バリアフリー映画をスタンダードにするために(大河内直之):JFP寄稿文04
JFPでは『バリアフリー上映に関するアンケートの結果と分析2026〜情報保障の映画賞をつくる〜』を公開。2025年度に実施した「バリアフリー上映に関するアンケート調査」の結果を受けて、障害当事者や研究者、映画上映者など11名の方々から寄稿頂きました。
バリアフリー映画をスタンダードにするために:JFP寄稿文04
大河内直之:東京大学先端科学技術研究センター 学際バリアフリー研究分野/ NPO 法人バリアフリー映画研究会
1973 年生まれ。東京都出身。4 歳で失明し全盲となる。東京大学先端科学技術研究センター特任研究員。非営利活動法人バリアフリー映画研究会理事長。内閣府障害者施策アドバイザー。盲ろう者や視覚障害者の支援技術をはじめ、障害学、福祉のまちづくりなど、バリアフリーに関する研究に従事。近年は、バリアフリー映画研究会の代表として、映画や演劇のバリアフリー化に関する研究・実践に取り組むと共に、国の障害者政策にも参画している。
「映画を製作段階からバリアフリー化したい」
「字幕とオーディオ・ディスクリプション製作に映画製作者が関わる仕組みを作りたい」
こうした相談が、一人の映画プロデューサーから私の所属する研究室に持ち込まれたのが2008 年のことである。その後、行政等の支援を受けて、障害当事者・映画製作者・研究者・行政関係者等が集まり「バリアフリー映画研究会」という緩やかな集まりを持ちながら、映画の製作段階からのバリアフリー化とその標準化を目指した活動がスタートした。そして、8 年後の2016 年、この活動は「UDCastMOVIE 」の実用化という形で結実することになる。
UDCast MOVIE の導入から、今年(2026 年) でちょうど10 年。この間、字幕とオーディオ・ディスクリプションの付与された映画は邦画を中心に800タイトルを超え、また映画製作者のバリアフリーに対する一定の理解も促進された。さらには、字幕とオーディオ・ディスクリプション製作における、当事者によるクオリティーチェックも積極的に取り組まれるようになった。
一方、映画業界全体におけるバリアフリーに対する取り組みは、ここ10 年大きな進展は見られない。アンケート結果にもあるように、聴覚障害者から強い要望のある焼き付け字幕の上映数はいまだに限定的なものにとどまる。また、劇場の車いす座席の複数化および一般座席の隣接への設置もなかなか進まない。視覚障害者からかねてより要望されている上映情報やチケット予約システムへのアクセスにも改善が見られない。これには、障害当事者を含む映画のバリアフリー化に積極的に取り組んできた関係者と、映画を製作・配給するいわゆる映画業界とのバリアフリーに対する意識の乖離が大きく関
係している。
UDCast MOVIE の実用化に際しては、2010 年より、東京国際映画祭にて必ず1 本はバリアフリー版の映画を上映する等、映画業界に対してバリアフリー映画への理解を得るための働きかけを粘り強く行ってきた。バリアフリー映画の必要性については一定の理解が得られたものの、一般の劇場で字幕やオーディオ・ディスクリプションを必要な人にどのように提供するかが最後まで課題として残った。結果、音で同期させる技術により、字幕やオーディオ・ディスクリプションをクローズドの状態で提供する方式であれば、一般の劇場でも導入が可能ということとなり、UDCast MOVIE が採用されることとなった。映画業界としては、UDCast MOVIE の導入、その後のハロームービーの展開を含めて、映画のバリアフリー化は十分達成されたと考える見方が強い。以前、さらなるバリアフリー化を踏まえて、バリアフリー映画研究会より映画業界に対して要望書を提出したところ、「これ以上、我々に何を求めるのか」と大変困惑され、議論にすらならなかった。
しかし、現状は日本映画に対して、クローズドで字幕とオーディオ・ディスクリプションが提供されるのみであり、外国語映画のバリアフリー対応や劇場のアクセシビリティー等、それ以外のバリアフリー化はほぼ手付かずの状態である。また、今回のアンケートでも指摘されているように、クローズドで提供される字幕やオーディオ・ディスクリプションにおいても、イヤホンからの音漏れの問題・スマートグラスの使い勝手の悪さ等解決しなければならない課題は多い。さらには、字幕とオーディオ・ディスクリプション製作における当事者モニターの関与の在り方やそれらモニターのクレジットの方法等、新たな議論も必要となっている。
UDCast MOVIE の導入は、あくまでも映画のバリアフリー化の第1 弾であり、次なる第2弾・第3弾の取り組みが必要である。しかし、現状こうした課題は映画業界と共有することができておらず、対話も進んでいない。この状況を打開することから、映画のバリアフリー第2弾は始まると考えている。その意味でも、今回の調査やそこに寄せられた当事者からの声は大きな原動力となる。現状の問題点を一つずつ明らかにしながら、引き続き映画業界との建設的な対話を通して、バリアフリー映画をスタンダードにするための取り組みを継続していきたいと考えている。
主催:一般社団法人Japanese Film Project

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