ロレンソ・フェロ&ルーカス・ヴィニャーレ『River Train』アルゼンチン、男らしさの責務を負わされた少年の逃避行
2026年ベルリン映画祭パースペクティブス部門選出作品。9歳の少年ミロは窮屈な環境で育っている。父親は彼を偉大なマランボの踊り手として育てることに熱心だが、父親としての、というか人間として最低限必要なコミュニケーションは全く取ろうとしない。母親も同様。皿洗いに料理にマランボ練習にと彼をこき使う。5歳くらい年上の姉はずっとTVを観ていても許されるのに、自分だけ男らしさや長男としての責務を求められるのにウンザリしていた。ある時、強烈な睡眠薬を手に入れたミロは、家族を眠らせてブエノスアイレスへの列車に乗る…云々。本作品は極端に台詞が少なく、75分しかないのにミルクにチョコを溶かして混ぜるだけの時間など無駄にも思えるシーンが多いのが特徴だ。デッドパンコメディ的に上手く機能しているときもあれば、単に説明不足な場面や不要な場面も多くあり、肯定的にも否定的にもなれないのが正直なところ。中盤に偶然知り合った女優の家に忍び込むという一連のシーケンスはかなり危ういものを感じたが、同時に彼の努力を認めてくれた初めての存在なので、彼の心が動かされるのは必然と言えるのも事実だ。彼女の家で彼女の服を着てマランボを踊るシーンは、彼なりに出来る最大限の反抗である本作品の行脚そのものを象徴しているようでもあり、"男らしさ"の枠に封じられた彼のクィアな側面の表出なのかもしれないとも思った。そう考えると余計にラストシーンは悲惨に映る。彼が無事に生き延びて自分の人生を生きる日が来ることを願うばかりだ。

・作品データ
原題:El Tren Fluvial
上映時間:75分
監督:Lorenzo Ferro, Lucas A. Vignale
製作:2026年(アルゼンチン)
・評価:50点
・ベルリン映画祭2026 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1 . コーネル・ムンドルッツォ『At the Sea』踊れない私の漂うアイデンティティ
2 . アラン・ゴミ『Dao』ギニアビサウ、結婚式と葬式を駆け巡る"永続的循環運動"
3 . Anke Blondé『Dust』ベルギー版"ブラックベリー"の末路
6 . エヴァ・トロビッシュ『Home Stories』東ドイツ人のアイデンティティはどこにある?
7 . レイラ・ブジド『In a Whisper』チュニジア、クィアと伝統と家族について
12 . ハンナ・ベルイホルム『Nightborn』この子は森の子、獣の子
13 . Geneviève Dulude-De Celles『Nina Roza』ブルガリアで自分の過去と対峙する男
14 . ランス・ハマー『Queen at Sea』認知症と性的同意能力について
15 . マルクス・シュラインツァー『Rose』"ズボンを履いた方が自由になれるから"
16 . カリン・アイヌーズ『Rosebush Pruning』ある醜悪なブルジョワ一家の肖像
17 . エミン・アルペル『Salvation』トルコ、土地を巡る争いの果てに
18 . マハマト=サレ・ハルーン『Soumsoum, the Night of the Stars』チャド、女性の自由や権利の話がしたいのか…?
19 . アンソニー・チェン『We Are All Strangers』シンガポール、ある一家の愛と絆
20 . ウォリック・ソーントン『Wolfram』アボリジニ少年団の逃避行西部劇
21 . イルケル・チャタク『Yellow Letters』トルコ、政権批判をしたある芸術家夫婦の肖像
22 . アンナ・フィッチ&バンカー・ホワイト『Yo (Love Is a Rebellious Bird)』私の親友ヨランダ・シェイの人生
★パースペクティブス部門選出作品
1 . Kosara Mitić『17』北マケドニア、悪夢の修学旅行
8 . Dara Van Dusen『A Prayer for the Dying』これが本当の疫病ウエスタンだ!
10 . ロレンソ・フェロ&ルーカス・ヴィニャーレ『River Train』アルゼンチン、男らしさの責務を負わされた少年の逃避行
13 . Muriel d'Ansembourg『Truly Naked』ポルノが氾濫した現代を生きる少年少女たち
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