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【第1章】中学生の私がヤマギシの村で「資本主義の全否定」を確信した「入るよ~」とマヨネーズの話

■ まえがき
本作品は、筆者がこれまでの人生で遭遇してきた数々のカルト、マルチ商法、新宗教との関わりを、当時の記憶を基に書き起こした実話エッセイです。ただし、関係者のプライバシー保護および法的な配慮のため、大手の団体名を除き、個人の特定に繋がる具体的な支部名、個人名、地名、ホテル名などはすべて偽名への変更やボカし(抽象化)を行っております。特定の個人や組織を誹謗中傷する意図は一切なく、あくまで一個人の視点から見た集団心理の観察記録としてお楽しみください。


それは私が中学生の頃、まだ世間がバブルに浮かれていた時代の話である。
私の親は熱心な自然食品派で、その縁からか「ヤマギシ会」の食品を定期的に購入していた。親の友人にはさらに深く傾倒し、実際に全財産を捧げて「村人(実顕地への参画者)」になった家庭すらあった。
そんな環境の中、私はある時、体験入村という形で彼らの共同体へと送り込まれることになった。

緑豊かな敷地、聞こえてくる家畜の声。一見すると、のどかな理想郷(ユートピア)の風景がそこには広がっていた。
割り当てられた作業は、牛の世話だった。
大きな牛たちの足元に、ふかふかの藁(わら)を敷き詰めていく。中学生の私にとって、それはちょっとした非日常の体験だった。

村人の指導員からは、牛を驚かせないように声をかけてから藁を入れるよう指示されていたので、私は普段通りの感覚で「(藁を)入れるよ~」と声をかけながら作業を始めた。するとすかさず、そばにいた指導員から鋭い声が飛んだ。

「違う。『入るよ~』って言って!」

私は戸惑った。入れるよ、ではなく、入るよ。
彼らの理屈はこうだ。「私が藁を入れる」という表現には、人間が主、牛や自然が客という支配の構図(エゴ)が含まれている。人間も牛も藁も、すべては境界のない一つの循環であり、全体の一部なのだから「(藁が)入る」と言わなければならない――。
中学生のささやかな作業の一言にまで、彼らが信奉する「無所有一体」の思想的矯正が入る空間の異様さに、私はかなりの違和感を感じながら作業を続けることになった。

その違和感は、夕食の席で決定的なものとなる。
彼らの生活リズムは徹底されており、食事は「1日2回」と決められていた。現代社会の3回食は過剰な消費活動である、という思想の実践だ。空腹の中で出された夕食のテーブルに、村で手作りされたという特製のマヨネーズがあった。

ふと見ると、その容器の形状が奇妙だった。
一般のスーパーで売っている大手メーカーのマヨネーズは、キャップ(蓋)を下にして冷蔵庫に直立できるよう設計されている。しかし、ヤマギシのマヨネーズは頑なに直立できない仕様になっていた。
不思議に思った私が尋ねると、村人は事もなげに、少し小馬鹿にしたような笑みを浮かべてこう言った。

「あの容器を直立させるには、特許料ってやつを払わなければならないんだよ。ホントにバカみたいだろ~?」

その言葉を聞いた瞬間、中学生だった私の脳内に、言葉にならない衝撃が走った。
(特許をバカみたい、だって……?)
アイデアや技術を個人の財産として守り、それで利益を得る「特許」という仕組み自体を、彼らは人間の強欲が生んだ悪しきシステムとして見下していたのだ。地球上のすべては人類共有の財産であり、誰のものでもない。だから、資本主義のルールには1円たりとも従わない。
村人の誇らしげな顔を見ながら、私は中学生ながらに冷徹な結論に達していた。

「こいつら、資本主義を全否定しているな。……ここでの暮らしは、無いわ」

周囲の大人が「誰もが平等な理想郷」という美しい言葉に感動し、全財産を投げ打って入村していく中で、私は牛の足元とマヨネーズのボトルを通じて、そのシステムの「極端な不気味さ」を看破していた。

食事後だったか、中高生の子たち十数人で集まって、和室でミーティングのようなものがあった。その折に、おそらく村人だと思われる高校生のお兄さんが私のもとに近寄り耳打ちしてきた。

「ヤマギシの村人になったら、結構女の子と〇〇〇できるよ」

私もそういうことに興味深々な年頃ではあったのだが、「入るよ~」とマヨネーズの違和感を経験した後だったため最早それになびくことは無かった。「こうやって勧誘するんだな」と中学生ながら妙に冷静に考えいていた。

体験を終えて家に帰った私は、親に「あそこは無いわ」と率直な感想を告げた。幸いにも親はそこまで深くハマっていなかったため、それ以上入村を強要されることはなかった。
だが、私の3歳下の男の子(親の友人の息子)は、その後村人になったと後に聞いた。

のちにそのコミュニティが、子どもたちの強制労働や過酷な教育環境、環境の制限、そして脱退時の全財産没収トラブルで社会から激しい指弾を浴びるようになるのは、私がこのマヨネーズのロジックに寒気を覚えてから、そう遠くない未来のことである。


【次回予告】

第2章:シャブとアムウェイ
〜脳内報酬系の上書きという、恐るべき救済のパラドックス〜

次回お届けするのは、私がバイト先で出会った、4歳下の後輩の物語です。

バイト先の後輩だった、元暴走族リーダーの男。
彼は少年院に3回入ってもシャブ(覚醒剤)の依存から抜け出せずにいました。

そんな彼を「救った」のは、医療でも警察でもなく、アムウェイのコミュニティでした。
薬物依存すら簡単に上書きしてしまう、マルチ商法の圧倒的なマインドコントロールの凄まじさ。その異常な現場を、当時身近にいた私の視点から生々しく描き出します。

ぜひ、フォローしてお待ちください。


#エッセイ #ノンフィクション #実話 #ヤマギシ #カルト #マルチ商法

👇第2章の記事はこちら👇




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