澁澤龍彦的ヨーロッパ旅 ボマルツォ村の怪物庭園
最近、読書が趣味になった。
本を読んでいると、ときどき「この場所に行ってみたい」と思うことがある。
本の中で想像していた風景と、現実の風景を重ね合わせてみる。そんなことをしてみたくなって、好きな本に出てきた「気になる場所」を少しずつ記事にしていこうと思う。
第1回は、澁澤龍彦の『ヨーロッパの乳房』に登場する場所。
この本には、澁澤龍彦が約2か月にわたってヨーロッパを旅した際のエッセイが収録されている。
その中でも、特に気になったのが、イタリア・ボマルツォ村にある「怪物庭園」だ。
ボマルツォ村の怪物庭園
ローマから車で1時間半ほど。
イタリア・ラツィオ州のボマルツォ村には、森の中に奇怪な彫像が点在する、不思議な庭園がある。
正式には「聖なる森(Sacro Bosco)」、あるいは「怪物庭園(Parco dei Mostri)」と呼ばれている。
澁澤先生によると、門を入ってすぐのところには、左右対称に向かい合うスフィンクス像がある。
その左側の台座には、古いイタリア語で次のような銘が刻まれているらしい。
CHI CON CIGLIA INARCATE
ET LABRA STRETTE
NON VA PER QVESTO LOCO
MANCO AMMIRA
LE FAMOSE DEL MONDO
MOLI SETTE
眉をあげ、唇をひきしめて
この地を過ぎ行かずんば
世界の七不思議の最たるものを
嘆賞するも叶うまじ
もう少しわかりやすい言葉に置き換えるなら、
「不機嫌そうな顔をして、この場所を素通りする人は、世界の七不思議にも匹敵するようなものを見逃してしまうぞ」
とでもいうところだろうか。
この庭園を歩く人に対して、「最初からしっかり見ろ」と警告しているようだ。
ボマルツォの庭園には、こうした訪問者に問いかけるような碑文がいくつもある。
森の中から突然現れる怪物たち
その名のとおり、怪物庭園には巨大な怪物や神話上の生物、傾いた建物などが配置されている。

森の中の小怪は、丘にいたる傾斜面を上がったり下がったりする。あるいていると、突如として森の樹々のあいだから、灌木の茂みのかげから、怪異な巨像がぬっと現れて、私たちを脅かせるという寸法である。
像には穴が開けられたものもあり、かつてはそこを水が流れ、噴水のような演出もあったらしい。
こうした仕掛けを考えると、この庭園は単なる鑑賞用の庭ではなく、訪れた人を驚かせたり、考えさせたりするための場所だったのかもしれない。
地獄の口
澁澤先生が「聖なる森」の中でもっとも奇抜なアイデアとして挙げているのが、巨大な口をぽっかりと開けた、人間の頭部の彫像だ。

この像は「地獄の口(Orco)」と呼ばれている。
人が立ったまま通れるほど大きく開いた口。
その内部はグロッタ(洞窟)のようになっていて、顔の内部には舌に見立てたテーブルが備えられている。
かつて、オルシニ侯に庭を案内された客人が、ここで、しばしの疲れを休め歓談したものと想像される。グロッタの内部で笑い声でも立てれば、その声は大きく反響して、口から外に飛び出し、あたかも地獄の魔王が哄笑しているようにも聞こえたことであろう。何という奇抜なアイディアであろう。
巨大な口には、「OGNI PENSIERO VOLA」という言葉が刻まれている。
「すべての思いが消え去る」という意味で、口の中で声を出すと、その声は洞窟のような空間に反響することで、現実の思考や不安を忘れることができるらしい。
中にいる人も、外で声を聞く人も、不思議な体験ができる
何とも奇抜で、想像力を刺激する仕掛けだ。
誰がこの庭園を造ったのか
この奇怪な庭園を造らせたのは、16世紀のイタリア貴族、ピエール・フランチェスコ・オルシーニ(Pier Francesco Orsini)。通称はヴィチーノ・オルシーニ(Vicino Orsini)。
たぶん、オルシニ侯という未知なる人物は、現代のシュルレアリストを狂喜させるような、サド伯爵風のエロティシズムとミケランジェロ風の巨人崇拝趣味をもって、世界の七不思議に挑戦しようとした、この時代のもっともすぐれたディレッタント的知人であったにちがいない。
この不思議な庭園が気になった方は、ぜひいつか訪れてみて欲しい。
📖今回参考にした本
澁澤龍彦『ヨーロッパの乳房』
ボマルツォ以外にも、ヨーロッパのさまざまな場所について書かれています。
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