小松左京と久坂部羊の短編集
日本のSF御三家は星新一、小松左京、筒井康隆らしい。
SFにはあまり関心がないつもりだったが、3人とも好きな作家だ。
とりわけ小松左京は名文家だと思う。
図書館で何気なく手に取った『ハイネックの女』。
『無口な女』『流れる女』『秋の女』『昔の女』『ハイネックの女』を収録。
この短編集は、女シリーズ第2弾らしい。
どちらかというと通俗小説っぽくて、SFというより、怪談、小泉八雲的な味わいがある作品集だった。
細かい情景描写、人物描写が実に文学的で、映像が浮かんでくるようだ。
登場する女たちは、著者が追い求める理想の女性像のような気がした。
いい機会だと思い、青空文庫で小泉八雲の『狢』、『耳なし芳一』、『ろくろ首』を読んでみた。
小学生のときに、子ども用に書かれたものを読んだことはあるが、小泉八雲の魅力を再認識した。
次に、久坂部羊の短編集『黒医』を読んだ。
映画化された『廃用身』の原作者でもあり、エッセイ『人はどう死ぬのか』では、医師ならではの辛口で現実的な視点が新鮮だった。
医師兼作家といえば、古くは森鴎外や北杜夫らを思い浮かべる。
久坂部羊は、医師としての冷徹な視点で、現代社会の問題点を遠慮会釈なく抉り出す。
シニカルで、過激なまでのブラックさがこの作家の真骨頂といえる。
『人間の屑』
主人公は脳の病気の後遺症で植物状態になり、言葉を発することができない。
主人公の苦悩、恨み辛み…やりきれない思いが脳内に溢れ出すが、他者に意思を伝えることはできない。
過激な政党が国民の支持を集めていた。
2大スローガンは、
『努力した者が報われる社会に!』
『働けるのに働かないのは人間の屑だ!』
今の日本は優しさと甘やかしをはきちがえているんです。
国民としての義務も果たさずに権利ばかり求める人間が多すぎる…などの言葉が、閉塞感に倦んでいた大衆を熱狂させる。
党首の名前は折尾真治郎(おれをしんじろう)。
ここはクスッと笑える。
働かない者、病気で働けない者、頑張れない者は人間の屑?
自分もそうなのか?
『無脳児はバラ色の夢を見るか?』
出生前診断で、胎児が無脳児であることを宣告される。
産むべきか?
それとも…?
夫婦は悩みに悩む。
世論も巻き込み、益々答えが出せなくなる。
進歩しているようで、医療は万能ではなかった、というお話。
『占領』
超高齢社会においては、現役世代こそが大切にされるべき。
高齢者が増え続ければ現役世代の負担は増える一方だ。
少子化対策として、一人っ子なら罰則として税率が高くなる。
子どもを6人産まなければまともな生活ができない。
この少子化対策は「おそ松くん政策」と呼ばれる。
お年寄りに席を譲ることが常識ではなくなる時代がやって来る?
主人公が電車の中で見た夢物語。
『不義の子』
自分は本当にこの子の父親なのか。
本当の父親は母親だけが知っているというのは昔からよくあるテーマ。
今はDNA鑑定をすれば一発だ。
しかし、DNA鑑定でも判明しない場合もある。
なるほど、こういう発想は医師ならではかな…
『命の重さ』
成り行きで骨髄移植のドナー登録をしてしまった男の苦悩が描かれている。
『のぞき穴』
幼少期のぞき穴の思い出に始まり、局部にまつわるおぞましくも神秘的な物語。
これ以上は語れません…
『老人の愉しみ』
テレパシーが使える老人の話。
筒井康隆の『家族八景』、『七瀬ふたたび』を思い出しました。
なまじ人の心なんか読めないほうがお互いのためですね。
傷つかないように、傷つけないように他人の顔色を見ながら暮らしていかなければならない現代社会。
久坂部羊の作品は、「そんなことをいったら元も子もないよね」、というタブーが散らばめられている。
きれいごと抜きで核心にズバッと斬り込む物言いは小気味よいを通り越して、暴走気味?
後味も決して爽やかとはいえない。
しかし、文学の世界では安全運転じゃなくてもいい。
読書は現実逃避だから。
