【R18】妻を差し出した夫の独白②
※前話はこちらからどうぞ。
※こちらも併せて読むと楽しんでいただけると思います。
~暗闇のクローゼットと、最初の「観測」~
※18歳以上推奨です。登場人物は全て成人です。
この作品はフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。
☆
俺の中で開いてしまった狂気の扉。
それはもう閉じることはできなかった。
聡美の太ももに残っていた佐伯の生々しい指痕。
その映像を思い出すと、佐伯が聡美を凌辱する妄想が頭を支配する。
そして、熱く滾らせるのだ。
頭がおかしい。
あの指痕を見た日から、俺の日常は一変してしまった。
緩やかに回っていた日常に、狂った歯車が入り込んだ感覚だった。
会社に行けば、怒りと屈辱で震えてしまう。
佐伯の顔を見るたびに、殴りたくなってしまう。
だが、殴ってどうなるというのだろう。
何も解決はしない。
それに俺は犯罪者になってしまう。
そう理由づけて、衝動を抑えていた。
それならどうするか?
警察に駆け込む?
弁護士を挟む?
そう考えもした。
だが、脅迫されたという証拠がない。
証拠になるとすれば、佐伯のスマホの中にあるだろう動画だ。
だが、佐伯が合意だったとしらを切れば、通用しないかもしれない。
「時間を稼ごう」
だから俺は、聡美にそう言うしかなかった。
佐伯の要求に適度に応じながら、決定的な証拠を掴む。
そして、あいつを社会的に抹殺する。
それが最も安全な方法になるはずだ。
そう考えていた。
だがそれは……「はず」でしかなかった。
俺は自分自身に言い訳を用意していたにすぎない。
本当は、あの指痕の生々しさに囚われていただけだというのに。
その事実に、当時の俺はまだ気づかないフリをしていた。
だが、佐伯という男は、そんな俺に気づいていたのかもしれない。
次に佐伯が要求してきたのは、常軌を逸したものだった。
「えぇっ!?」
聡美がスマホを見て悲鳴にも似た驚きの声をあげた。
反射的に、危険な物を遠ざけるように彼女の手からスマホを取り上げた。
画面を覗くと、そこには佐伯からのメッセージがあった。
俺は目を見開き、短い文章を何度も確認した。
『次の土曜の夜、家に行く。旦那を寝室のクローゼットに潜ませろ』
佐伯は知っている。
俺が佐伯と聡美の間に何があったのか知ったことを。
なぜ?
俺の会社での態度から発覚したのだろうか?
それ以外は考えられないだろう。
しかも、そのうえで要求している。
だが、俺が二人のことを知ったので、聡美への脅しは成立しなくなった。
どうするというのだろうか?
着信音が鳴り、メッセージが来たことを知らせる。
確認すると、佐伯からの再度のメッセージだった。
『そうしなければ、動画を見せる』
そういうことか。
聡美だけでなく、俺のことも脅しているのだ。
狡猾な奴だ。
しかも、どうかしている。
自分の愛する妻が、別の男と……
そんな現場に、俺を同席させろというのだ。
俺は聡美にスマホを返した。
彼女はスマホの画面を見て、目を見開いた。
そして、助けを求めるように、俺にしがみついてきた。
「こんなの嫌だよ……和也、どうしよう……っ」
聡美は怯えているのだろう。
俺の胸にしがみついたまま、小さくなっている。
清純で、無抵抗な、幼馴染の俺の妻。
一方で俺の心臓は、恐ろしいほどの熱量で脈打ち始めていた。
それは狂っている男に対する恐怖心からなんかじゃない。
だが、あえて言えば、自分に対しての恐怖心はあったかもしれない。
俺も狂っていたから。
特等席で、見られる。
聡美が、佐伯に組み敷かれる瞬間を、この目で。
妄想ではなく現実を見たい。
そんな頭のおかしな欲望を叶えたいと感じていた。
ただ、そのことに気づかないでいた。
いや、たぶん気づかないフリをしていたのだろう。
証拠がないという言い訳があったから。
「聡美……従おう」
「え……?」
「動画に撮れば、あいつの言動のすべてが証拠になる」
「どういうこと?」
「証拠があれば、あいつを社会的に抹殺できる」
「でも……」
「何かあれば、すぐに飛び出して組み伏せる」
「……」
「聡美を一人でどこかに行かせるより、俺が近くで守った方がいい」
「……分かった」
聡美は、小さく頷いた。
俺が守ってくれるならと、しぶしぶ納得してくれた。
当時の俺はそう思っていた。
そもそも、俺の言ったことは本気だった。
ただ、欲望を隠していた。
――そして、運命の土曜日が訪れた。
夜の九時。
インターホンの音が鳴り、聡美が玄関へと向かう。
俺はすでに、寝室の大きなクローゼットの中に身を潜めていた。
隙間はわずか数ミリ。
暗闇の中で息を殺す。
やがて寝室のドアが開き、自動で明かりがついた。
聡美の後ろに続いて佐伯が入ってくる。
そして、こちら(クローゼット)に視線を向けた。
彼と目が合ったような気がして、ゾクリと震えた。
「……じゃあ、始めようか」
「待って。これが終わったら動画を消してくれるんですか?」
「ああ、そのつもりだよ」
佐伯が、冷徹な低い声で答えた。
彼は薄笑いを浮かべているように見えた。
聡美は気づいているのだろうか。
それとも俺の勘違いなのだろうか。
「じゃあ、そういうことで始めても良いかな?」
聡美は小さく肩を震わせ、こくりと頷いた。
そして、一瞬だけ俺の潜むクローゼットの隙間へと視線が向けられる。
チクリと胸が痛んだ。
佐伯の大きな手が、聡美の華奢な肩を掴み、乱暴に引き寄せた。
衣服が擦れ合う音が、異常なほど大きく響く気がした。
ストッキングが滑り落とされ、聡美のあの生白い太ももが露わになる。
佐伯の太い指が、かつて指痕を刻んだ場所に、再び強引に食い込む。
「んっ……あ……」
聡美の口から、小さな、押し殺したような声が漏れた。
バクン、バクン、バクン。
俺の心臓の鼓動は、破裂しそうなほどに強烈だった。
俺のすべてだった妻が、別の男に衣服を剥ぎ取られていく。
今すぐここを飛び出して、佐伯を殴り飛ばすべき。
そう思った。
確かにそう思ったんだ……
なのに、俺の脚が床に張り付いたように動かなかった。
クローゼットの僅かな隙間。
そこから見える、聡美の姿。
佐伯の大きな手に弄ばれ、見たこともないほど肌を上気させている。
恐怖と羞恥に震えているはずなのに、なぜかそうは見えなかった。
佐伯という男に屈してしまっている清純な妻にしか見えない。
だめだ、だめだ、だめだ。
そう強く拒絶した。
だけどそれは何に対する拒絶だったのか。
佐伯を止められない自分?
佐伯に屈してしまっている聡美?
それとも、猛烈に硬く猛り狂っている俺の下半身に対して?
あるいは、そのすべてだろうか?
怒りと屈辱の涙が、暗闇の中で頬を伝い、床に落ちていった。
だが同時に、別の感情が爆発的に広がるのも感じていた。
それは、最悪な背徳感による極上の興奮だった。
(ああ、俺は、守るためなんかじゃない……)
ここで、ようやく俺は気づいた。
もうすでに、この最悪な「特等席」に魅了されている。
自分以外の男に汚されていく妻を覗き見る……
そんな、歪んだ観測者へと変貌しつつあることを。
ベッドの軋む音が、寝室の静寂を支配し始めていた。
佐伯が聡美の上で腰を振っていた。
クローゼットからは二人の表情は見えない。
ただ、時々漏れ聞こえる聡美の喘ぎ声とも苦悶の声とも取れる声。
それと佐伯の荒い呼吸が耳に届く。
そして、少しずつ淫靡な水音が聞こえてきた。
気づけば拳を痛くなるほど強く握り締めていた。
喉がひりつくほど渇いていた。
やがて佐伯の動きが止まる。
その時に、ようやく終わったという安堵は確かにあった。
だが、もう終わってしまったという寂しさもあった。
では、どちらが強かったか。
答えは明白だった。
それでも俺はどこかで自分を誤魔化していた。
終わったと思った佐伯の動きだったが、それは違った。
佐伯はただ、体位を変えただけだった。
正常位から後背位に変わった。
相変わらず二人の表情は見えない。
ただ、聡美の声は、苦悶よりも喘ぎ声に聞こえたし、淫靡な水音も大きくなっている気がした。
ふと、枕元にあるスマホに気づいた。
それは俺のスマホでも聡美のものでもない。
佐伯のスマホだった。
直感的に録画していると悟った。
証拠のためと称して、この状況を俺も撮影している。
だが、俺の動画では、二人の表情は映らない。
クローゼット側から撮影しているからだ。
でも、佐伯のスマホで撮った動画なら、その表情が見えるだろう。
二人が、いや、本音を言えば聡美だ。
彼女が、どんな表情をしているのか気になって仕方なかった。
だが、その表情を見ることは叶わない。
そして、そのまま佐伯がフィニッシュを迎えた。
陰茎を引き抜き、聡美の豊かな尻肉の上に射精する。
(ああ、コンドームをしてなかったのか)
その時にようやくそれに気づいた。
中に出されなかっただけマシとすら思っていた。
「約束通り、前回の動画は消すよ」
事後の処理を終えた佐伯は、スマホをいじりながら、そう言った。
聡美は、うつ伏せで寝転がっていた。
相変わらず表情は見えない。
「じゃあ、次回は今回の動画を消すってことで」
佐伯は服装を整えながらそう言うと、あっさりと部屋を出て行った。
少しして、玄関のドアの閉まる音が遠くに聞こえた。
頭の中で佐伯の言葉が繰り返されていた。
「次回……」
そう呟きながら、クローゼットの隙間から、ジッと聡美を見ていた。
☆
※次話はこちらからどうぞ。
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