【R18】メルレを始めた私が堕ちていった理由⑤
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~慎重になろうとする私と、上回る彼~
※18歳以上推奨です。登場人物は、すべて成人です。
この作品はフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。
☆
産婦人科に行ったその日から、低用量ピルを飲み始めた。
佐伯との約束の日に飲めばちょうど七回。
先生が教えてくれた低用量ピルの効果が安定する最低の回数だった。
とはいえ、100%の安心があるわけじゃないのは分かっていた。
それに、性病は予防できないことも。
それらのことに不安はあった。
この時の考え方を今になって振り返ると思うことがある。
まるで、佐伯とそういうことをするために会うつもりみたいだと。
だけど、もちろんそんな気はなかった。
ただ、佐伯という得体の知れない存在に飲み込まれないようにするために必死だったに過ぎない。
だから、たぶん心配で電話してくれた明日香すら、煩わしかった。
確か、病院に行った翌日だったと思う。
「聡美、こないだの電話は何だったの?」
その声は、どこか怪訝を含んだものだった。
本当はそんなことないのかもしれない。
だけど私にはそう聞こえた。
彼女の性格から、興味本位で話を聞いてきたように感じてしまった。
「ごめん、明日香。落ち着いたら説明するから、今は待って」
だから、素っ気なくそう言って、電話を切ってしまった。
その態度は悪かったと思っている。
でも私は、当時の自分の気持ちが分かる。
それにたぶん、明日香には何も言わなくて正解だったと思う。
メルレを勧めた彼女のことを責めていたかもしれないと思うから。
そんなことをしたら、大切な親友を失っていたかもしれない。
それに、彼女に相談したら、大袈裟になっていた可能性も否定できない。
もし相談するとしたら、江戸さんが最適だったと思う。
彼だったら、何かいい案を出してくれていたかもしれない。
少なくとも、私の気持ちを落ち着かすことができたんじゃないかな。
だけど、江戸さんには相談しなかった。
佐伯は彼に似ていた。
もしかしたら江戸さんも、良い人なのは上辺だけかもしれない。
佐伯みたいに、恐怖の権化みたいな存在になるかもしれない。
当時の私はそう思っていたから。
そうやって私は、相談できるかもしれなかった二人を遠ざけた。
その結果、なんでも一人で考えなければいけなかった。
でも、それを上手くできるほど、私は賢くも強くもなかった。
例えば、佐伯が私の本名を知っていたことを考えた時もそうだった。
彼と二度目に会う日まで、どうして知っているのか、ずっと考えていた。
最初はサイトの情報からバレたかと思った。
プロフィールや書き方、住んでいる県、年齢、ちょっとした会話の断片。
それらから、私に辿り着けるんじゃないかと考えた。
でも、そこまで特定されるようなことは話していなかった。
次に思ったのはネット検索。
私はSNSをやっていなかったけど、明日香はやっていた。
そこには、多くの私の写真があるはずだった。
江戸さんに、サイトのプロフ画像は加工した方が安全だと聞いていた。
それなのに変えなかった。
特定しやすかった可能性は否定できなかった。
突拍子もない考えで言えば、佐伯と明日香が繋がっていた可能性。
明日香を初めてイカせたのが佐伯かもしれない。
そんなことまで考えてしまった。
だけど、私が佐伯と連絡をするかなんて予測できないはずだ。
それに、明日香が私をハメる理由なんてない。
仮にあったとしても、そんなこと考えたくなかった。
最後に思ったのは、前回のラブホで意識が混濁している時にスマホを見られたり、カバンの中の身分証を見られた可能性。
もちろん、そんなことをされた記憶はない。
でも酩酊状態だったから分からない。
だからなのか、なんとなくその可能性が一番高い気がした。
ただ、結局は分からない。
色々と考えたけど、その辺が私の限界だった。
それに、答えは私の考えたどれでもなかった。
――水曜日。
前回と同じお店で佐伯と待ち合わせた。
前回と同じように、私が先にお店に来た。
だけど、前回と違って、この時はアイスティーを頼んでいた。
「よぉ」
そう挨拶しながら後から来た佐伯は、相変わらずチャラかった。
私は強い視線で彼を見た。
佐伯はニヤッと笑った。
怖かった。
だけど、気持ちを奮い立たせた。
「どうして、本名を知っているんですか?」
佐伯が座ると、すぐに話を切り出した。
彼は慌てる様子もなく、私を見た。
「サイトで初めて見た時、見覚えがあるって思ったんだよね」
(え? どういうこと?)
「まあ、全然思い出せないし、記憶違いかなって思ったんだけどさ」
(私のことを知っていた……?)
「ラブホで和也って言ったでしょ?」
(あ……)
確かに、酩酊状態で和也に触られていると思って、彼の名前を呼んだ……
「それで、もしかしたらって思ったんだよね」
(和也の知り合い?)
「会社で小鳥遊和也は、俺の直属の部下なんだよ」
私の手は、いつの間にか太ももを強く握っていた。
痛みを感じ、ゆっくりと手を解いた。
喉の渇きを癒すため、アイスティーの入ったグラスへと手を伸ばした。
「だからそれなりに関係も良好だし、結婚式の写真を見たこともある」
(そういうことか……)
「でもさ、確証はなかった」
(え?)
「だから、小鳥遊聡美ってメッセージを送ってカマかけたんだよ」
(そんなっ!?)
この時、グラスを落とさなかった私を褒めてあげたい。
愚かな自分のせいで、身バレしてしまった。
そのことにショックを受け、手が震えていたから。
なんとか、震える手でグラスをテーブルに置いた。
そんな私を、どこか楽しそうに佐伯が見ていた。
「そろそろ注文して良いかな?」
私が何も言えないでいると、佐伯はそう言い、店員を呼んだ。
「今日はお勧めの酒はどうする?」
次いで、そう言ってきたので、さすがに口を開いた。
「要りません」
「そう? 後で要るようになるんじゃないかな」
佐伯は薄く笑うと、やってきた店員に注文した。
そして、ゆったりと座り、何も喋らなかった。
私もつられたように何も話すことができないでいた。
やがて注文した飲み物が来ると、佐伯はそれを一飲みした。
そこで、ようやく彼は口を開いた。
「さて……」
そう言うと、佐伯はジッと私を見詰めた。
蛇に睨まれた蛙。
その使い古された言い回しがピッタリだった。
この時の私たちの関係性をよく表していると思う。
「とりあえずここに来てくれたし、この画像は削除しようか」
そう言って、佐伯が私に見せたのはスマホの画面。
そこにあるのは産婦人科で見た、私のいやらしい画像だった。
「や、やめてください」
「ん? 消すなって意味?」
分かっていながらの質問。
それが分かる表情だった。
カッとして大きな声が出てしまう。
「違います!! こんなところでそんなの見せないで!!」
「そんな大きな声を出すと注目されちゃうよ?」
佐伯にそう言われ、周囲に対して気まずくなった。
恥ずかしさもあった。
怒りは鎮まされた。
私は声のボリュームを抑えた。
「とにかく、早くしまってください。それと削除してください」
「はいはい、分かりました」
佐伯はスマホの画面を自分に向け、操作した。
「消したよ。まだ、動画はあるけどね」
「なっ!?」
私が驚きで大きな声を出すと、佐伯は左右に視線を向けた。
他人の目があるよ。
そういう意味だと悟り、私は口を閉ざす。
「動画を削除して欲しいなら、また前回みたいに、ね?」
佐伯の言いたいことは分かった。
私がそれに逆らえないだろうことも。
でも、嫌だという気持ちは消えない。
「脅迫じゃないですか」
負け惜しみみたいにそう言った。
できれば、この言葉を聞いて彼が怯んで欲しいと思った。
「脅迫ね……」
佐伯は、私の言葉を繰り返すと口角を上げた。
まるで私が面白いことでも言ったかのようだった。
「じゃあ、警察に駆け込んでみる? それとも訴える?」
佐伯の余裕そうな態度に、一縷の望みは消えたと分からされた。
しかも、彼は畳みかけてきた。
「それに、旦那に知られたくないでしょ?」
私はグラスを強く握った。
佐伯の言葉は核心だったから。
当時の私は、和也に夫以外の男に抱かれたと知られたくなかった。
知られれば和也に捨てられると思い込んでいたから。
そして、私は和也に捨てられたくなかった。
それは今でも変わらない。
そんな私だから、覚悟を決めるしかなかった。
もう、逃げられないと思ったから。
「お酒を頼んでも良いですか?」
私は結局、佐伯の言うとおりにお酒が必要になった。
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