【書籍】ロマンを現実に変える執念とは?現状維持を打破し、挑戦を続けるための企業文化づくりー古野清孝氏からの学び
『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書』(致知出版社、2025年)のp279「8月30日:人間の知恵はいつでもいまが始まり(古野清孝 古野電気名誉会長)」を取り上げたいと思います。
世界を変えたイノベーションの原動力
世界で初めて魚群探知機を開発し、世界の漁業に革命をもたらした背景には、未知の領域に対する純粋な願いとロマンがありました。この開発で培われた超音波の理論は、後に医学の分野へも応用され、現代の医療になくてはならない存在であるエコー技術へと発展を遂げることになります。海の魚を可視化できるのであれば、人間の体内も同じように見ることができるはずだという発想の転換が、がん細胞の発見や胎児の成長を見守る技術へとつながっていったのです。
この画期的な研究は、決して誰かから懇願されて始まったものではありませんでした。当時は超音波に関する深い学術的理論が確立されていたわけでもなく、開発者自身もその理論を完璧に熟知していたわけではなかったのです。
しかし、このような機械が世の中に存在すればどれほど素晴らしいだろうかという、強い未来への憧れと実現したいという切なる願いが、未知の扉を開く原動力となりました。ライト兄弟が航空力学のすべてを解き明かす前に「空を飛びたい」という一心で飛行機をつくり上げたように、世界で初めての偉業を成し遂げる瞬間には、常にこうした純粋な想いが根底にあるといえるでしょう。
ロマンと現実を繋ぐ執念と使命感
ただし、どれほど壮大な夢やロマンを描いていたとしても、それだけでイノベーションが形になるわけではありません。心の中に抱いたロマンを具体的な計画へと落とし込み、一歩ずつ着実に実行へと移していくリアリストとしての冷徹な視点が必要不可欠となります。若さと溢れるほどの情熱、そして何があっても諦めないという執念が揃って初めて、前人未到の開発は成功へと導かれるのです。
また、若年期に経済的な理由から高等教育へ進む道が閉ざされたという逆境も、結果的には固定概念に囚われない自由な発想を生む契機となり、開発を支える強みへと昇華されていきました。
当初は自分自身や家族が生きていくための糧を得る手段として始まった仕事でしたが、その地道な延長線上に探知機の研究が位置していました。しかし、戦中から戦後にかけての深刻な食糧難の中で多くの人々が苦しむ姿を目の当たりにしたことで、内面に大きな変化が生じることになります。一刻も早くこの装置を完成させて世の中の人々を救わなければならないという強い思いが芽生え、いつしかそれは自らの人生をかけた深い使命感へと変わっていったのです。
人知の無限性と絶え間ない挑戦
組織の規模が拡大し、製品が市場に行き渡るようになると、社内からは「これ以上の市場開拓は難しい」「技術的な限界に達した」という声が聞かれるようになることもあります。しかし、現状に満足して思考を止めてしまうような姿勢は、決して歓迎されるものではありません。自分が心から愛し、全身全霊を傾けて打ち込んでいる領域において、人間の知恵や可能性に限界が訪れることなどあり得ないからです。
偉大な科学者であるニュートンが「真理の大海は開かれることなく眼前に広がっている」と言い残したように、私たちが長い人生の中で知り得る知識や経験など、広大な世界の前ではほんの一握りに過ぎません。だからこそ、人間の知恵はいつでも「いま」この瞬間が始まりであり、常にそこが出発点となります。過去の成功体験に捉われることなく、常に新しい視点で目の前の課題と向き合うことで、さらに大きくて豊かな世界が目の前に広がっていくといえるでしょう。
昔社員が、「どの船にもフルノの探知機が付いていて売るところがない」とか「技術的にはこれ以上のものはできない」とか言ったことがありましたが、私はそういう考えは許しません。人間の知恵に終しまいなんてあるかと。好きで全身全霊打ち込んでいることなら人知は無限なのです。
ニュートンは、「真理の大海は開かれることなく眼前に広がっている」と言いました。私たちが人生で知り得ることなんてほんの一握りです。だから人間の知恵はいつでもいまが始まり。いつもそこが出発点であり、そこからさらに大きな世界が広がっていくのです。
人事視点の考察
ここからは、企業の成長と従業員のエンゲージメントを高めるためのアプローチについて考察を進めてまいります。未知の領域に挑むイノベーションは、最初から完璧な理論やデータが揃っているわけではありません。「これが実現したら面白い」「社会が豊かになるはずだ」という、従業員一人ひとりの純粋な初期衝動やロマンから出発することが多いものです。
日々の業務効率や短期的な成果を追い求めるあまり、こうした不確実ではあるものの夢のあるアイデアを摘み取ってしまわないような環境づくりを検討したいところです。例えば、公式なプロジェクトとして立ち上がる前の段階であっても、自身の興味関心に基づいた研究や発掘を許容するような、心理的安全性の高い仕組みを整えることが一手として考えられます。目先の数値目標の達成だけでなく、未来の可能性に投資するような大らかな文化を組織内に少しずつ浸透させていくことが、結果として次世代の事業の芽を育てることにつながるのではないでしょうか。
リアリティを持たせるための伴走型支援
どれほど素晴らしいロマンやアイデアであっても、それを具体的な実行計画に落とし込めなければ、組織の中での具現化は困難となります。熱意を持ったメンバーが孤立してしまわないよう、その熱量をリアリティのある事業計画へと転換するための対話や支援の場を設けることが意義深いと考えられます。
特に、若手社員や技術者が現場で抱く情熱に対して、経験豊富なメンターや他部署のマネジメント層をマッチングし、多角的な視点からアイデアをブラッシュアップできるような体制を整えたいものです。夢物語で終わらせないために、どのようなステップを踏めば社内の承認を得られるのか、どのようなリソースが必要なのかを一緒に整理していく伴走型の関わりが有効になるでしょう。これにより、情熱的な「ロマンチスト」が、着実に成果を生み出す「リアリスト」へと成長していく好循環を生み出すことができるといえるでしょう。
内発的動機づけと「使命感」を呼び起こすアプローチ
仕事に対するモチベーションが、「生活のため」「報酬のため」という外発的な要因から、社会や誰かの役に立ちたいという「使命感」や「内発的動機」へとシフトしていく瞬間には、個人の能力を大きく開花させる力があります。従業員が自分たちの手がけている業務が社会に対してどのような価値を提供しているのかを、肌で実感できる機会を定期的に創出することが考えられます。
顧客からの感謝の声を直接届ける場を設けたり、自社の製品やサービスが社会課題の解決にどのように寄与しているのかをストーリーとして共有したりする施策が効果的ではないでしょうか。単なる作業としてのタスク処理から脱却し、社会的意義を感じられるような仕組みをデザインすることで、個々の胸の内に自然と強い使命感が居座るような環境を目指したいところです。
「いまが始まり」というリスキリングとマインドセットの促進
市場環境が激しく変化する現代において、「これ以上の成長はない」「今のスキルだけで十分だ」という現状維持のバイアスは、組織全体の停滞を招く要因となり得ます。過去の成功や現在の専門性に甘んじることなく、常に学び続け、変化し続けることの大切さを伝えていくことが重要視されます。
「人間の知恵はいつでもいまが始まり」という精神を体現するために、年齢や年次に関わらず、いつでも新しい分野への挑戦や学び直しができるリスキリングの機会を豊富に提供することが求められます。
新たな知識を吸収することに対する心理的なハードルを下げ、失敗を恐れずに挑戦したプロセスそのものを評価する仕組みを導入することも検討に値するでしょう。常に学びの出発点に立ち続けることで、従業員一人ひとりの可能性が無限に広がり、それが組織全体の持続的な成長を支える強固な基盤となっていくいえるでしょう。
致知出版社が 50年近く探究してきた「人間学(=人間性を高める学び)」をテーマに、365人のプロフェッショナルの強烈な体験談から、 時代、業種、年齢、立場を越えて通底する「仕事と人生の法則」、「幸福に生きるためのヒント」を結晶化させた、全世代に贈る教科書です。
(=致知出版社の紹介から引用)
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