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秘密の友だち|note感想文

勝手に感想文です。
ネタバレしかないので、先にこちらを読んでください。

秘密の友だち|わたりあめ

秘密の友だちが死んだ。
それを知らされたのは、中学に入学した四月下旬のことだった。
教室の空気は小さく凪いでいた。
(中略)
「西小学校六年三組の卒業生は、今から音楽室に行くように。大事なお話しがあります」
一時間目は体育の時間だったが、ブレザーのまま、音楽室に向かった。


「秘密の友だち」。
これだけで、何かがあるなと思わされる。
ただの「友達」じゃない。
「親友」でもない。
ふたりきりの、閉ざされた関係。

「西小学校六年三組の卒業生は、今から音楽室に行くように。大事なお話しがあります」
の不穏。

生徒たちは、何かしらの「ただ事ではなさ」をうっすらとは察知しただろう。
でも、それがまさか「級友の死」とは結びつかない。
だから音楽室へ向かいながら、髪を切ったとか、吹奏楽部の先輩がかっこいいとか、そんな話をする。
だって、十代にとって「死」は年寄りのものだ。
少なくとも、私はそうだった。
中学一年の私にとって、「死」は、年齢が高い順に、順番にやってくるはずだった。まだ私たちのものではない。「十代の死」は、物語の中にしかない。

けれど、音楽室で知らされたのは、小6のときに同じクラスだった橋本道明君の死。
詳細は伝えられない。
ただ、亡くなったという事実と、葬儀の連絡。

ザワザワが音楽室の中でこだました。となりのクラスになった芽衣が急に泣き出した。女子たちは背の低い芽衣を囲むようにして一緒に泣き始めた。
皐月の手をギュッと握ると、皐月が私の顔を見る。皐月の向こうに音楽室の大きな窓が見えていた。音楽室から見える空の大きさはいつもと変わらなかった。


わかるわぁ……
きっと芽衣ちゃんは、道明君に特別な感情があったんだろう。
(あるいは、感受性が強いだけなのかもしれない)
一緒に泣き始めた女子の中には、きっと、そんな親しくもないのに雰囲気に流されて泣いちゃった子もいるんだろうな。
いや。
違うか。
大人の死と子どものそれは、衝撃度がまるで別物。
そこにはきっと、「悲しい」だけじゃ済まされない感情が渦巻いていたのだろう。

女子たちがしくしくと泣き出した。私は皐月の背中を借りて、泣いたふりをした。
(死んだなんてよくわからないよ)


けれど、葬儀に参列した「ゆうこ」は、他の女子のようには泣かない。
ゆうこは道明の死をまだ受け止められていない。
それは中1のゆうこにとっては「よくないこと」だったのかもしれない。
死は、悲しむべきもの。
泣いてあげなきゃならない。
だから、他のクラスメイトと同じように振る舞う。

道明と私は秘密の友だちだった。


ここから、ゆうこと道明の関係が明かされる。
心臓が弱くて、体育の授業は休むことが多いゆうこと、よくサボっている(とゆうこは思っていた)道明。

“「時間泥棒の話」 「へー、つまんなそ」”

“(道明の)おばあちゃんの具合は大丈夫?”

“(道明の)父さんはまだ入院中。”

“道明が走っているのを一度も見たことがなかった。”

“私は自分のお父さんが嫌い”

“お母さんは私のことが嫌いなの。”

“また貸しになっちゃうから、絶対返してよ”

教室にふたりきりの時間。
ふたりだけの秘密が積み重なっていく。


この物語、道明君の病気のヒントの散りばめられ方と隠し方に痺れました。

私、道明が修学旅行に来られなかったの、病気なんて嘘で、本当は家庭の事情だったのかなー?とか誤読してました。騙された。
そうか。病気だったのか。それも、きっと風邪なんかじゃないやつ。

ゆうこは道明に修学旅行のお土産を渡す。

道明が透明なスカイツリーを空にかざすと、キラキラと虹色に輝いた。
「だっせー!スカイツリーに行って、スカイツリーのお土産って」
「えー」
「ーーもったいないから、もらってやるよ」
「なに、それ」
道明は笑いながら、ストラップを紙袋にしまった。
(よかった。道明に“東京”を持ってくることができて)
私も笑った。


道明に“東京”を持ってくることができてよかったね。
道明は、どんな気持ちでそれを受け取ったんだろう。


道明の葬儀も終わり、ゴールデンウィークが明けた頃。
数学の宿題に苦しめられていたゆうこは、家を飛び出す。

こんな問題、道明に聞いたらすぐ解けるに決まってる。


道明の家の正確な住所も知らないのに。
たまらなく切ない。

自転車のペダルをぐいぐい押した。こんなに強く自転車を漕いだことがあるだろうか。
「はぁ、はぁ」


「ゆうこ」は、私だ。


別に生まれつき心臓が弱いとかじゃないけど、50も過ぎたら短い階段の昇り降りだけでけっこうキツイ。

それでもペダルを漕ぐ。

ここ最近ルールがやたら厳しくなって、自転車なんてもう乗ってらんない。
「通勤に健康的かもぉ~」なんて買ってみたものの、かれこれ四年放置している。

それでも漕ぐ。
全力で、漕ぐ。

私は道明なんて子を知らない。
でも知っている。

いまならまだ間に合う気がするから。
いましかない気がするから。
漕ぐ。

案の定具合を悪くし、ゆうこは倒れていたところを道明の母に助けられる。

「道明くんのお母さんは優しいですね。うちの母はちっとも優しくない」
「でも仕事を休んで修学旅行についてきてくれたのよね?私は道明のために仕事を休めなかった……」
私はもう一度道明の顔を見た。


道明の母の言葉から明かされる、道明の素顔。ゆうこの母の想い。
彼女の言葉は、ゆうこにちゃんと届いたろうか。

「あの、道明くんのお母さん、これ、もしかして」
「あぁ、ゆうこちゃんの?」
それは私のプロフィール帳だった。小学校を卒業するときにみんなに書いてもらって、最後に道明に書いてもらった。でも道明からはプロフィール帳は戻ってこなかったのだ。


そして道明の母によって、ゆうこの手元に戻ってきたプロフィール帳。

ゆうこに自分が重なる。

中学3年の、文化祭の準備をしていた日。
父が私のために教室まで傘を持ってきたことがあった。
たまたま私がいなくて、父はクラスの男子に傘を言づけた。
男子は父の物まねをしながら、私に傘を渡した。
私はそれがすごく恥ずかしかった。
当時私は、その彼のことが好きだったんです。

卒業シーズン。
休み時間終了間際、彼は私のプロフィール帳に、
「愛してるよ、ゆう子。君は僕の太陽だ」
と書くと、「はい」と言って私にそれを押し付け、自分の席に戻った。

「ゆう」くらい漢字で書いてよと私は思った。

彼ももう、この世界にはいない。

ちなみに関谷ユウコの「ユウ」は、
『優秀じゃなくていいから優しくあれ』の「優」なんだそうです。


最後に、ここ。

となりの教室から、洋佑が飛び出してきた。
「絶対ちがう!道明は自殺なんかしねー!」
洋佑は同級生の男子の制服を掴んで、そのまま廊下に転がっていった。となりの教室を覗くと、芽衣が泣いている。
「みんな噂してるぜ!あいつは自殺したって!父親もばあさんも亡くなってショックだったって」
名前の知らない男子が叫ぶ。その男子の胸ぐらを掴んで、洋佑が腕を振り上げた。
「あなたたち!やめなさい!!」
廊下の向こうから酒井先生が現れて、洋佑は手を離した。


名シーンだが、男子のセリフだけ、私はちょっと気になった。

「みんな噂してるぜ!あいつは自殺したって!父親もばあさんも亡くなってショックだったって」

ここは「亡くなって」より「死んじゃって」ではないだろうか。
わたりあめさんに指摘すると、「『死んじゃって』のほうが中学生男子には合ってると思う」と言いつつも、「ちょっとそこはマイルドにしました」とのこと。

なるほど。

意図があって、選択に違いが出るのが見える瞬間っておもしろい。

でも関谷GPT的には絶対「死んじゃって」なので、ここだけ−3点の97点です。


51になった私は、もう知ってしまっている。
ゆうこが道明を失った痛みは、やがて鈍る。
幼い日の美しい記憶に変換されてしまう。
それでも彼は、ゆうこの中から消えることはない。

あと、背が高くて、走るの速くて、大切な友達のために戦える洋佑君の将来が楽しみでたまらん。


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