第14話|笑顔が戻ったと思った、その矢先でした。
夫が久しぶりに笑った日がありました。
その笑顔を見た私は、本当にうれしかったのです。
「もう大丈夫かもしれない。」
そう思いたかった。
でも、その期待は翌日、あっという間に崩れてしまいました。
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夫が休職して数か月が過ぎた頃。
少しずつですが、以前とは違う変化が見られるようになっていました。
食事を少し食べられる日。
テレビをぼんやり眺める日。
私の話に、小さく笑ってくれる日。
一つひとつは、本当に小さな変化でした。
でも、私にとっては大きな希望でした。
「少しずつ戻ってきているのかもしれない。」
そう思えることが、何よりうれしかったのです。
ある日の夕食。
私が何気なく話したことに、夫がふっと笑いました。
本当に久しぶりに見る笑顔でした。
その瞬間、胸がいっぱいになりました。
「良くなってきたね。」
私は思わずそう言いました。
夫は少し照れたように笑い、
「そうかな。」
と、小さく答えました。
その笑顔を見て、私は心から安心しました。
「もう大丈夫かもしれない。」
「このまま少しずつ、元の生活に戻れるかもしれない。」
そんな期待で胸がいっぱいになりました。
でも、その期待は翌朝には消えてしまいました。
夫はまた、布団から起き上がることができませんでした。
声をかけても、
「もう少し寝る。」
それだけでした。
前の日に見せてくれた笑顔は、どこにもありませんでした。
私は戸惑いました。
「昨日は笑っていたのに。」
「どうして今日は起きられないんだろう。」
安心したと思ったら、また不安になる。
期待しては落ち込み、その繰り返しでした。
私は何度も考えました。
「本当に回復に向かっているのだろうか。」
休んでいる。
薬も飲んでいる。
笑顔を見せてくれる日もある。
それなのに、翌日には何もできなくなる。
あの頃の私は、その理由が分かりませんでした。
私は「回復」というものを、もっと単純に考えていました。
少しずつ元気になっていく。
昨日より今日、今日より明日と良くなっていく。
そんなふうに進んでいくものだと思っていたのです。
でも、実際は違いました。
笑えた翌日に、何もできない日がある。
食べられた翌日に、食欲がなくなることもある。
昨日できたことが、今日はできない。
そんな波を繰り返しながら、少しずつ前へ進んでいくこともあるのだと、後になって知りました。
今振り返ると、夫も苦しかったと思います。
少し笑えただけで、
「良くなってきたね。」
と言われる。
その言葉は、うれしかったかもしれません。
でも同時に、
「もっと元気にならなければ。」
「期待に応えなければ。」
そんなプレッシャーにもなっていたのかもしれません。
私は夫を励ましたかっただけでした。
早く元気になってほしい。
また以前の生活に戻ってほしい。
ただ、それだけでした。
でも知らないうちに、自分の願いを夫に背負わせていたのかもしれません。
あの頃の私は、笑顔を見るたびに安心し、落ち込む姿を見るたびに不安になっていました。
回復には波がある。
そのことを理解できるようになるまで、私は時間がかかりました。
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あの日の笑顔は、回復のゴールではありませんでした。
でも、確かに前へ進んでいる瞬間でもありました。
大切なのは、昨日と比べることではなく、その日の夫をそのまま受け止めること。
それが「支える」ということなのだと、私は少しずつ学んでいきました。
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次回予告
第15話|「会社に迷惑をかけている。」夫は、自分を責め続けていました。
休職して家にいても、夫の心は会社から離れることができませんでした。
誰にも責められていないのに、自分だけは、自分を許すことができなかったのです。
