高丘親王航海記      澁澤龍彦

先に読んだ川上弘美の『三度目の恋』のモチーフになったということで、これまで一部しか読んでこなかった本書を手に取る。そもそもこうやって文庫というまとまった形で出ていたことを全く認識していなかったのは我ながら残念。

それはともかくとして、以前読んだ時も鮮烈な印象を覚えた、高丘親王の藤原薬子との幼少期の思い出が、改めて読み返してみても、何とも言えず魅惑的。多くの男性はあのようなエロティックな原体験を持ってみたいと少なからず思うに違いない。

本作品において、薬子と双璧をなす存在ともいえる秋丸(=春丸)の両性具有的な存在感とエロティックさも本書の肝と言える。その秋丸と春丸が入れ替わるくだりには、ほとんどの読者が度肝を抜かれたはず。僕自身てっきり、秋丸と春丸が後の道中を共にすると思い込んで、その後の展開を少なからず期待していたのだが。そういう期待をあっさりと裏切るのが、作者の真骨頂かも。

しかも、本作品は作者の最晩年に書かれたものだとということを考え合わせると、その思わぬ展開が一層意味深いものだと思えてくるのは僕だけか。そして、ラストで高丘親王の死に殉じるように春丸が鳥となって消え去るというのもありがちとはいえ、読者に深い余韻を残す。

後、「獏園」の終盤でそれまで憂鬱症を患っていたパタリヤ・パタタ姫と獏が繰り広げる狂態も特筆に値する。

また、本作品は筒井康隆の『旅のラゴス』とどこか似ていると感じ、実際そう思う人が少なからずいるとのこと。しかもこの二作品が出た時期も近いし。このあたりも深掘りする価値があるかも。(2025年8月8日読了)

いいなと思ったら応援しよう!