スナックの事業モデル再構築の事例を考える(3)
3月27日の日経新聞で、「廃れた昭和の逆襲(上)スマホでスナック再生 「見える化」で入りやすく」というタイトルの記事が掲載されました。衰退していると言われるスナック市場での活性化の取り組みを紹介している内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
3月19日、東京・赤坂の音楽バーは異様な熱気だった。リクエストで流れる1960~80年代の洋楽に合わせて来場者は踊りまくる。酔いに任せて、初対面の女性に声をかける人たちも多数……。年齢はおおむね50代を超える。若い頃を懐かしんでいるのか、失われた青春を取り戻そうとしているのかは定かではないが、動機はともかく昭和のエネルギーは消えていない。
もっとも昭和の生活文化は市場的には廃れつつある。いずれもピークは平成時代だが、紙の出版物やたばこ、ビール、ガムなどは大きく落ち込んでいる。一方でデジタル化が急速に進む中、濃密なコミュニケーションを武器とする「昭和リアル」へのニーズがじわりと高まっているのも事実だ。
「仕事で悩んでいたときに、いやしてくれたスナックの文化をなんとか残せないか」。タピオカをはやらせ、作業着のようなスーツという新分野を切り開いてきた起業家、関谷有三氏はこんな思いを抱いていた。家族には言いづらい愚痴や悩みをはき出したり、ママに勇気づけられたりと、ストレスがたまりやすい社会には欠かせないはず。
一時は全国で10万軒を超えていたスナックも今は4万5千軒程度と半減した。それでもコンビニエンスストア並みの数があるわけで、なんとか活性化したい。そこで関谷氏はなぜスナックが廃れたのかを考えた。
1つは入りづらさ。謎めいた雰囲気は、初めて足を踏み入れるには心理的障壁が高すぎる。どんなママやスタッフがいるのか、どんな客層なのか、店の雰囲気が分からないと、やはり入りづらい。
そしてなんと言っても料金。「ぼったくり」という言葉が広く知れ渡っており、コスパの時代に料金設定が不明のスナックに入るリスクはとりたくない。
関谷氏はこうした課題をテクノロジーで解消する企業を立ち上げた。その名も「スナックテクノロジーズ(スナテク)」(東京・千代田)。まずスナテクを利用する店を募集し、店に関する情報をテキストや動画などで公開。
来店者がLINEなどを通じて会員になると、料金などの店の基本情報に加え、混み具合などをリアルタイムで知ることができる。まさに「見える化」だ。
昭和レトロにひかれる若い世代も実はスナックへの関心が高い。顧客同士で「デジタルおごり」ができるように投げ銭システムを導入した。店内ではもちろんのこと、当人が行けなくても友人が来店している場合、ドリンクなどをスマホを通じてごちそうできる。
店側の経営支援にもつなげる。スナテクを採用すると会計処理とともに顧客やボトルを一元管理でき、アナログ経営を効率化できるという。まず数店レベルで実証実験を始めた。
数十店が参加する見込みで関谷氏は加盟店について「5年後に1万店」の目標を掲げる。
ちなみにこのスナテク、25年のスタートアップ企業の祭典「IVS」のコンテストで上位に表彰され、今はかつての人気番組「SMAP×SMAP(スマスマ)」を手がけた放送作家の鈴木おさむ氏や著名投資家らが出資している。
減ったとはいえコンビニ並みの店舗数があるというのは、個人的には意外な発見です。
同記事から改めて感じるのは、「業界全体の困りごとを解決することができれば、一気に事業が加速する可能性がある」ということです。
スナテクの取り組みの本質は、個別店舗の改善ではなく、業界全体が抱える構造的問題に切り込んだ点にあると考えられます。
同記事も手がかりにすると、スナック業界の問題として、
・初見客にとっての心理的ハードル
・料金不透明による不信感
・アナログな経営管理
といったことが挙げられますが、これは個別店舗のみに当てはまる話ではなく、(程度差はあるとしても)ほぼ全店舗に共通する問題だと言えそうです。
これに対しスナテクは、
・店舗情報の可視化
・料金の明示
・混雑状況のリアルタイム共有
・顧客・ボトル管理のデジタル化
という形で、業界共通の課題を一気に解決しようとしているように見受けられます。
ここに大きな戦略的意義が感じられます。
個別企業の競争ではなく、「業界の非効率」を解消するプラットフォームを構築すれば、参加店舗が増えるほど価値が高まるネットワーク効果が働きます。結果として、単一企業の枠を超えて市場全体を押し上げることにつながり、スナテク側も、加入する店舗も、店舗の利用者及び潜在的利用者の三者がWINになりそうです。
自社の問題を超えて「業界の当たり前」に疑問を持って課題形成し、その解決を図ることで、非連続な成長機会を得ることができる。このことは、多くの業界に当てはまる示唆です。
加えて、「消えた市場」ではなく「阻害された需要」を見抜く姿勢も大切なのかもしれません。
スナックは店舗数が半減し、典型的な衰退市場と認識されています。そのうえで、同記事も参照すると、「需要の減退」もさることながら、その本質は「利用障壁」のほうにあったのかもしれません。
利用障壁と言っても、スナック自体が旧態依然として以前から変わっていないかもしれませんが、利用者の側で以前よりも入りにくさを感じる人が増えている結果、障壁が増大している可能性もあります。
例えば、商品そのものに加えて、「納得感」や「安心感」を重視する利用者及び潜在利用者が増えたとするならば、価格やサービス内容、店舗の環境が見えないことが前提となっているモデルは持続しないことになります。仮に透明性を高めることが短期的には不利に見えても、長期的には顧客基盤の拡大につながるかもしれません。
本来スナックが提供できる価値を、単なる飲食ではなく、
・人に言えない悩みを吐き出す場
・偶発的な出会い
・濃密なコミュニケーション
などに求められるとすれば、それらはデジタルでは代替しにくい体験であり、ストレス社会と言われるようになった現代により価値を発揮できる余地があると想定できます。もし「その存在に価値は残っているが、使われなくなった」状態であるならば、それはもったいないことでもあります。スナテクはそこに注目していると捉えることもできます。
市場や商品・サービスにどんな未解決の不合理が残っているか、「構造理解」によって再生の糸口を見出し、市場を再生する。参考にできる視点だと思います。
スナテクを含むスナックについては、以前の投稿で取り上げたことがあります。
よろしければご参照くだされば幸いです。
<まとめ>
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