(書評) 最近読んだ本からランダムに⑪---実力派作家の、少し前の文芸書ほか
※私が最近読んだという意味で、新刊とは限りません。今回は、1作を除いて古めの作品です。
追記:noteからお知らせ。閲覧ありがとうございます。

★「阿弥陀堂だより」 南木佳士 (文春文庫)

初出が1995年で映画化されたから、既にお読みの方も多いのでは。
前にも書いたけど、私は文芸書では好きな作家の本を狭く深くしつこく読むタチで( ^ω^;)、著者のお名前は知っていたが作品は未読だった。
これいいなあ。未読だったのを恥じるわ。
とてもハートウォーミングで爽やかな物語。
「書けない」小説家の夫・孝夫と、優秀な医師だがストレスとプレッシャーから心の病に罹った妻・美智子。夫婦は心機一転するために孝夫の故郷・信州の寒村に移住する。二人が家を建てる集落は高齢者が殆ど。店も何もない過疎地だ。孝夫は住民の農作業や力仕事を手伝い、家計を支える美智子は、近くの(といっても片道2キロ)診療所の医師として、体に無理のない時短勤務を始める。
二人は、代々村人の霊を祀る阿弥陀堂の堂守・96歳のおうめさんという老婆に出会う。明るい性格の、質素で慎ましい働き者だ。一見飄々としながら地に足をつけて生きるおうめさんと交流して豊かな自然に触れるうちに、美智子の心と体は徐々に癒やされていく。
おうめさん繋がりで出会った、難病と闘う健気な若い女性の病状が悪化。懸命な治療を通じて、美智子は医師としての熱意や意欲も取り戻し…。
おうめさんのキャラが抜群に良く、悪意の人が出て来ない。
心が疲れ気味のときに寄り添ってくれる物語。
著者は医師でもあり、ご自身も後年、心の病に苦しんだご様子。
他の作品も読む予定。
★「明るい旅情」 池澤夏樹 (新潮社)

『夏の朝の成層圏』『スティル・ライフ』(芥川賞受賞作) 好きだった。
この人は、私が開高健と並んでズバ抜けた頭の良さを感じる作家。物凄い博識かつ端正で非の打ち所のない完璧な文章。獲っていない文学賞は無いんじゃなかろうか。
本書はタイ、ハワイ、ヤップ(コウモリの話もある)、ナイル、沖縄、イギリス、イスタンブール、北欧…著者が住んだり訪れたりした世界中の様々な場所の旅行記(そういえば開高健も世界を旅した)。
確かな眼と深い思索で捉えられた世界の断片とエピソードが、湿り気のない明晰な筆で描かれる。イギリスという国についての鋭い考察には(行ったことないのに)なるほどと思った。
頭のいい人の文章は、決して難解にならず分かりやすい。内容もタイトルのように風通しが良い。何も文句はないんだけど、学級委員長的な読後感というんでしょうか…。
汽車は結ぶものであり、担うものであり、運ぶものであり、散らすものであり、そしてまた散っていった人々を再び故郷に帰すものだ。飛行機と電話はこの世界をつくづく狭くしてしまったが、しかし、幸いなことにこの世界はまだ汽車が思う存分に走りまわれるほど広くもあるらしい。それをぼくは本当に嬉しいことだと思う。(本書より)
★「Cloud on the 空き家 」 小池 昌代 (講談社)
今回のラインナップで唯一新しい作品(2025年刊)。前述のように(文芸書は)好きな作家のものを狭く深く読むので、実はこの方も知らず、未読だった。小説家・詩人で賞も多数獲っている方なんですね。
これは、やや浮世離れしているというか、浮遊感のある小説。
主人公は50代の独身女性。和歌が好きで詳しい。兄を亡くして天涯孤独の無職。経済的に困り、空き家管理のパートを始める。給料は少ないが、週3日だけマイペースで働ける。
空き家は傷みも汚れも激しい。ネズミもいて掃除が大変だが、ひっそりと静かな異空間のような家は、老いを感じ始めた主人公がぼーっと雲を眺めたり、ウトウト昼寝が出来る稀有な場所でもある。
しかし、空き家の持ち主の甥が入居することになり、仕事を失いそうに…。その青年は若いのに礼儀正しく和歌にも通じて、前世で縁があった気配も。
人生の夕暮近く、エアポケットに入ったような物語。
★「長くのびた盆地」 ジョン・スタインベック (岩波文庫)

前に書いた『チャーリーとの旅』に続いてのスタインベック。
彼の代表的な短編を新訳した2026年発行の新しい本。初期の作品もあり、これを読むと彼の短編が大体把握できる。
収録作
マム(西洋菊)、白いウズラ、ヘビ、朝めし、ハーネス(締め具)、ジョニー熊、
殺人、赤いポニー 他。
牧場で暮らす少年の成長物語『赤いポニー』は映画化され、『赤い子馬』のタイトルでも知られている。
読んで感じたのは、色んな傾向とスタイルの作品があって一貫性がないことと、「こういうのも書くんだ」の意外性。
訳者(青山南氏)によると、スタインベックが売れない頃、編集者共々どんな話なら売れるかを模索して色んなテイストの作品を書いたらしい。一貫性が感じられないのは、そのためのようだ。
(※以下の男性的、女性的という言葉はジェンダー的によろしくないですが、他意はありません)
『怒りの葡萄』の印象が強く、私はスタインベック=男性的な作品のイメージを持っていた。ヘミングウェイのように乾いたハードボイルド+豪放・野性風味ではなく、ジャーナリスティック+ややシニカルで凛とした感じ。
それが『チャーリーとの旅』でイメージが変わり、これを読んで更に「こんな女性的な、繊細で哀感のある作品も書くんだ」と少し驚いた。
特に『白いウズラ』は、著者名を伏せたらスタインベックと当てられる人は殆どいないのでは? 私が最も好きだと思った劇的な『ジョニー熊』も「こういうのも書くんだ」の一編。
ただ、正直どうもなあ…の作品もある。このまま小器用な短編作家としてやっていたらone of themで終わって、後年の名作は生まれなかったろうと。
あとがきによると、常にヘミングウェイと比較され、ノーベル文学賞も批判され(長年のブランクのため)、米文学の巨匠といえど生前は常に厳しい評価にさらされていたとか。そりゃ、チャーリーと旅に出たくもなるよね。
『チャーリーとの旅』も本書も、訳者によるあとがきがとても詳しい。スタインベックについて知りたい方は、この2冊のあとがきをお薦め。

★「自転車ぎこぎこ」「こぐこぐ自転車」「大東京ぐるぐる自転車」
伊藤 礼 (出版社は色々)

著者は小説家・伊藤整の息子。大学の先生で文筆家。軽妙なエッセイ等の著作がある。
古稀の手前で本格的に自転車に目覚めて、ママチャリ、マウンテンバイク、折り畳み自転車等を乗り分けて都内、関東から北海道等の遠方まで遠征する。喜寿になっても自転車で走り回る " 銀輪の翁 ” 。
…と言うと、いかにも元気なシニアが颯爽と乗りこなしているように聞こえるが、実際はマッチョなスーパーシニアには程遠い。衰えた細腕・細脚に鞭打ち、ヨレヨレ、トホホ…な道中。
ひたすら自転車を漕いであちこち巡る身辺雑記は、爆笑路線ではなく飄々とした味わい。私もつられて3冊読んだ。流石に自転車話を3冊読むとお腹一杯 (;´ω`)
ユーモラスな菜園の本も好評。

私はエディット・ピアフ(誕生日が同じ)の大ファンで、随分前に美輪明宏氏の「愛の讃歌」の舞台を見ました。
美輪氏は、「愛の讃歌」の岩谷時子氏の有名な訳詞「あなたの燃える手で…」を「この歌は男と女が四畳半でどうのこうのという歌じゃない」と嫌っていて、「たとえ空が崩れ落ちても…」的なスケールの大きい歌詞で歌っていました。私が見た舞台は、とても力強く緊張感がありました。
「この方は不死なのでは」と本気で思っていたので、訃報を聞いて驚きました。私は『幻魔大戦』のフロイの圧倒的な声が忘れられません。「私の名はフロイ…」まさに神降臨の声。また昭和が消えました。

元々はコピーライターです。コピーを学んでみたい方に。
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