『我が家の新しい読書論』10-3
EMちゃん
輪読会を高架下でやっているのはこだわりなの?
網口渓太
しっくりこない?
EMちゃん
そうじゃないけど、キャンプならともかく読書会では珍しいわよね。
ESくん
ましてやいつも日が暮れてから始めるから、ランタンの灯りで読んでい
るっていうのも、よっぽどのこだわりを感じるよね。家では最近ずっとイ
ギリスのスクワット・レイヴのドキュメンタリーが流れてるし(笑)
EMちゃん
でも慣れてくると意外と心地よくて、折り畳みの椅子を買ってみたり、
大きめのトートも新調して、なんかちょっとインターネット時代以前の
感じがするのよね。
網口渓太
EMちゃんが本当に嫌ってなったら場所はよくある場所に変えるから。
一応一件は福島で押さえてる。そこも貸しスペースとはいえ一応高架下に
ある空間なんだけど(笑)じゃあ、90分は輪読したし、ちょっと飲み直しま
すか。

でもね、わざわざこの場所で輪読会をする理由は、現実にくっつけてみた
いビジョンがあるからなんだよね。だからこだわりがないと、すでにあるも
のの価値観に負けてしまう。もちろん既存の読書会も、大学の勉強会も尊敬
しているし大いに参考にはさせてもらっているけど、もっと高揚する場面が
浮かんでる。仕事終わりの時間帯からバラバラとストリートのいつもの場所
に集まって、その人らしくいながら、議論も交わせるようなね。
ESくん
ボクは網野さんが好きだから、都市のすぐそばで河原者感があって、橋
の下っていうのもいいよね。で、さっき聞いたんだけど、今年回し読んで
いく本はハキム・ベイの『TAZ』に決めたんだって。
EMちゃん
マジ!? ハキム・ベイにしたの。これは参加する人が限られるわね。

網口渓太
本当に右往左往したんだけど、EMちゃんに言われた通りに、余りに難
解な一冊だからね。でも連載の一回目から言っている通り家のキーコンセ
プトは「別」と「ネットワーク」だから、一時的自律ゾーンを問うこの本
を、一緒に読んでくれる仲間たちと喧々諤々するのは、いい時間だと思う。
特に重視している章は「ネットとウェブ」ね、これ必読。
ESくん
コードとモードにね(→10-1) 続けることが大事だね。一過性のも
のではなくて、元のイメージが理解できるような記号にしていかないと。
網口渓太
その通り。家の読書術の特徴は一つ目は、本を読むことで言葉から入っ
て言葉に出る「センスを磨く」こと。二つ目は戦後の経済復興を経て豊か
になった「近代の後継にふさわしい時代を創造し実装する」こと。詳しい
ことは(→3-3と4-3)で書いてある。じゃあ一冊引用しようかな。
どんな時代に書かれた本なのか、本の出版年や執筆された年を確認す
ることは読む上での鉄則です。特に、歴史書や古典、ひと時代前に書か
れた本を読む時に、この視点は欠かせません。
その時代時代で抱えている問題は違います。本の書き手が抱く「ビジ
ョン」と、どんな文脈から何を成し遂げたいと考えていたのかという
「ミッション」を読み解く上で、背景となる時代情報は欠かせないから
です。
さらに、古い本や過去の文献に当たる上で、ある人のビジョンを取り
巻く「人の動き」そのものも、大事な情報源となります。それは、細か
い方法論を追っているだけでは見えてこない視点です。
よく、こんな話をします。世の中には課題がたくさんあって、一つ一
つを順々にクリアしていくには、まず前提として「ビジョン」が必要で
す。私はものを考える時、最初に頭の中に座標軸のグラフを書いてしま
います。横軸に時間、縦軸に行動を置く。「このビジョンによって、到
達したいのはここだ」という点をグラフの右上に打ったとして、現状と
いう点とそれを結ぶと、その道程にある点の一個一個がはっきりとした
「解くべき課題」として浮かび上がってきます。
ビジネス的な例をあげると「30年後に現場の作業員の数が足りなくな
ってもやっていけるように、今年は3時間だけ自動化してみよう、来年
は10時間まで自動化しよう、そのために解決すべき課題は……」といっ
たプロセスです。
まずビジョンを設定することで、「これも解かなければいけない課題
だった」というラインが自然と見えてきます。バックキャストアプロー
チーあるべき未来を想定して戦略を考える、という思考法です。
そうした課題を解決していくための「方法」がテクノロジーだとする
と、このビジョンまでの道程に引いていく動機が「ミッション」です。
日本語でいう「使命」だと、若干精神論的な要素が入ってきてしまい、
微妙に意味合いが違うように感じます。私にとって「ミッション」のイ
メージは「これを果たすのがまさに自分の役割だ」と、ある意味では楽
しそうに自ら直覚しているようなものです。
ESくん
おぉ、落合さんか。でも落合さんの引用文を読んでから、さっきの下り
を振り返ると、「いつまで近代やってんだ」「センスも足りてない」って言う、渓太くんのペシミズムな念波が届いてくる気がする(笑)
EMちゃん
本読みは厭世主義が多いから。そこもハキム・ベイね(笑)
網口渓太
さすがメタに読んでくれるね。家の30年後のビジョンは、いつも言って
いるけどより多くの人が「月に二冊、本を買って読書している」未来だから。「読書で費やした一日を良い日という人がいるだろうか、だが、読書をして過ごした人生はいい人生である」(→4-1)のアニー・ディラード先輩
の言葉を信じてね。それ以外は好きな仲間と過ごせていたら問題なし。
ESくん
今夜は呑みますか。ちなみにこの本の86ページには「問題解決のセンス
を磨くのに最適な一冊」っていう章もあって、なかなか参考になるよね。
EMちゃん
この前落合さんが司会をされている番組に、落合さんのお母さんの落合
ひろみさんが出られてて、ちょっと息子の顔で出てる落合さんの様子が新
鮮でかわいかった。
ESくん
へぇ、「お袋の味はカラスミ炙りとフグと松茸」って、流石だね。家も
負けてらんない(笑) ねぇ、この話の流れだと樋口恭介さんの本とか引用
したくならない?
ディックはつねに風穴を探していた。切れ目を探していた。<この世
界>から<あの世界>へアクセスするための、<あの世界>から<この
世界>を見つめ直すための。
ディックは確かにそこにある<現実のもの>として、<不確かな現実>
を生きていた。そこでは真実と虚構は風見鶏のようにつねにくるくると
反転し続け、人間と非人間の境目はわからなくなり、生きているものと
生きていないものの境目はわからなくなる。全てのものは、生きている
感覚はあるものの生きているとは断言できない、<不気味なもの>と化
す。まるでそれは『ヴァリス』に描かれた世界に酷似した、高度に情報
化され、過度に接続された現代に生きる私自身がそうであるように。
網口渓太
嗚呼、楽しいなすごく楽しい。後で言おうと思ってたことをまんま言っ
てくれるんだもん。そうそう、現実と虚構、リアルとヴァーチャルなもの
を合わせて、競わせて、新しい揃いを作っていくこのプロセスなんだよね。
EMちゃん
私も今、梨木香歩さんの『からくりからくさ」を読んでて、女4人の共
同生活に人形が溶け込んでいく話を読んでいる最中だから、面白いかも。
ESくん
センスいいでしょ。輪読界のデュシャンと呼んでくれてもいいよ。
網口渓太
呼んで欲しいのね(笑) じゃあデュシャン、3千円渡すから、あそこの
コンビニでできるだけセンスのいいお酒とおつまみの買い足しをよろしく
頼んでもいいですかい?
EMちゃん
コンビニのセンスも問われるわね。ESくん、端から応援してる(笑)
時間は一方向に向かって流れるー少なくとも、人間の脳と身体は時間
をそのように認識する。そのため、過去も現在も未来も、全ての時間概
念は、単一の時間軸に沿って流れる単一の瞬間であると考えられている。
しかしながら本当はそうではなく、過去も現在も未来も単一のものでは
ありはしない。そこには複数の現実が折り重なって存在する。誰もそれ
を普遍的で定型的なものとして決めることなどできはしない。未来は便
宣的に措定される。確定されるわけではない。未来は無数にあり、認識
可能な選択肢はつねに複数存在する。全ての人間が選択の「時代」に呼
ばれる、人間の集合から成る社会が想定する一定の時間はー選択の繰り
返しによって方向づけられている。誰もが、「あのときこうしていたら
こうなっただろう/こうはならなかっただろう」と想像するように、社
会もまた、そうした想像力を持っている。人が夢をみるように、社会も
また夢を見るのだ。

