やしなさい』はClaudeだけが拾った。つまり、どのAIに聞くかで、並ぶ本棚が変わる。これまでは「Googleに最適化」しておけばよかったものが、これからは「どのAIに向けて最適化するか」という、やっかいな問いになります。
しかも、もうひとつ。
Grokは②で『ChatGPT最強の仕事術』を正しく挙げながら、著者を別人の名前にしていました。正しい本を、間違った情報で薦めていたのです。AIは自信たっぷりに本を語りますが、その中身が正確とはかぎらない。読者がそれを信じて買う時代に、これはなかなか怖い話です。
じゃあ、編集者はどうすればいいのか?
整理すると、AIの本棚はこういう場所でした。
すでに売れて語られた定番に偏り(①②)、定番のないジャンルは丸ごと消え(③④⑤)、ツールごとにムラがあり、ときに著者名すら取り違える。
ここで、さらに背筋が寒くなる仮説が立ちます。
AIが拾うのは、「有名な著者」「検索しやすいタイトル」「まとめ記事への露出量」。逆にいえば、著者が無名でも、切り口やコンセプトで勝負して当てた本——つまり編集者にとっていちばんの腕の見せどころである領域の本ほど、AIの発見からすっぽり抜け落ちる可能性が高い。
このことは土曜日の記事に書いた「アーカイブ経済」と、ちょうど裏表の話です。
あちらでは、二次流通でお金になるのは「目利き」だと書きました。しかし、AIの発見は、その目利きを——人が手間をかけて見つけた無名の才能や、ひねり出したコンセプトを——きれいに素通りして、すでに勝っている本を、さらに勝たせていく。
だとすれば、これからの編集の仕事には、もう1枚レイヤーが増えます。
【これまで】
「人の心を動かすコピー」を書くこと
【これから追加されること】
「機械に正しく語らせる」こと
タイトル、紹介文、目次、書誌データ。それらを、人間という読者だけでなく、AIという"最初の読者"に向けても設計する必要がきっと出てきます。SEO(検索最適化)の次に、AIに見つけてもらうための最適化が来る——そう言われ始めているのは、たぶんこういうことなのでしょう。
でも、ここで一つ、引っかかることがあります。
それは編集という職人芸の、敗北なのか。
それとも、ただの引っ越しなのか。
本の良さを、機械にどう伝えるか。
あるいは、機械には伝わらない良さ(って何?)を
それでもつくり続けるのか。
正直、まだ答えは出ていません。
ただ、今回の実験の結果、自分がつくる本のタイトルを、少し前とは違う目で見るようになってくるような気がします。
——よかったら、あなたも試してみてください。いつも使っているAIに、好きなジャンルの「おすすめの本」を聞いてみる。そこに並ぶのが「いい本」なのか、それとも「見つけてもらいやすい本」なのか。
たぶん、ちょっとした発見があります。
(フォレスト出版編集部・寺崎翼)
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