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なぜ夜行列車は稼げないのか?単純すぎる理由と、ソウジャナイけど成功例。

今や毎日運行ではサンライズ瀬戸/出雲のみが残り、細々とクルーズトレインや臨時列車で残るのみとなった夜行列車。他では味わえない体験があることは事実で、人気はあるものの、頻繁な運行がされない理由、意外な復活劇について考察してみようかと思います。



1.頻繁な運行ができないのが答え

夜行列車と言えば一般的に深夜に出発して早朝に到着し、降りたらすぐ活動できるものを差すことが多いです。

例えば快速マリンライナー75号(岡山23:47→高松0:53)みたいなものは夜行列車とはみなされないことが多いです。

多くの場合23時台に出発し翌朝5時以降に着くくらいの時間が一般的なので最低限この6時間はないと商品価値を出しにくいのが夜行列車だという訳です。

しかも毎日運転だと上下列車が同じ時間に走るので予備を含めると最低3編成が必要で、それで運転できるのが1日たった1往復なのです。


寝台特急北斗星(2005年撮影)

例えば一時期は1日3往復運行していた寝台特急北斗星。上野駅を16時台~19時台に出発し約16時間かけて札幌に着くスケジュールで、JR東日本とJR北海道それぞれが車両を持って運行していました。

列車によっては仙台→札幌とか函館→上野といった一部区間だけの利用も多かったようですが、需要のほぼ全てが23:00~翌5:00のコアタイムに集中していたはずです。
これが例えば東京~博多ののぞみ号のように名古屋で京都で新大阪で岡山で広島で乗客が入れ替わるような列車とは違い、1列車一晩を通しての乗車率を高めにくいというのは夜行列車の致命的な構造だと言えます。

ちなみに超豪華列車のTRAIN SUITE四季島やトワイライトエクスプレス瑞風ですら、最少催行人員が決まっておりキャンセルが出たら繰り上げ当選で客室を埋める工夫がされています。もちろん食事や現地観光等が含まれているから尚更シビアとも考えられますが、高いコストを払うか、一定の乗車率を維持できないと夜行列車の運行継続が困難なのは間違いないでしょう。


2.1日6便も運行する「指宿のたまて箱」

指宿のたまて箱(2013年撮影)

2010年代以降、観光エンタメに重点を置きながらも運用効率を高めて1日複数本運行するタイプの列車が増えてきました。その先駆けとなったのがJR九州の特急(!)指宿のたまて箱です。

  • 1号鹿児島中央9:56→指宿10:47

  • 3号鹿児島中央11:56→指宿12:48

  • 5号鹿児島中央13:56→指宿14:49

  • 2号指宿10:56→鹿児島中央11:48

  • 4号指宿12:57→鹿児島中央13:48

  • 6号指宿15:07→鹿児島中央16:00

この列車の特徴は1時間を切る短さながら、沿線の景色や物販は基本共通。2両編成+予備車1両で毎日3往復運転しており、指定席が満席になるなど毎回高い乗車率を出しています。

この列車は伝統的夜行列車とはすべてが真逆です。車窓も車内販売も1時間以内に凝縮するタイパの良さ、指宿に宿泊でも鹿児島から日帰りでも使える時間帯の良さ、毎日6便運行で乗車機会の幅広さ、観光客にとって利用しやすいのです。

但し満席運行が割と多く希望の便が取れないことはあります。朝の1号が満席なら昼の3号はどうかとチャンスは複数回ある訳です。これが寝台特急だとその日満席だったら旅行全体の日程を変えるか、諦めるか、直前まで空席を粘るかというコストとリスクの高い選択を迫られるのです。

似たような形で短時間多頻度運行で提供座席数や乗車機会を増やしている観光列車は他にもJR九州のあそぼーい!やA列車で行こう、JR四国の伊予灘ものがたり等が挙げられます。


3.東武鉄道のSL/DL大樹は「分かってる」


鬼怒川温泉で並ぶSL大樹とDL大樹

2017年に東武鉄道がSL列車を運行すると聞いたときは驚いた人も多かったはずです。運転区間は下今市~鬼怒川温泉わずか20kmで35分、SL運転歴のない路線での運行は懐疑的な目もあったでしょう。

ところがこれ、ビジネス目線では物凄く緻密に計算されていると実感しました。距離は短い分ほぼ毎日運行、最大1日4往復。首都圏からの日帰りでも日光鬼怒川での宿泊でも乗車や撮影の機会はしっかり確保されています。


元はまなすドリームカー

それでいて客車はJRの中古車な訳ですがJR北海道の元はまなす用、JR四国のムーンライト高知用(普通車のみ原型、グリーン車は展望車に改造)と、夜行列車で運用されていたいわく付きの車両が選ばれています。
下今市~鬼怒川温泉はたった35分。それでも往年の夜行列車に使われた車両に乗れて、折り返し時は機関車の連結や転車台での作業も見るとこができます。

要は夜行列車、客車列車のハイライト、魅力を短時間にまとめている。しかも複数運行だからSL列車同士のすれ違いもあるし、転車台での作業を1日何度も見ることも可能。

指宿のたまて箱も伊予灘ものがたりもSL大樹も、列車の旅の魅力を短時間に凝縮し、1日複数本運行で発売数を増やしているのが特徴です。これはエンタメ要素とは無関係に航空、バス、トラック等運輸業のビジネスモデルとしては当たり前のことな訳です。
伝統的な夜行列車と言うなら最低23:00~5:00を含むという条件が悪すぎるのです。

4.手頃な夜行のヒントは羽田LCCにあり

それでは旅費を手頃に抑えて、深夜に移動できる夜行列車のモデルは無いのか?かなり困難と言えますが近い例があります。

深夜の羽田空港(2019年撮影)

それが羽田空港深夜の国際線LCCです。特にソウル仁川、上海浦東、台北桃園、香港の4都市。

但し条件は過酷です。飛行時間は香港でも4時間、ソウルなら1時間半程度。機内で寝続けるということはできません。夜行便だからゆっくり飛ぶこともできません。


香港エクスプレス33便機内

座席も夜行用のシートがある訳ではなく通常のエコノミークラスと大差ないか、LCCでは座席数を増やすためにむしろ狭いです。

香港朝4時到着

香港でも到着は早朝4時、ソウル仁川なら2時とか中途半端な時間に着き、当然空港に降ろされます。夜行とは言え半分空港野宿。空港は24時間運用ですが、一部コンビニを除きお店や市内への電車バスは5時くらいにならないと動き出しません。LCCというか航空便は深夜だからと言ってコストや時間を余計にかけるようなことはしていません。

しかしスケジュールが過酷な分、燃料高や為替の影響で海外旅行が高嶺の花になった今も羽田深夜便はかなり割安なのです。実際韓国、台湾、香港あたりなら成田発着や羽田でも大手航空会社の日中便(便利だけど割高)と羽田深夜LCC(不便だけど割安)で一定の棲み分けがあります。ただヨーロッパやオセアニア等長距離では結局夜を跨ぐので、深夜便が割安という訳でもなくなります。


5.夜行じゃない深夜バスと中央線特急の増減便

バスタ新宿に着くバスのイメージ

もう一つ近いのが東京新宿から常磐道いわき、中央道飯田など終着が深夜1時過ぎ、上り始発が午前4時前後というもの。当然車種も所要時間も昼便と同じ。先ほどの航空便と同じです。
ただこれは車両のやりくりや、バス停で自家用車の送迎or駐車ができることなどがメリットとしてあるものの、主なユーザーは地方から上京のパターンであり、都心発の利用はほぼ無いでしょう。採算性という意味でも疑問です。

ただ、夜行便ではなく深夜早朝便という意味では近年中央線特急で興味深い増減がありました。


高尾駅を通過する特急かいじ70号

2022年3月改正で深夜の特急はちおうじ9号(東京23:00→八王子23:48)が臨時列車へ格下げ。
その後2025年3月改正で特急はちおうじ号は全廃され、代わりに平日毎日運行の臨時特急かいじ70号(甲府5:40→東京7:45)が新設。2026年現在も平日は毎日運行され高い乗車率を記録しています。

恐らくは山梨県から新幹線や羽田空港アクセスを狙ったものと思われますが、指定席の売り上げ状況を見るに、深夜の下りより早朝の上りの方が需要があると判断されたと考えられます。

特急かいじ70号は速度面や車両設備では日中便と変わらず、通勤時間帯の需要減で特急列車の運行が可能になったことから新しい需要開拓ができた一例だと言えます。夜行列車ではありませんが、早朝運行が需要にマッチした例です。

6.ゆっくり安くホテル代わりに…はあり得ない

産業の大原則で、クオリティやサービスを追求すれば価格は犠牲になり、価格を追求すればクオリティやコストにしわ寄せが来ます。さらに家賃場所代やスタッフの人件費は時間に比例します。じっくり安く快適になどあり得ない訳です。

かつて航空便や宿泊インフラが乏しかった時代に言われたように、新幹線+ホテルより安く朝まで快適に、は非現実的と言わざるを得ません。ましてや人件費や燃料費が上がる一方の情勢において設備と時間を惜しみなく投じるのはハイリスクローリターンです。

となれば今後夜行列車の姿としては、クルーズトレインのような数日掛かりの旅程をこなす一部となるか、イベント祭礼の帰りに合わせた年数回の限定的なものか、単に体験イベント参加としての限定的なものか、設備投資をせず早朝到着のニーズに合わせたものか(≠深夜出発)、そのいずれかになっていくと思うのです。


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