「子どもにとっての絵本の世界」なぜ子どもたちは物語に惹きつけられるのか
オンラインで行われるモニター授業を通して、私は子どもたちの表情の変化や、何に興味を示すのか、多くのことを学ばせていただきました。
普段の授業では、自分自身が指導を行っているため、子どもたち一人ひとりの表情をじっくり観察することが難しい場面もあります。しかし、モニター授業では指導を担当しないため、子どもたちの表情や行動を落ち着いて見ることができました。
その中で、ある瞬間、ほぼ全員の子どもたちが一斉に動きを止めた時間がありました。
その表情は、とても「凛々しい」ものでした。
それが、絵本の読み聴かせの時間です。
「60秒の絵本」が始まると、画面が紙芝居のように切り替わりながら物語が展開していきます。すると、それまで身体を動かしていた子どもたちが自然と動きを止め、画面を見つめ、物語の世界へと引き込まれていくのです。
参加してくれた子どもたちの年齢はさまざまですが、この時間だけは、他の指導とは明らかに異なる空気が流れていました。
私は、この「60秒の絵本」には、絵本ならではの独特の力があるのではないかと感じています。
私たち大人が子どもに語りかける言葉の中には、どうしても指示や命令、説明が多く含まれます。
「片付けなさい。」
「静かにしましょう。」
「次はこれをやります。」
それらは、子ども自身に向けられた言葉です。
一方で、絵本の世界で交わされるのは、登場人物同士の会話です。
子どもたちは、その会話をただ聞いているのではありません。主人公になりきったり、登場人物に自分を重ねたりしながら、物語の中に自分自身を投影しているのだと思います。
そして、物語の世界を通して、投影した自分を少し離れたところから見つめているのかもしれません。まさに、”俯瞰して見る”という大人のようなものの見方を体感する時間なのかもしれません。
私は以前、子育てを支援する社団法人を設立した際の研修で、絵本とともに創作物語を積極的に取り入れていました。短い物語を実演する場を設けたこともあります。
創作物語では、子どもからの質問を受けたり、少し親子で会話したり、その会話を活かし、創作物語に組み込んだり、創作ならではのストーリー展開で互いに盛り上がったりできます。
子どもたちは、本当に物語が大好きです。
主人公になりきったり、何度も聞いた物語を、次の展開を予想しながら楽しんだりします。
先の展開が分かっていることは、子どもに安心感を与えます。そして、何度も同じハッピーエンドを経験することで、その安心感はさらに深まっていきます。
また、新しい話では、ドキドキ、ワクワク感があり、話の先を想像したり、こうなって欲しいという願いを込めたり、物語の面白さを自ら演出する場面も見られます。
こうした安心できる世界や、ワクワク、ドキドキの中で、子どもたちは冒険をし、悲しみを味わい、喜びを感じ、さまざまな疑似体験をしています。
それが、想像力や冒険心、そして好奇心を育てているのでしょう。
物語の力は、幼児だけのものではありません。
私は小学生や中学生にも、3分から5分ほどの短い物語をよく話していました。
「当たり前ではない話」として、身近な出来事や少し不思議な話をすると、中学生であっても驚くほど真剣な表情で聴き入ってくれます。
かつて、実際の新聞記事をもとにした少し不思議な出来事を話したとき、いつも元気いっぱいだった男の子が、神妙な顔つきで聞き入っていた姿を今でも鮮明に覚えています。
年齢に関係なく、人は物語に心を動かされる存在なのだと、その時あらためて感じました。
私自身、我が子に物語を聞かせるときには、まるでそこに絵本があるかのように、ページをめくる真似をしながら間を取り、話を進めていました。
すると、子どもはその世界に入り込み、目を輝かせながら耳を傾けてくれました。
授業での説明や指示の時間と、物語の時間。
同じ「言葉」でありながら、その向かう方向は大きく異なるように思います。
説明や指示は、外から子どもへ向かう言葉です。
しかし、物語は、子どもの内側へと入り込み、自分自身に向けられた言葉として響いているのではないでしょうか。
だからこそ、子どもたちは物語に惹きつけられ、そこから多くのことを学んでいくのだと思います。
私たちが絵本の読み聴かせを大切にしているのは、単に言葉を覚えさせるためではありません。
物語を通して、子どもが自分自身と出会い、自分の心と対話する時間を育みたいと願っているからなのです。
―― Ishikawa Method|基礎から未来を育てる教育へ
Ishikawa Education Research Institute
イエリ「石川教育研究所」
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