見出し画像

Kosara Mitić『17』北マケドニア、悪夢の修学旅行

2026年ベルリン映画祭パースペクティブス部門選出作品。Kosara Mitić長編一作目。私の天敵の一人であるオグニェン・スヴィリチッチが共同脚本に入っていたので警戒していたが杞憂だった。物語は17歳の少女が独りで生んだ赤ちゃんを捨てたという実際の事件を基にしている。映画はセックスシーンで幕を開ける。少女の顔の近くに置かれたカメラは若い男女のセックスを捉え、次第にそれが二人の少年と一人の少女によるものであることが分かり、更にそれが合意のない暴力的なものであることが判明していく。彼女の名前はサラ。ある時、彼女は高校の修学旅行でギリシャに行くことになる。生徒たちは女性の担任教師を(含めて大人全員を)舐め腐っているため、指示は無視して騒ぎまくり、酒も煙草もやりたい放題。博物館に行くはずが生徒たちの猛烈な反発によって自由行動となり、発情期の猿のようなクラスメイト達は生活圏から遠く離れた地で自由時間を"謳歌"する。一方、サラは誰とも交わらずに部屋の中にいた。ダルデンヌ的な執拗な顔のアップと追い回しは、彼女の置かれた状況を克明に描写し、休む暇すら与えない。或いは、自分が妊娠しているという事実を必死に遠ざけようとする悲しい努力にも見える。顔ばかり撮ってるので、観客は開始30分経つまで、他の登場人物たちと同様に彼女が妊娠していることに気付けない。グロテスクなのは家族すら気付いてないことか。特に母親は"皺になるから日焼け止めは塗れ"と、まるでそれだけが大事であるかのように言うだけで、彼女の身体すら見ていないのだ。旧ユーゴ圏映画で学生の修学旅行と妊娠というテーマだとUna Gunjak『Excursion』があった。これは、ボスニア北部の中学校で、修学旅行中に7人の女生徒が妊娠したという実際の事件に着想を得て作られた作品であり、初体験と妊娠をでっちあげた少女イマンの内面を覗き見るような作品だった。若干浮いてるものの他の生徒と深刻に仲が悪いわけではなく、かといって特に目立つわけでもない孤独なイマンは、サラとも重なってくる。唯一の違いは、イマンにはハナという親友がいたのに対して、サラには誰もいないということだ(元親友ニナは一軍に転向してしまった)。

サラをレイプしたのはクラスでも人気者の二人だった。この二人はサラと3Pしたと言いふらし、二人の取り巻き女子たちはそれを冷やかし始める。そんな中でサラは、自分の二の舞にさせないために、同室のおとなしいリナが夜中のパーティに行くのを止めようと奮闘する。しかし結局失敗してしまい、リナも同じ目にあってしまう。サラがリナを助け出すシーンは本当にグロテスクだ。二人の男が泥酔したリナをレイプする横で、同じクラスの一軍女子たちは酒を飲んでそれを無視し、その奥で別の男子たちが無関係のような顔をしてゲームに熱中しているのだ。そして、レイプを止めたサラはレイプしていた生徒(恐らくサラをレイプしたのと同じ男だ)にどつかれ、腹を蹴られる。地獄すぎる。そして、あまりにも悲しい方法で自分の状況を共有できる人物を得てしまったのだった。それでもそこには彼女が得られなかった連帯が生まれる。イマンに対するハナのような。この繋がりはラストシーンまで続く。それ自体が彼女の救うわけではないのは少々ビターすぎる気もするが。

ちなみに、撮影はDina Duma『Sisterhood』、ゴラン・ストレフスキ『Housekeeping for Beginners』、Georgi M. Unkovski『DJ Ahmet』など近年の重要な北マケドニア映画に関わっているNaum Doksevski。ミルチョ・マンチェフスキ、テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ以下の若手世代もコンスタントに出ている印象だが、数を作れないのが難点。

・作品データ

原題:17
上映時間:105分
監督:Kosara Mitić
製作:2026年(北マケドニア, セルビア, スロヴェニア)

・評価:80点

・ベルリン映画祭2026 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . コーネル・ムンドルッツォ『At the Sea』踊れない私の漂うアイデンティティ
2 . アラン・ゴミ『Dao』ギニアビサウ、結婚式と葬式を駆け巡る"永続的循環運動"
3 . Anke Blondé『Dust』ベルギー版"ブラックベリー"の末路
6 . エヴァ・トロビッシュ『Home Stories』東ドイツ人のアイデンティティはどこにある?
7 . レイラ・ブジド『In a Whisper』チュニジア、クィアと伝統と家族について
12 . ハンナ・ベルイホルム『Nightborn』この子は森の子、獣の子
13 . Geneviève Dulude-De Celles『Nina Roza』ブルガリアで自分の過去と対峙する男
14 . ランス・ハマー『Queen at Sea』認知症と性的同意能力について
15 . マルクス・シュラインツァー『Rose』"ズボンを履いた方が自由になれるから"
16 . カリン・アイヌーズ『Rosebush Pruning』ある醜悪なブルジョワ一家の肖像
17 . エミン・アルペル『Salvation』トルコ、土地を巡る争いの果てに
18 . マハマト=サレ・ハルーン『Soumsoum, the Night of the Stars』チャド、女性の自由や権利の話がしたいのか…?
19 . アンソニー・チェン『We Are All Strangers』シンガポール、ある一家の愛と絆
20 . ウォリック・ソーントン『Wolfram』アボリジニ少年団の逃避行西部劇
21 . イルケル・チャタク『Yellow Letters』トルコ、政権批判をしたある芸術家夫婦の肖像
22 . アンナ・フィッチ&バンカー・ホワイト『Yo (Love Is a Rebellious Bird)』私の親友ヨランダ・シェイの人生

★パースペクティブス部門選出作品
1 . Kosara Mitić『17』北マケドニア、悪夢の修学旅行
8 . Dara Van Dusen『A Prayer for the Dying』これが本当の疫病ウエスタンだ!
10 . ロレンソ・フェロ&ルーカス・ヴィニャーレ『River Train』アルゼンチン、男らしさの責務を負わされた少年の逃避行
13 . Muriel d'Ansembourg『Truly Naked』ポルノが氾濫した現代を生きる少年少女たち

いいなと思ったら応援しよう!

KnightsofOdessa よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!

この記事が参加している募集