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【第拾章】撥 家族間の対立・葛藤への介入――中立性を保ちながら関わる

対立に、理はない

 家族間の対立に、合理性がないことがある。根拠がないことがある。
 「なぜそこまで反対するのか」が、外から見ると判らない。施設に入れることに、なぜあの長男はあれほど頑なに反対するのか。なぜ次女だけが在宅にこだわるのか。理屈を聞いても、腑に落ちない。
 然しそれは当然だ。対立の根は、理ではない。積年の感情がある。過去の出来事がある。誰かが誰かに何かをされた記憶がある。誰かが誰かのために何かを犠牲にしてきた歴史がある。その堆積が、今の対立を作っている。そして多くの場合、その堆積は現世代だけで生まれたものではない。親の世代から引き継がれた関係性のパターンがある。その家族が代々繰り返してきた関係の型がある。「なぜ理ではないのか」の答えの一つは、そこにある。
 そこに理を持ち込もうとすること自体が、的外れになることがある。――「正しい方」を探すのではなく、「それぞれの事情」を読むこと。その転換が、家族への関わりの出発点だ。――

言い分を、受け取る

 対立している家族のそれぞれに、言い分がある。
 ケアマネジャーは、その言い分を受け取ること。長男の言い分も、次女の言い分も、それぞれの家族の言い分も。どれが正しいかを判定するためではない。それぞれの言い分の背後に、何があるかを読むためだ。
 受け取ることと、同意することは違う。「そうですね」という言葉が、同意として伝わることがある。「そういうお気持ちなんですね」という言葉が、受容として伝わる。この違いを意識すること。同意と受容を混同した瞬間、ケアマネジャーは一方の側に引き込まれる。
 話し合いが感情的になり、場の制御を失いかける場面がある。その時、「今日はここまでにしましょう」と場を収束させる判断を持つこと。強引に結論を求めない。場を壊さないために、引く勇気がある。それもまた、介入の技術だ。
 妥協点を探ることは、その次にある。妥協点は、全員が満足する地点ではない。全員が「まあ、これなら」と思える地点だ。そしてその地点は、一度の話し合いで見つかるものではない。複数回の関わりの中で、少しずつ見えてくる。「今日決めなければならない」という焦りが、対立を深めることがある。時間をかけることの許可を、ケアマネジャー自身が自分に与えること。

力関係を、読む

 家族の中には、力関係がある。
 声の大きい人がいる。黙っている人がいる。「みんなで話し合って決めました」という言葉の裏に、一人の意向が押し通されていることがある。表に出ない意向がある。沈黙の中に、押し込められた言い分がある。
 誰の声が出ていないか。誰が圧力を受けているか。その読みが、支援の方向を変える。
 特に、利用者本人の声が、家族の声に埋もれていないかを確認すること。「家族でそう決まりました」という言葉が届く。然し本人は、その決定をどう受け取っているか。その確認を怠ることは、本人不在の支援になる。――力関係の中で最も弱い者が、最も保護を必要としている。それは多くの場合、利用者本人だ。――

理念と現実の間に、立つ

 ケアマネジャーの本来の立場は、本人のそばに立つことだ。然し現実には、家族の介護負担軽減も重要な支援目標になる。
 介護離職防止。介護の社会化。これらは、社会として推進されるべき方向だ。然し時に、この方向は「本人の意向より家族の事情を優先する」という動きを帯びることがある。
 本人が「家族に迷惑をかけたくない」と言う時、その言葉の背後に何があるか。遠慮か。本心か。あるいは、「そう言わなければ家族から見捨てられる」という恐れか。
 その問いを持ちながら関わること。本人の言葉をそのまま「意向」として処理することの危うさを知っておくこと。然し同時に、家族の疲弊を軽視することもまた、支援の失敗だ。この葛藤に、答えは一つではない。葛藤を抱えながら、問い続けること。それが、本人のそばに立つということの実態だ。

中立とは、軸があることだ

 ケアマネジャーは「中立」であろうとする。然し中立とは、誰の側にも立たないことではない。
 全員の声を聴く。全員の事情を理解する。然しその上で、利用者の生活と権利を守るという軸から離れない。その軸があって初めて、中立は意味を持つ。
 軸のない中立は、ただの傍観だ。全員に気を遣い、誰の声も否定しない。その結果、最も声の小さい者、最も力のない者が、誰にも守られないまま取り残される。
 長く関わるうちに、気づかぬ間に一方の側に寄っていることがある。自分の家族との記憶が、判断を曇らせることもある。「自分はどちらかに引き込まれていないか」という自己点検を、定期的に行うこと。その自覚のために、スーパービジョンや同僚への相談が有効だ。一人で抱えない、という原則は、家族対立の場面にも当てはまる。地域包括支援センター、主任ケアマネジャー、MSW等、第三者の視点を借りることが、こじれた対立を動かすことがある。
 中立性を保つとは、全員に同等に配慮することではない。全員の声を聴いた上で、守られるべき者を守る判断を持ち続けることだ。その判断の軸が、ケアマネジャーの中立を支える。

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