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【R18】妻を差し出した夫の独白②

※前話はこちらからどうぞ。

※こちらも併せて読むと楽しんでいただけると思います。


~暗闇のクローゼットと、最初の「観測」~

※18歳以上推奨です。登場人物は全て成人です。
 この作品はフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。

 俺の中で開いてしまった狂気の扉。
 それはもう閉じることはできなかった。

 聡美の太ももに残っていた佐伯の生々しい指痕。
 その映像を思い出すと、佐伯が聡美を凌辱する妄想が頭を支配する。
 そして、熱く滾らせるのだ。

 頭がおかしい。

 あの指痕を見た日から、俺の日常は一変してしまった。
 緩やかに回っていた日常に、狂った歯車が入り込んだ感覚だった。

 会社に行けば、怒りと屈辱で震えてしまう。
 佐伯の顔を見るたびに、殴りたくなってしまう。

 だが、殴ってどうなるというのだろう。
 何も解決はしない。
 それに俺は犯罪者になってしまう。

 そう理由づけて、衝動を抑えていた。

 それならどうするか?

 警察に駆け込む?
 弁護士を挟む?

 そう考えもした。
 だが、脅迫されたという証拠がない。
 証拠になるとすれば、佐伯のスマホの中にあるだろう動画だ。
 だが、佐伯が合意だったとしらを切れば、通用しないかもしれない。

「時間を稼ごう」

 だから俺は、聡美にそう言うしかなかった。
 佐伯の要求に適度に応じながら、決定的な証拠を掴む。
 そして、あいつを社会的に抹殺する。
 それが最も安全な方法になるはずだ。
 そう考えていた。

 だがそれは……「はず」でしかなかった。

 俺は自分自身に言い訳を用意していたにすぎない。
 本当は、あの指痕の生々しさに囚われていただけだというのに。
 その事実に、当時の俺はまだ気づかないフリをしていた。

 だが、佐伯という男は、そんな俺に気づいていたのかもしれない。
 次に佐伯が要求してきたのは、常軌を逸したものだった。

「えぇっ!?」

 聡美がスマホを見て悲鳴にも似た驚きの声をあげた。
 反射的に、危険な物を遠ざけるように彼女の手からスマホを取り上げた。
 画面を覗くと、そこには佐伯からのメッセージがあった。
 俺は目を見開き、短い文章を何度も確認した。

『次の土曜の夜、家に行く。旦那を寝室のクローゼットに潜ませろ』

 佐伯は知っている。
 俺が佐伯と聡美の間に何があったのか知ったことを。

 なぜ?
 俺の会社での態度から発覚したのだろうか?
 それ以外は考えられないだろう。

 しかも、そのうえで要求している。
 だが、俺が二人のことを知ったので、聡美への脅しは成立しなくなった。
 どうするというのだろうか?

 着信音が鳴り、メッセージが来たことを知らせる。
 確認すると、佐伯からの再度のメッセージだった。

『そうしなければ、動画を見せる』

 そういうことか。
 聡美だけでなく、俺のことも脅しているのだ。
 狡猾な奴だ。
 しかも、どうかしている。
 自分の愛する妻が、別の男と……
 そんな現場に、俺を同席させろというのだ。

 俺は聡美にスマホを返した。
 彼女はスマホの画面を見て、目を見開いた。
 そして、助けを求めるように、俺にしがみついてきた。

「こんなの嫌だよ……和也、どうしよう……っ」

 聡美は怯えているのだろう。
 俺の胸にしがみついたまま、小さくなっている。
 清純で、無抵抗な、幼馴染の俺の妻。

 一方で俺の心臓は、恐ろしいほどの熱量で脈打ち始めていた。
 それは狂っている男に対する恐怖心からなんかじゃない。

 だが、あえて言えば、自分に対しての恐怖心はあったかもしれない。

 俺も狂っていたから。

 特等席で、見られる。
 聡美が、佐伯に組み敷かれる瞬間を、この目で。

 妄想ではなく現実を見たい。
 そんな頭のおかしな欲望を叶えたいと感じていた。

 ただ、そのことに気づかないでいた。
 いや、たぶん気づかないフリをしていたのだろう。
 証拠がないという言い訳があったから。

「聡美……従おう」
「え……?」
「動画に撮れば、あいつの言動のすべてが証拠になる」
「どういうこと?」
「証拠があれば、あいつを社会的に抹殺できる」
「でも……」
「何かあれば、すぐに飛び出して組み伏せる」
「……」
「聡美を一人でどこかに行かせるより、俺が近くで守った方がいい」
「……分かった」

 聡美は、小さく頷いた。
 俺が守ってくれるならと、しぶしぶ納得してくれた。
 当時の俺はそう思っていた。

 そもそも、俺の言ったことは本気だった。
 ただ、欲望を隠していた。

 ――そして、運命の土曜日が訪れた。

 夜の九時。
 インターホンの音が鳴り、聡美が玄関へと向かう。
 俺はすでに、寝室の大きなクローゼットの中に身を潜めていた。

 隙間はわずか数ミリ。
 暗闇の中で息を殺す。
 やがて寝室のドアが開き、自動で明かりがついた。

 聡美の後ろに続いて佐伯が入ってくる。
 そして、こちら(クローゼット)に視線を向けた。
 彼と目が合ったような気がして、ゾクリと震えた。

「……じゃあ、始めようか」
「待って。これが終わったら動画を消してくれるんですか?」
「ああ、そのつもりだよ」

 佐伯が、冷徹な低い声で答えた。
 彼は薄笑いを浮かべているように見えた。
 聡美は気づいているのだろうか。
 それとも俺の勘違いなのだろうか。

「じゃあ、そういうことで始めても良いかな?」

 聡美は小さく肩を震わせ、こくりと頷いた。
 そして、一瞬だけ俺の潜むクローゼットの隙間へと視線が向けられる。
 チクリと胸が痛んだ。

 佐伯の大きな手が、聡美の華奢な肩を掴み、乱暴に引き寄せた。
 衣服が擦れ合う音が、異常なほど大きく響く気がした。

 ストッキングが滑り落とされ、聡美のあの生白い太ももが露わになる。
 佐伯の太い指が、かつて指痕を刻んだ場所に、再び強引に食い込む。

「んっ……あ……」

 聡美の口から、小さな、押し殺したような声が漏れた。

 バクン、バクン、バクン。

 俺の心臓の鼓動は、破裂しそうなほどに強烈だった。

 俺のすべてだった妻が、別の男に衣服を剥ぎ取られていく。

 今すぐここを飛び出して、佐伯を殴り飛ばすべき。

 そう思った。

 確かにそう思ったんだ……

 なのに、俺の脚が床に張り付いたように動かなかった。

 クローゼットの僅かな隙間。
 そこから見える、聡美の姿。
 佐伯の大きな手に弄ばれ、見たこともないほど肌を上気させている。
 恐怖と羞恥に震えているはずなのに、なぜかそうは見えなかった。
 佐伯という男に屈してしまっている清純な妻にしか見えない。

 だめだ、だめだ、だめだ。

 そう強く拒絶した。
 だけどそれは何に対する拒絶だったのか。

 佐伯を止められない自分?
 佐伯に屈してしまっている聡美?
 それとも、猛烈に硬く猛り狂っている俺の下半身に対して?
 あるいは、そのすべてだろうか?

 怒りと屈辱の涙が、暗闇の中で頬を伝い、床に落ちていった。
 だが同時に、別の感情が爆発的に広がるのも感じていた。
 それは、最悪な背徳感による極上の興奮だった。

(ああ、俺は、守るためなんかじゃない……)

 ここで、ようやく俺は気づいた。
 もうすでに、この最悪な「特等席」に魅了されている。
 自分以外の男に汚されていく妻を覗き見る……
 そんな、歪んだ観測者へと変貌しつつあることを。

 ベッドの軋む音が、寝室の静寂を支配し始めていた。

 佐伯が聡美の上で腰を振っていた。
 クローゼットからは二人の表情は見えない。
 ただ、時々漏れ聞こえる聡美の喘ぎ声とも苦悶の声とも取れる声。
 それと佐伯の荒い呼吸が耳に届く。

 そして、少しずつ淫靡な水音が聞こえてきた。
 気づけば拳を痛くなるほど強く握り締めていた。
 喉がひりつくほど渇いていた。

 やがて佐伯の動きが止まる。
 その時に、ようやく終わったという安堵は確かにあった。
 だが、もう終わってしまったという寂しさもあった。
 では、どちらが強かったか。

 答えは明白だった。

 それでも俺はどこかで自分を誤魔化していた。

 終わったと思った佐伯の動きだったが、それは違った。
 佐伯はただ、体位を変えただけだった。
 正常位から後背位に変わった。
 相変わらず二人の表情は見えない。
 ただ、聡美の声は、苦悶よりも喘ぎ声に聞こえたし、淫靡な水音も大きくなっている気がした。

 ふと、枕元にあるスマホに気づいた。
 それは俺のスマホでも聡美のものでもない。
 佐伯のスマホだった。
 直感的に録画していると悟った。

 証拠のためと称して、この状況を俺も撮影している。
 だが、俺の動画では、二人の表情は映らない。
 クローゼット側から撮影しているからだ。
 でも、佐伯のスマホで撮った動画なら、その表情が見えるだろう。
 二人が、いや、本音を言えば聡美だ。
 彼女が、どんな表情をしているのか気になって仕方なかった。

 だが、その表情を見ることは叶わない。
 そして、そのまま佐伯がフィニッシュを迎えた。
 陰茎を引き抜き、聡美の豊かな尻肉の上に射精する。

(ああ、コンドームをしてなかったのか)

 その時にようやくそれに気づいた。
 中に出されなかっただけマシとすら思っていた。

「約束通り、前回の動画は消すよ」

 事後の処理を終えた佐伯は、スマホをいじりながら、そう言った。
 聡美は、うつ伏せで寝転がっていた。
 相変わらず表情は見えない。

「じゃあ、次回は今回の動画を消すってことで」

 佐伯は服装を整えながらそう言うと、あっさりと部屋を出て行った。
 少しして、玄関のドアの閉まる音が遠くに聞こえた。
 頭の中で佐伯の言葉が繰り返されていた。

「次回……」

 そう呟きながら、クローゼットの隙間から、ジッと聡美を見ていた。

※次話はこちらからどうぞ。


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