Another Side Story of Some Girl I Know〜Shiori's Mothers〜
お盆の休暇で実家に帰ったしおり。縁側で、スイカを食べながら母とおしゃべりする。
「久しぶりだなぁ、昔もこうして縁側に座りながら色々、話したっけ?」
「どうだった?温泉旅行は楽しめた?」
「うん、短かったけど良かった。でも、どうしてお母さんは行けなかったの?電話口でも『夢乃さんと行きなさい』って」
母のスイカを持つ手が止まった。
「…そうそう、旅行の電話したあと、思い出して探してみたの。そしたらね、こんなのがあったのよ」
一緒にスイカを食べていた母が懐から手紙に入った一枚のセピア色の古ぼけた写真を取り出した。
「うわぁ、キレイだね。誰なの?」
「お母さんのお母さん、あなたのお祖母ちゃんよ。当時、村にたった一つあった写真館で撮ってもらったんですって。戦時中だったから、セーラー服は貴重だったのよ」

「…ふぅん…。何だか不安そうだね。やっぱり戦争だったから?」
「それもあるわ。けどね、よく見て。 髪型を直したら、あなたに似てるでしょ?」
「…そう言われてみると…あ、私のコンテストの写真とそっくりだ!」
「お祖母ちゃんにはね、暎一さんっていう許婚がいたのよ。でもね、戦争が悪化した昭和19年、召集令状(赤紙)が届いたの。今と違って当時は兵隊さんになるのは光栄なことだったのよ」
「お祖母ちゃん、好きな人がいたんだ」
「許婚に赤紙が届いて愕然としたそうよ」
幸せな未来が、大切な人がいなくなっちゃう。でも、行かないでとは言えない。結婚の口約束だけして、暎一さんは予科練に行っちゃったんだって。総出で『万歳〜万歳〜』って見送ったんだけど、お祖母ちゃんは素直に、喜べなかった…。
駅で見送る時、暎一さんは窓から『後を頼むよ』って目で合図して、お祖母ちゃんは『必ず帰ってきて下さい』って。
「駅の先まで走って見送った後、崩れ落ちるように号泣したんだって。気持ちを察して暎一さんのお母さんが、お祖母ちゃんの背中をそっと撫でてくれたそうよ」
「……お祖母ちゃんの恋、実らなかったんだね…」
「昭和20年夏。戦争が終わって、お祖母ちゃんは暎一さんが本当に帰らぬ人だと知った。ショックで拒食症になって引きこもりがちに…それ以来、人を信じられなくなってもう結婚はしないって決めてたんだって」
「……」
「敗戦から一年たったある春の日。暎一さんのお母さんが訪ねてきて、お祖母ちゃんに一通の手紙を渡したの。それは予科練に行く前に、暎一さんがお母さんに手渡しておいたものだった。お母さんは暎一さんが帰ってくるのを信じて、ずっと大切にしまっておいたんだって」
「……辛かったんだろうね」
「その手紙を読んだお祖母ちゃんは、暎一さんの事を誤解していたのをはじめて知った」
「…誤解…?」
「そうよ、恐る恐る開封した手紙には、その時の暎一さんの胸のうちがそのまま書かれていたそうよ」
『〇〇様。この手紙を読む頃には僕はもう、(この世に)いないと思う。でも悲しまないでほしい。貴方のことだから「きっと生きて還ってくる」と信じているんだろうね。でも僕の死を受け入れられず、貴方が病んでしまっとしたら… 貴方は僕を責めるかも知れない。でも、だからこそ(貴方が生き残った)現実を見て欲しい。死んでしまった人間を思い続け、せっかく生き残った貴方が不幸せになってる未来像の方が、僕にとっては哀しい。僕が還ってこなくても、今をしっかり受け止めて、これから先の幸せを掴んで欲しい。そして僕の分までしっかり生き抜いてほしい。僕からの最後のお願いだ。『御身大事(おんみだいじ)』。それが僕の願う、貴方の本当の幸せなんだから。 暎一より』
「それから、お祖母ちゃんは徐々に元気を取り戻し、お祖父さんと結婚しお母さんが産まれた。そしていま、お母さんが結婚して『しおり』が産まれた。いつも自信なさげに強がって生きているあなたがね」
…(しおりは泣いていた)
「お母さんはね、それで温泉旅行に夢乃さんを推したの」
「もうこんな田んぼばかりの生活は嫌、私だってもう18よ。ひとり暮らしだってこなして見せる」
「こんなだったら、一人暮らしなんてするんじゃなかった。実家でのんびりしとけばよかった…」
「それが元で最悪の事態になったとしても仕方がない。運が悪かったのだ」
「コンテストに出るなんて、無理無理、絶〜っ対ムリ!」
「本当の自分を庇ってばかり。きっとお祖母ちゃんと同じ気持ちだったのね。そんなしおりの背中を押してくれて、いつも応援してくれている夢乃さんに感謝なさいね」
(写真を手に取り、ポロポロと落ちる涙を拭きながら)、ウンと力強く頷くしおり。
「今の幸せを、今の自分を必要としている人と一緒に過ごす」お祖母ちゃんが叶わなかった夢を、今度は自分が叶えなさいーーー。
「やっぱり、似てると思う?ね、でしょ?そばかすとか」
「セーラー服が凄く似合ってる」
「でしょ?でしょ?相思相愛だって〜」
「うん、しおりそっくりだね。制服映えするとか、いつも不安そうとか、誰かの後押しがないと前に出れないとか。美人度で言えば断然、コッチ(写真を指さしながら)だなぁ」
「…素直に喜んでよ〜コッチは浸ってるんだから!」
「はいはい、『従者夢乃は、妄想に明け暮れるしおりをじっと見ていました』で、いい?」
「もう!」
「わかったわかった。しおりが私みたいに『ナイスバディ』になったら、その時褒めてつかわす」
「褒めてつかわすって…(時代劇の見過ぎだよ…)」
しおりはお母さんからもらった「お祖母ちゃんの写真」を、机の引き出しにそっとしまい込んだ…。
To be Continued. Episode Ø (ZERO).
注…写真は上下ともにセーラー服ですが、当時は「国民服」として下は「もんぺ姿」でした。写真は「お見合い記念写真として村に一つしかない写真館で撮影されたものを再現しました。作者の都合で、どうしても指先の表現を再現したく敢えて「上下制服姿」という写真にしました。ご理解下さい。
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