「”まずは”ありがとう」って言葉で部下は動かない
「まずはありがとう」
この言葉を聞いた瞬間、
身構えて次の言葉を待っていました。
こんにちは、井ノ部です。
「ありがとう」って、
本当は最高に嬉しい言葉ですよね。
言った側も、言われた側も心が温かくなる。
だから日常でも仕事でも、
積極的に使っていきたい言葉です。

でも、そんな最高の言葉なのに
なぜか素直に喜べない。
いや、むしろ警戒心すら抱いてしまう。
そんな残念な伝わり方を
してしまう場面があります。
それが「まずは、ありがとう」です。
上司が「褒めてから指摘」に入る前に使っていた言葉
私が会社員だった頃、
本当によくこのフレーズを耳にしました。
「ありがとう」の前になぜか
「まずは」という謎の前置きがくっつくんです。
これが付いた瞬間、次に飛んでくる言葉が
完全に予想できてしまいます。
「まずはありがとう。ただ、ここはもうちょっと工夫した方が……」
「まずはありがとう。でも、今回の資料なんだけど……」
ほら、やっぱり。
「ただ」とか「でも」が続くんですよ。
「まずは」が飛び出した時点で、
十中八九その次は逆接の言葉が来ます。
こうなると、受け手としては
「これから否定されるんだな」
と身構えてしまい、
前半の「ありがとう」なんて全く頭に残りません。
心の中では
「はいはい、本題はその後ろでしょ」と
冷めた感情すら湧いてくる。
純粋な「ありがとう」ならあんなに嬉しいのに。
もったいないですよね。
諸悪の根源は「サンドイッチ型フィードバック」?
何かを指摘したいときに、
先に感謝や誉め言葉を置いておく。
このなんとも言えない不自然な話し方、
元凶は巷に溢れるビジネス書や
ノウハウ本じゃないかと思うんです。
昔、私も読んだことがあります。
そこには「サンドイッチ型フィードバック」なんていう、
もっともらしい名前がついていました。
部下にネガティブな指摘をするときは
肯定的な言葉で挟み込みましょう、
というコミュニケーション術で、
肯定→否定→肯定、
と、ネガティブな話をポジティブな言葉で挟めば
角が立たずに指導ができる、と。
理屈はわかります。
でも、これをそのまま現場で使うと違和感が出ます。
ましてや「まずは」なんて頭につけちゃったら、
「これからあなたを指摘するけど、
ショックを受けないようにクッションとして
『ありがとう』を置いておくね」
という下心がバレバレです。
部下もそこまで鈍感ではありません。
ビジネス書の「まずは褒めろ」について
と、ここまで書いておいてなんですが、
「まずはありがとう」と言ってくる
上司を責める気はないんです。
彼らも、部下を嫌な気分にさせてやろうなんて
思っていないはずなので。
「部下との関係をギクシャクさせたくない」
「角が立たないように、優しく伝えたい」
という気遣いからきているんだと思います。
ただ、本に書いてあった
「指摘する前にまずは褒めろ」という教えを、
良かれと思って忠実に実践しているだけ。
本当に問題なのは、
このサンドイッチ型フィードバックを
「誰にでも効く万能なマネジメント手法」
みたいに紹介している”ビジネス参考書”です。

「多用すると、言葉のパターンを読まれて
信頼関係を壊すリスクがありますよ」
という注意書きもせずに、
お手軽なテクニックとして広めるから、
現場で悲しいすれ違いが起きてしまうんです。
「指示を出さない上司」が手本でした
そんなモヤモヤした経験があったので、
私自身は部下を持ったとき、
この手のテクニックはきっぱり封印しました。
で、そのときにお手本にしたのは、
昔お世話になった上司でした。

その上司は、部下に細かく
「ああしろ、こうしろ」と指示を出しませんでした。
チームの大きな方向性や
目標数値はしっかり共有してくれます。
そのうえで、具体的にどう進むかについては、
こちらから助言を求めない限り、
口を出さずに見守ってくれる人でした。
仕事を進める中で軌道修正が必要な場面でも、
その上司は決してダメ出しから入りません。
必ず「相談」という形でフラッと話しかけてくるんです。
「前に出した広告の数字、一緒に見てくれる?
お客さんの年齢層が想定より
ちょっと高かったみたいなんだよね。
もっと上の世代に響くキャッチコピーって、
どういう言葉にしたらいいかな?」
こんな具合に。
事実(データ)と目的をフラットに伝えたうえで、
「一緒に考えよう」というスタンスで余白を作ってくれる。
これが不思議と心地いいんです。
頭ごなしに否定されるわけでも、
不自然に持ち上げられるわけでもない。
対等なプロとして扱われていると感じられるから、
チームのメンバーはみんな自発的に動き、
それぞれが持っているポテンシャルを
存分に発揮できていた気がします。
小手先のテクニックなんていらない
こうして振り返ってみると、
ビジネスの現場でまことしやかに語られる
「これを使えば人が動く」みたいな
小手先のテクニックって必要ないのかもしれません。
褒めたいときは、心の底から全力で褒める。
改善してほしいときは、頭ごなしに指示するんじゃなく
部下の立場に立つ。
経営者視点ならぬ、現場視点です。

相手を上手く動かすために、
取ってつけたような誉め言葉を使う。
そんなテクニックは、見透かされます。
人と人とのコミュニケーションで、
部下だからと言って
その感性を甘く見てはいけません。
褒められても素直に喜べないのはしょうがない
逆にもし、自分が部下の立場で、上司から
「まずはありがとう、ただここは~」
と言われてモヤッとしても、
「素直に”ありがとう”を受け取れない私って、ひねくれてるのかな」
なんて落ち込む必要はありません。
あなたのその感覚は、真っ当ですから。
そして、いつかあなたに部下ができたときは
ビジネス書のテクニックなんて
使わないようにしましょう。
とは言いません。
ただ、相手には感情があります。
「こういえばこう反応する」なんてロボットではなく
人間だということを意識して
純度100%。本音の「ありがとう」をまっすぐに届ける。
これだけ意識すれば
小手先のテクニックに引っ張られることはないはずです。
内向型で、人付き合いが苦手で、
上層部との折り合いがつかずに独立を選んだ
そんな不器用な私でも、
本心から『ありがとう』を伝えていたら
メンバーに助けられてチームは回っていきましたから。
きっと大丈夫です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次のnoteでお会いしましょう。
匿名の質問箱を設置しました。
井ノ部への質問はもちろん、
頭の中でグルグル考えて
答えが出ないままになっているなどを、
書いてもらえたらうれしいです。
「こんなこと聞いて大丈夫かな」
と思うことほど歓迎です。
うまく言葉になっていなくても、そのままで大丈夫です。
※内容を記事のテーマにさせていただくこともあります。
