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【R18】夫を差し出した妻の独白①

※前日譚はこちらからどうぞ

※こちらの記事も併せて読むと楽しんでいただけると思います。

※次話はこちらからどうぞ。


~太ももの「指痕」と私の偽証~

※18歳以上推奨です。登場人物は、すべて成人です。
 この作品はフィクションです。実在の人物・出来事とは関係ありません。

 愛する夫、和也(かずや)に知られれば、捨てられるかもしれない。
 だというのに、私は夫以外の男から逃げることができないでいた。
 和也の上司である佐伯という男と、半年前から関係が続いていた。

「どうしてこんなことをしたんですか!?」

 その日、珍しく佐伯は私の太ももを強く触った。
 最初は力加減を間違えたのかと思ったけど、きっと違う。
 彼の悪びれない顔を見たら、故意に指痕をつけたとしか思えなかった。

「大丈夫。もし、旦那に見つかっても、前に教えたとおりに言えば良い」
「そんなの言ったって、駄目に決まってます!!」

 かつて佐伯が語ったのは、無理がある言い訳だった。
 そんなものに頼るわけにはいかない。
 この時はそう思っていた。

 太ももについた指痕を消そうと擦ってみた。
 だけど、無理だった。
 それに、もう帰らないといけない時間だった。

「旦那が動画を見るより、指痕を見つける方がマシじゃない?」
「もう帰ります!!」

 佐伯の質問には答えなかった。
 彼は私とセックスをした時の動画を持っている。
 その動画があるから、私は佐伯から逃げられずにいた。
 夫には決して見られたくなかったから。

(この指痕を見られなければいい)

 風呂上りは、バスタオルで隠せば大丈夫だろう。
 夜、和也に求められたとしても、寝室の電気を消してもらえばいい。
 そんな風に誤魔化すことばかり考えていた。

 だけどそれは、あまりにも安直で、楽観的な考えだったと思う。
 だからなのかもしれない。
 お風呂上りに、あっさりと和也に指痕を見つけられてしまった。

 バスタオルを巻いて、寝室に入った。
 隠せているつもりだった。
 だけどどこかで、私には抜けているところがあったんだと思う。
 半年間、佐伯との関係を隠せていたことの慢心だったのかも。

「聡美、それ……どうしたんだ?」

 和也は抑えようとしているみたいだったけど、その声は少し震えていた。
 その声を聞いて分かってしまった。
 彼は信じたくないけど、疑ってもいると。

「――っ!?」

 悲鳴を上げたかった。
 だけど声にならなかった。
 ただ、膝の力が抜けて立っていられなかった。

 床の上に座り込む。
 そのまま倒れて気絶してしまいたいとすら思った。

 だけど、それは耐えた。
 それでも、全身から血の気が引いていく気がした。
 瞳からは勝手に涙が溢れ出した。

 そんな状態でも、どうすれば和也に捨てられずに済むか考えていた。
 それは冷静な私、なんかじゃない。
 この時の私は、愛する夫に捨てられるかもしれないと怯えていた。
 だからこそ、そうならないためにどうすればいいか必死だった。
 そして、そんな私に聞こえたのは佐伯という悪魔のささやきだった。

「ごめんなさい、和也……っ。ごめんなさい……」

 そう言って泣き崩れる。
 演技なんかじゃない。
 だけど私は、この時に嘘をつく覚悟を決めた。

「実は……」

 私は、最初に佐伯のことを知っているか聞いた。
 和也は、どうして彼の話が出てくるのか不思議そうだった。
 だけど、佐伯が二か月前に家に訪ねて来た……
 その嘘を切り出すと、表情が変わった。

 和也の会社の上司――佐伯響也(さえききょうや)。
 彼から、和也が仕事で大きなミスをして賠償金の支払い義務を負った。
 そう聞いたと和也に伝えた。

「そんな事実は……ない」

 和也は私を怖がらせないためか、感情を抑えながらそう言った。
 そんな事実がないことは、もちろん分かっていた。
 だけど嘘をつく。
 私は佐伯の影響で嘘をつくのが上手くなっていた。

「ごめんなさい。だけど、その嘘を信じてしまったの」

 私の言葉に、和也はグッと次の言葉を飲み込んだ。

 そして、佐伯が和也をかばうことができると聞いて――
 彼の望むままに、一度だけという約束で抱かれてしまった。
 そう、話した。 

 もちろん、そんな事実はない。
 そういう流れで関係を持ったわけじゃない。
 だけど、どうやって佐伯と関係を持ったか、和也には言えなかった。
 だから、嘘を重ねる。

「その後は、バラされたくなければ言うことを聞けって脅されて……」

 最初は、一度だけの約束だと断った。
 だけど、決定的な証拠を見せられて観念してしまった。
 これには少しの本当も混ざっている。
 私は望んで佐伯と関係を持ったわけじゃない。

「佐伯は、私とのことを動画に撮っていたの……だから、今日……」

 抱かれてしまったと言った。
 動画で脅された後は、この一度だけとも。
 本当は半年間で十回以上抱かれてる。
 だけど、嘘をついた。
 これは、佐伯に言われたからじゃない。
 そう言った方が、和也が許してくれるかもしれないと思ったから。

 それに……

「和也に知られたら、絶対に離婚されると思って……」

 これは、本当のこと。
 心の底から思っていたことだった。
 だから私は、和也の足元にしがみつきながら、泣いた。
 捨てられたくないという思いが、そうさせたんだと思う。

 私の話を聞いて、和也は身体を震わせていた。
 ただ、顔をあげて彼の表情を確認することはできなかった。
 とても怖かったから。

 じっと、和也が何かを言うまで待っているしかなかった。
 判決を待つ被告人みたいだった。

「あ、あ……」

 だけど和也は、喉に何か詰まっているみたいに、そう言うだけだった。
 とても大きなショックで、そうなってしまったのかもしれない。
 あまりにも怒りが大きくて、そうなっているかもしれない。
 そう考えると怖くて仕方なかった。
 何かを言わないといけないと心が追い詰められて……

「和也……怒ってるよね……? 私のこと、汚いと思うよね……?」

 そう言うのが、やっとだった。
 和也の顔を見るのが怖かった。
 だけど、彼の顔を見ないといけない。
 意を決して、顔を上げて、和也の表情をうかがう。

「……聡美」

 和也は私の名前を呟くと、床から抱き起こして、ベッドに座らせた。
 少しだけ許しを期待した。
 彼は、私の太ももに優しく手を置いた。
 その手は、佐伯の指痕を隠しているように見えた。
 駄目かもしれないと不安になった。

「大丈夫だ。俺が守るから」

(え?)

 和也は、そう言った。
 一瞬、意味が分からなかった。
 ただ、それよりも彼が私を責めないことに安心した。
 どうやら、和也に捨てられないで済んだと。

 そして、一息ついたことで――

(ああ、そういうことか……)

 佐伯から守ってくれるという意味だとようやく理解した。

※次話はこちらからどうぞ。

※2026/08/12に加筆修正しました。

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