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55歳、昼休みの誘いを避けていた私が、会社を辞めて惜しくなったもの

「今、奥にいるよ」

昼休みになると、ときどきLINEが届きました。

画面を見た私は、心の中で、

「はあ……」

と、ため息をついていました。

送ってくるのは、違う売り場で働く年下の友達です。

私にとって昼休みは、仕事中で一番楽しみな時間でした。

一人の席に座り、まずはLINEマンガを読みながらご飯を食べる。

誰かと話しながら食べるより、マンガを読みながら食べるほうが、私には疲れが取れるような気がしました。

食べ終わると、本を読んだり、スマホで調べものをしたり、副業について考えたり。

私の中のブームは、ころころ変わりました。

でも、変わらなかったことがあります。

休憩時間だけは、自分の好きに使いたかった。

休憩時間が合うと、一人で本を読んでいる私の後ろから、よく肩をポンとたたかれました。

「また勉強してる?」

振り返ると、その友達が笑っています。

「今日は何を見てるの?」

私は本を閉じて、

「じゃあ、そっちに行くね」

と言い、席を立ちました。

一緒に食べれば、私も普通に話します。

お互いに持っているお菓子を交換したり、どうでもいい話をしたり。

でも本当は、

昼休みは、いつも一人でいたかった。

その子が嫌いだったわけではありません。

むしろ、地味で、話しても大して面白くない私を、昼ご飯に誘ってくれる数少ない友達でした。

たぶん、その子も分かっていたと思います。

私が一人で過ごすのを好むこと。

誘われると、少し面倒そうにすること。

それでも、何度も声をかけてくれました。

なのに私は、その好意を軽く考えていました。

LINEに気づいているのに、気づかなかったことにした日もあります。

あとから、

「ごめん、今見た」

と返信しました。

同じ従業員食堂にいるので、どこかで会うかもしれません。

だからLINEが届くと、私の自由時間が終わったような気がしていました。

一人で過ごせた日は、

「今日は一人になれた」

と、本気でうれしかったんです。

私が働いていた百貨店の従業員食堂は広く、いろいろな人がいました。

一人で本を読む人。

スマホを見る人。

黙ってご飯を食べる人。

数人で楽しそうに話す人。

一人でいても目立たない。

誰かと食べたければ、一緒に食べてもいい。

目が合った人と、その日だけ話してもいい。

私は、そんなふうに過ごし方を選べる場所が好きでした。

それなのに、なるべく誰とも目を合わせないようにしていました。

知っている人を探さず、一人で座れる席だけを見て、まっすぐ歩く。

声をかけられる前に座ってしまえば、その日の昼休みは私のものです。

私は、あの自由を、ほとんど一人でいるためだけに使っていました。

その後、私は急に職場を離れ、そのまま会社を辞めました。

最後に職場へ挨拶には行きましたが、その子とゆっくり話すこともないまま、職場をあとにしました。

会社を辞めた今、時間はいくらでもあります。

本を読む時間も。

副業について考える時間も。

一人で過ごす時間も。

朝からNetflixを見て、気づけば昼になっている日もあります。

あれだけ欲しかった時間なのに。

会社を辞めてからも、その友達はときどきLINEをくれます。

「元気?」

「どうしてる?」

私は、

「今度、カラオケでも行こうね」

と返しています。

今になって思うと、あの子は広い従業員食堂の中で、わざわざ私を見つけて声をかけてくれていました。

私は、そのことをもっと大事にしてもよかったのかもしれません。

今でも、一人の時間は好きです。

次の職場でも、たぶん私は一人で座れる席を探します。

ただ、また誰かから、

「今、奥にいるよ」

とLINEが来たら、前ほどため息はつかないと思います。


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