【建設業の横領】「バカの壁」を越えた先に待っていたもの
現場に立つたびに思う。
建設業界の「バカの壁」は、とてつもなく高い。
東大卒、京大卒、早慶卒が居並ぶ設計・施主サイド。対する現場の職人たちは中卒、高卒、時には半グレ上がり。その両者の間で、唯一通訳できる存在——それが施工管理だ。
「高学歴の論理」と「現場のノリ」を同時に理解し、双方をなだめ、すり合わせ、プロジェクトを前に進める。それが施工管理の仕事だ。
だが、この「バカの壁」にはもう一つ、もっと深刻な壁がある。それに気づいたとき、この業界の深い闇を目の当たりにした。
建築所長の「本当の仕事」
建築所長になって、何をするか。
答えは数億円の横領だ。
笑い話にしたいが、現実は笑えない。
2026年8月19日、大阪府警が竹中工務店の元総括作業所長(61)を背任容疑で逮捕した。大阪・関西万博の工事で下請け業者に工事費を水増し請求させ、会社に約1000万円の損害を与えた。自宅リフォーム代に使ったという。
1000万円。たかが1000万、されど1000万。
これでは横領リングと言われてもおかしくない。
だが、過去にもまだまだある。
鹿島建設では、元幹部が東日本大震災の復興工事で下請け業者から現金を受け取り、所得税を脱税。仙台地検が起訴した。鹿島は「協力会社から多額の個人的な借入と過剰な接待」を理由に懲戒解雇。
西松建設に至っては、海外事業で捻出した裏金約1億円を無届けで持ち込み、元幹部が業務上横領で起訴。元副社長らも逮捕された。
日本のトップゼネコンが、これだ。
これが「バカの壁」の向こう側に待っていた景色なのか。
ここで一つ、率直な問いを投げかけたい。
横領して、自分の金か会社の金かわからなくなっているおじさんでも施工管理ができる——と思うと、バカ臭くならないか。
現場で必死に図面と格闘し、職人たちの間を取り持ち、施主のワガママを聞き、残業続きで身体を壊しながら働く若手施工管理者たち。
彼らは一円単位で経費を気にしながら、適正原価で工事を進めることに必死だ。
その上の連中が、平気で横領している。
しかも、その横領しているおじさんたちも、若い頃は真面目だったはずだ。いつからか「これくらいはバレない」と思い、「みんなやっている」と言い訳し、「どうせ会社の金だ」と開き直った。
「バカの壁」は、学歴や知識の差だけじゃない。
倫理観の壁、自制心の壁、そして「自分は大丈夫」という過信の壁——そのすべてを含んでいる。
そして何より皮肉なのは、横領する彼らが口を揃えて言う台詞だ。
「俺はこの業界のために尽くしてきた」
尽くしてきた結果が横領なのか。
施工管理に求められる「本当のスキル」
じゃあ、どうすればこの腐った構造を突破できるのか。
施工管理に本当に求められるのは、二つの顔を使い分ける力だ。
一つ。施主・設計士に対しては「ロジックの顔」。
データと論理で武装し、彼らの言葉で語る。ここで現場のノリを持ち出したら、終わりだ。
二つ。現場の職人に対しては「熱量の顔」。
おじさんたちが好きなのは「下ネタと冗談と熱量」だ。これを上手く使えれば、話は通る。セクハラだパワハラだと言われるが、彼らの本心は「仲良くなって、いい仕事がしたい」というだけだ。手段が古いだけで。
この二つの顔を、瞬時に切り替えられるか。
それが、施工管理の本当の力量だ。
だが、もう一つ忘れてはいけない。
三つ目の顔——「倫理の顔」。
横領しているおじさんたちを見て「どうせみんなやってる」と思わない。自分は違うと、きちんと線を引けること。
これが、この業界で長くやっていくための一番の武器ではないか。
ロジックの時代に、まだ残る昭和の空気
「ロジックだ」「データだ」と言われる時代だ。
確かに、それは大事だ。設計士や施主と話すときには、ロジックとデータがものを言う。でも、現場の職人やおじさんたちと話すときには、それだけでは足りない。
彼らはロジックだけの人間を信用しない。
ロジックだけの人間は、どこか「自分たちとは違う」と感じられる。信用されなければ、現場は動かない。現場が動かなければ、仕事は進まない。
だから、施工管理は両方の言語を話せなければならない。
【施主や設計士にはロジックで。】
【職人やおじさんには熱量と共感で。】
【そして、自分自身には倫理で。】
その使い分けができるかどうか。それこそが、施工管理としての本当の力量だ。
バカの壁を越えた先に——まだ希望はあるのか
ここまで書いてきて、正直な気持ちを言おう。
建設業界はそもそもが腐ってる。
でも、腐っているからこそ、やるべきことがある。
横領するおじさんたちを反面教師にしよう。
「ああはなりたくない」と思えるなら、その感情はまだ健全だ。
竹中工務店の逮捕者を見て、どう思うか。
鹿島建設の脱税事件を見て、どう思うか。
西松建設の裏金事件を見て、どう思うか。
「どうせ俺には関係ない」と思うなら、それでいい。でも、いつか自分がその立場になったとき、同じ過ちを繰り返さないために、今のうちに自分の倫理観を磨いておけ。
バカの壁を越えた先に待っているのは、横領か、それとも誇りか。
