見出し画像

情報保障のユニバーサルデザイン(平塚千穂子):JFP寄稿文05

JFPでは『バリアフリー上映に関するアンケートの結果と分析2026〜情報保障の映画賞をつくる〜』を公開。2025年度に実施した「バリアフリー上映に関するアンケート調査」の結果を受けて、障害当事者や研究者、映画上映者など11名の方々から寄稿頂きました。

情報保障のユニバーサルデザイン:JFP寄稿文05

平塚千穂子:CINEMA Chupki TABATA 代表 / バリアフリー映画鑑賞推進団体 City Lights 代表
チャップリンの『街の灯』を視覚障害者と共に観るバリアフリー上映の企画をきっかけに、2001 年 ボランティア団体 City Lightsを設立。視覚障害者の映画鑑賞環境づくりに取り組む。2016 年、日本初のユニバーサルシアターCINEMA Chupki TABATA を設立。著書『夢のユニバーサルシアター』(読書工房2019 年)。

 映画のAD(オーディオ・ディスクリプション)に、かれこれ25 年間たずさわり、変遷を見てきた。はじめは視覚障害者が、おいてけぼりにされていた映画のストーリーに、最後までついていくことができるだけで、ありがたがれたが、視覚障害者の映画鑑賞機会が増えるにつれ、AD に求める要望が、次々と出てくるようになった。残念なAD は何が残念だったのか?逆によかったADは…? 私たちも自然と当事者の意見に耳を傾け、AD のクオリティを意識していった。それは、自分が感動した映画の体験を、視覚障害者にとっても、同じぐらい素晴らしい体験にしたかったからだし、自分たちの紡いだ言葉で、その体験を台無しにしたくなかったからだ。

 作者に対しても同じことが言える。20 年以上前のことだが、地方で行われたバリアフリー上映会で、地域のボランティアが作ったADと字幕付きで映画を観た監督が、「我が子が強姦にあっているような憤りを感じた。」と酷評した。こんなに切ないことはないと思った。ボランティアたちもそんな風にするつもりはなかっただろう。作品がそのままでは、届かない人たちにも、届くようにしたかっただけなのに…。それからというもの、視覚障害者だけでなく、映画の作り手である監督やスタッフの皆さんにも、感謝してもらえるような、ADを作りたいと思うようになった。

 これまであまり意識せずに、AD のことを「音声ガイド」と言い、その説明を「目の見えない人に映画の視覚情報を補うナレーション」としてきたが、今はこう思っている。「映画を音で観る人の“ 想像”を補助するナレーション」。AD は単なる視覚情報ではない。それをどう描写し、どう表現するかによって、その人の鑑賞体験が変わってしまう。いかに観た人の心を動かすか? は、その人の“ 想像力” にかかっている。映画などの芸術鑑賞に「情報保障」という言葉が、どうにもそぐわないのはそのためだと思う。

 AD や日本語字幕をいつまでも視覚や聴覚に障害のある人のための鑑賞ツールとしていては、仮にクオリティチェックをした当事者や制作者の名前を記し、形だけ価値を置いたところで、社会の意識は変わらないだろう。「誰かのために考えられたことが、全ての人のためになる。」というユニバーサルデザインの発想が、AD や字幕にも理解されるとよいと思う。音だけで見えないものを想像しようとする人、画だけで聴こえないものを想像しようとする人、その人たちの存在があるからこそ、創り出されたAD や字幕は、映画の解像度を上げ、より丁寧に作品と向き合うことを促すツールでもあり、映画鑑賞に最も大事な“ 想像力”を養うツールでもある。それは全ての人の、映画体験の質を底上げしていると言えないだろうか?

 AD や字幕がこのように再評価されて、はじめて、その担い手たちや作り手たちにも、本当の意味での評価や賞賛が与えられるようになるのではないか。

 今回の調査で、日本はまだまだ、その域に達していないということが明らかになった。では、これからどうすれば良いだろう? 今はとにかく多くの人に、見えない人や聴こえない人と一緒に映画を観る機会を作り、「自分たちに関係ないこと」ではなく、「自分にも必要で、あって当たり前のもの」に、変えていきたい。また、AD や字幕の制作プロセスのきめ細かさ、面白さも紹介することで、より映画の持つ懐の深さや、ポテンシャルの大きさを伝えたい。私たちが“ 想像力”を失わないためにも!

主催:一般社団法人Japanese Film Project

助成:公益財団法人東京都歴史財団 アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成 芸術創造環境の向上に資する事業]

本記事に掲載されている内容は著作権法により保護されています。権利者の許可なく転載・複製・改変等を行うことを禁止します。

いいなと思ったら応援しよう!