見出し画像

デイの「基本報酬底上げ」は、まだ厚労省の論点ではない

「基本報酬の底上げ」「排せつ支援加算の新設」。6月15日の分科会を伝える見出しを見て、自分のデイの報酬がどう動くのかを探した経営者は多いはずだ。

だが、その日に厚生労働省が正式に置いた問いは、底上げでも排せつ加算でもない。

分科会がこの日に通所介護の次の報酬改定へ向けて初めて示した論点は、「自立支援・機能向上の質をどう評価するか」と「加算体系をどう整理するか」の2つだった。底上げと排せつ加算は委員や業界側の声として報じられたもので、厚労省が配った資料の論点には入っていない。見出しの裏で動き出しているのは、底上げではなく「どのデイに評価を寄せるか」の設計である。

見出しの「底上げ・排せつ加算」は、厚労省が置いた「問い」ではない

動いたのは2026年6月15日、第258回の社会保障審議会・介護給付費分科会だ。ここで通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護の2027年度改定論点が、初めて資料として配られた。

ここでいう「論点」は、もう決まった改定内容ではない。何を変えるかをこれから議論する出発点のテーマであり、単位数も要件もまだ何も確定していない。

その出発点として資料の末尾に置かれた問いは、次の2つだ。

  1. 自立支援・機能向上の質をどう評価するか

  2. 加算体系をどう整理するか

底上げの報道は、この2つの問いの外で起きている。厚労省が置いたのは「全体をいくら上げるか」ではなく、「動けるデイに評価をどう寄せ、使われない加算をどう畳むか」という問いだった。

「4つの話題」の正体——厚労省の問いと、委員の声を分ける

報道では、底上げ・送迎・排せつ加算・自立支援が横並びで語られた。だが、これらは出どころも確度も違う。混ぜて読むと、自デイへの効き方を見誤る。

出どころで分けると、こう整理できる。

  • 自立支援・機能向上の質の評価: 厚労省が資料に正式に置いた論点

  • 加算体系の整理: 同じく厚労省が資料に置いた論点

  • 基本報酬の底上げ: 委員・業界側の要求として報じられたもの。資料の論点本文には入っていない

  • 排せつ支援加算の新設: 委員の提案と報じられたもの。分科会の議事録が未公表で、原典はまだ確認できない

送迎はこの中間にある。資料には送迎の実態データが厚く載っているが、それを加算として評価するのか、基本報酬に織り込むのかは、まだ問いの形にとどまっている。実施率は約97%、その送迎を「基本的に一人で対応している」事業所が73.0%にのぼり、課題として「職員のシフト組みが負担」を挙げた事業所は51.6%だった。データはあるが、結論はない。

確度のラベルを貼り替えると、読者の動きは変わる。「決まったこと」と「誰かが言ったこと」を分けるだけで、どこに反応すべきかが見えてくる。

6.2%という数字が、「底上げ」ではなく「傾斜」に置かれた理由

資料には、もう一つ目を引く数字が並んでいた。令和6年度の収支差率である。

  • 通所介護: 6.2%

  • 地域密着型通所介護: 6.3%

  • 認知症対応型通所介護: 5.3%

  • 全サービス平均: 4.7%

通所介護の6.2%は、全サービス平均の4.7%を上回る。推移で見ても0.7%(R3)→1.5%(R4)→6.5%(R5)→6.2%(R6)と、コロナ禍の底からは大きく戻している。

ただし、これを「デイは儲かっている」と読むのは早い。6.2%は黒字幅の平均にすぎず、倒産が増えているとの報道もある(倒産統計はこの資料には載っていない)。平均が黒字でも、現場では事業所ごとの差が開いている。

数字の置かれ方こそが本題だ。この収支差率は、加算体系の整理という論点と同じ資料の中に並べられている。資料は加算の算定率を色分けして示した。

  • 低い加算(整理の候補): 栄養改善0.6%、栄養アセスメント2.8%、若年性認知症受入0.4%

  • 高い加算: 送迎減算79.3%、科学的介護推進体制54.2%

ほとんど使われない加算が赤、広く使われている加算が緑というわけだ。

MITSUKETA編集部はこう読む。 基本報酬の全体的な大幅底上げが今回そのまま通る可能性は低い。増えるとしても、自立支援や機能向上の質に動けるデイへ寄せる「傾斜配分」になる。低い算定率の加算に依存し、人員や体制を割けないデイは、相対的に不利になりやすい。

ただし、これは見立てだ。財源を増やすのか、中で組み替えるのか。その前提は資料に書かれておらず、答え合わせは年末の審議報告まで持ち越される。

自分のデイは「受け皿側」か、「整理リスク側」か

では、この論点の置かれ方に自デイを当てると、どこに立つのか。今わかる範囲で、増収側・整理リスク側・未定の3つに仕分けてみる。

  • 受け皿側になりやすい: 個別機能訓練やADL維持等加算、科学的介護にすでに動けているデイ。質の評価が強まるほど、評価を受け取る側に立てる

  • 整理リスク側になりやすい: 栄養改善のような低算定の加算に収益を頼り、新たな体制を組む余力がないデイ

  • まだ判断できない: 送迎の評価方法と、排せつ支援加算の扱い

整理リスク側の壁は、資料の中にはっきり出ている。個別機能訓練加算を算定しない理由として「専従の配置体制がとれない」を挙げた事業所が52.2%、「事務負担が大きい」が49.4%だった。質に動きたくても、人と手間が足りない。自立支援の強化は、評価の機会であると同時に負担増と表裏なのだ。

注意したいのは、ここで畳まれる加算の名前も、新しい単位数も要件も、まだ一つも示されていないことだ。トリアージはあくまで論点の置かれ方からの逆算で、確定したビフォーアフターではない。

6/15は「決定の日」ではない。次に見るべき3つの時点

論点提示は出発点であって、終点ではない。今後の動きは、次の3つの時点で確かめられる。

  1. 分科会の議事録公表: 委員の発言や排せつ支援加算の提案が、どこまで本当に踏み込んだものだったかの原典を確認できる

  2. 秋に出る加算の統廃合の具体案: 赤く塗られた低算定加算のうち、どれが整理対象に名指しされるか

  3. 年末の審議報告の財源前提: 底上げなのか傾斜配分なのか、設計の向きがここで見える

あわせて、送迎が独立した加算になるのか、基本報酬に織り込まれるのかも見ておきたい。送迎は約97%のデイが担い、その負担が経営を圧迫している。評価の置き方ひとつで、収益の前提が変わる論点だ。

利用見込みは2023年の222万人から2026年に238万人、2040年には273万人へと、なお23%増える絵が示されている。需要は伸びるのに、報酬は一律には伸ばさない。6月15日は決定の日ではない。「どのデイが評価されて残るか」の線引きが始まった日だ。


参考リンク

次に見るべき3つの時点を、自デイの判断軸に置き換えておく。

  • 次に動くもの: 議事録の公表と、秋に出る加算統廃合の具体案

  • 確定の時期: 設計の向き(底上げか傾斜か)は年末の審議報告で見える

  • ここを見逃すと: 整理対象が名指しされてから慌てて体制を変えることになり、評価を受け取る側に回り遅れる


#介護経営 #介護報酬改定 #通所介護 #デイサービス経営 #加算算定 #2027年度改定

いいなと思ったら応援しよう!