田村保乃と大沼晶保、二つの『流れ弾』――同じ振付なのに、なぜここまで違って見えるのか
櫻坂46『流れ弾』を、田村保乃センターの正規版
と、大沼晶保センターのBACKS版
で見比べてみた。
同じ曲。
同じ振付。
それでも、私にはまったく別の『流れ弾』に見えた。
どちらが優れているか、という話ではない。
むしろ逆だ。
田村保乃は、傷つきながら、それでも他者へ問い続ける『流れ弾』を作った。
大沼晶保は、他者に染まらず、自分の目で判断して生きる『流れ弾』を作った。
二人とも違う。
だからこそ、どちらも成立していた。
田村保乃は、銃を撃った自分自身にも傷ついている
田村保乃版は、銃を撃つところから始まる。
ただ、撃った直後の田村は強くない。
「なんでこんなものを撃ってしまったんだ」

そんな茫然自失に見えた。
ここで『流れ弾』は、撃つ側と撃たれる側を単純に分けない。
誰かを傷つける人もまた、その行為によって傷つく。
田村は大きく上を向き、集団から離れる。
その後、左から右へ、集団から乱暴に扱われる。
森田ひかると山﨑天に手を引かれ、再び集団の中央へ戻される。
四人に支えられながら上へ持ち上げられる場面では、苦悶の表情を浮かべる。
田村だけ少し遅れて、他のメンバーと同じ動きをする。
二つの集団に分かれ、その真ん中に田村だけが残る。
そこから、まとまった集団の間を割くようにセンターポジションへ出てくる。
そして他のメンバーへ頭を下げる。
ここまでの田村には、ずっと集団との軋轢がある。
楽しそうになったのではなく、正気でいられなくなった
2番に入ると、田村の表情が少し楽しそうに見える。

最初に見た時は、ここで何か吹っ切れたのかと思った。
でも、その後の流れを見ると違うように見えた。
「その他大勢の中に紛れて」で、田村は再び苦悶する。
そして、その後の表情は楽しそうというより、どこかおかしい。
私は、ずっと傷つき続けた結果、正気ではいられなくなったように見えた。
だから、同じ「笑う」でも、大沼版とはまったく違う。
田村は楽しくなったのではない。
傷つき続けた結果、笑うしかなくなった。
「助けて」ではなく、「私がここにいることに気づいて」
終盤、田村は客席ではなく、メンバーの集団の方を向いて踊る。
ここも印象的だった。
でも、私には「助けて」と訴えているようには見えなかった。
もっと切迫していた。
「私がここにいることに気づいて」

そんな最後の足掻きに見えた。
救済してほしいのではない。
自分が集団の中から消えてしまうことだけは拒否したい。
その直後、集団が一塊になり、その左前方で田村が一人で踊る。
一瞬、集団から切り離されて自由になったようにも見える。
でも、田村の表情はまったく自由ではない。
むしろ、かなり切迫している。
集団の中にいても苦しい。
外へ出ても楽にならない。
個になれば救われる、という単純な話ではない。
センターは、到達点ではなく逃げ場のない場所
その後、田村はセンターポジションから動かなくなる。
普通なら、「ようやく自分の場所を手に入れた」と読めそうな場面だ。
でも、私にはそう見えなかった。
「もうここまで来てしまった」
という追い詰められ方に近い。
センターは勝利でも、解放でもない。
むしろ、もう動く場所がなくなったように見える。
集団の中でも傷ついた。
切り離されても自由にはなれなかった。
その果てに、センターへ固定された。
田村版『流れ弾』において、センターは特別な場所というより、逃げ場のない場所なのかもしれない。
「あなたたちは、それで本当にいいの?」
最後の田村の表情は、観客へ問いかけているように見えた。
「あなたたちは、それで本当にいいの?」

田村は自分だけの苦しみを抱えて終わらない。
観客へ問いを返す。
さらに最後、再び銃を拾い、上へ向かって撃つ。
冒頭では、撃ってしまったことに茫然としていた。
でも、最後は違う。
私はここに、
これからも自分は人を傷つける。
でも、この『流れ弾』を見た誰か一人でも、誰かを傷つけることをやめてくれればいい。
そんな願いを感じた。
「もう誰も傷つけない」とは言わない。
自分も加害者であり続ける。
その事実から逃げない。
それでも、誰か一人くらいは銃を下ろしてほしい。
田村版の『流れ弾』は、かなり苦しい。
それでも最後まで、他者を諦めていない。
大沼晶保は、最初から集団を値踏みしている
一方、大沼晶保センターのBACKS版は、最初から空気が違った。
大沼は客席を挑発するような表情を見せる。

その後、靴を脱ぐ。
そして投げ置く。
私には、この「靴を脱ぐ」という行為が、これから櫻坂という集団の中へ入っていくための準備に見えた。
でも、その後の大沼は不安そうに集団を見るわけではない。
むしろ、じっと値踏みしているように見えた。
「私は本当に、この集団に入る価値があるの?」
入れてもらえるかどうかを心配しているのではない。
逆に、集団の側を評価している。
ここで、すでに田村版とは力関係が違う。
大沼は、集団と戦う必要すら感じていない
大沼版では、田村版より周囲のメンバーの乱暴さが弱く見えた。
私は、単に大沼本人の受け取り方が違うだけではなく、周囲のメンバー側も意図的に攻撃性を下げているように感じた。
そして、大沼自身から他のメンバーへの攻撃性も低い。
ここが面白い。
大沼は、集団に対して戦おうとしていない。
でも、従おうともしていない。
私には、
「こんな集団と戦わなくても、自分は生きていける」
という決意に見えた。
集団を打ち負かす必要はない。
自分を守るために、ずっと対立し続ける必要もない。
大沼の強さは、集団と戦って勝つ強さではなく、そもそも戦い続けなくても自分でいられる強さだった。
同じ笑顔でも、田村とはまったく違う
大沼も途中で、この状況を楽しんでいるように見える。
でも、それは田村版の「楽しそう」とは違う。
田村は傷つき続けた結果、正気でいられなくなったように見えた。
大沼は、自分を保ったまま笑っている。
「この変な集団、案外面白いじゃん」

そんな余裕に見える。
大沼版では、「集団に入る=個を失う」という前提そのものが崩れている。
集団に入っても、自分を失わなくていい。
戦わなくてもいい。
それでも一緒にいられる。
「自分の目で判断しないと意味なくない?」
「語り合おう 見つめ合おう」の場面で、大沼は自分の目を指さす。
私はここに強い挑発を感じた。
「自分の目で判断しないと意味なくない?」

他人の言葉で決めるな。
集団に言われたから信じるな。
誰かの評価に従うな。
自分で見て、自分で決めればいい。
田村版も最後に観客へ問いを返す。
でも、問いの質が違う。
田村は、傷ついた経験を経て、
「あなたたちは、それで本当にいいの?」
と観客へ問いを共有させる。
大沼は、
「自分の目で決めれば?」
と、判断そのものを観客へ突き返す。
大沼版の最後は、「私はあなたたちには染まらない」
最後の大沼は、かなり攻撃性の高い表情を見せる。
でも私は、それを「集団への復讐」とは感じなかった。
むしろ、
「私は強い。だから、あなたたちには染まらない」

という表情に見えた。
大沼は他者を変えようとはしていない。
観客にも、集団にも、
「こうなれ」
とは言わない。
あなたたちは好きにすればいい。
私は私の目で判断する。
私は私で生きる。
そこで完結している。
BACKSだから成立した『流れ弾』
ここで、BACKSという場所も重要になる。
BACKSを「選抜に入れなかった人たち」とだけ見ると、大沼版『流れ弾』は正規版の派生や代替に見えてしまう。
でも私は、そうは見なかった。
BACKSは、選抜とは違う熱狂を作れる集団だと思う。
だから、大沼は田村保乃にならなくていい。
正規版を奪い返す必要もない。
田村版より強い『流れ弾』を作る必要もない。
「私たちは、こっちで成立できる」
その感覚自体が、大沼版の「他者に染まらず自分で生きる」という解釈と重なって見えた。
大沼晶保は、田村保乃になろうとしなかった
もし大沼が、田村版の苦悶や、正気を失っていくような表情をそのまま真似していたら、私はここまで面白く感じなかったと思う。
大沼は田村になろうとしなかった。
だから、大沼晶保の『流れ弾』になった。
そして、センターだけでなく周囲のメンバーの攻撃性まで違って見えたことを考えると、私はTAKAHIROの振付自体が、二人の個性を汲んでいたのではないかと感じた。
もちろん、制作意図までは分からない。
ただ、私にはそう見えた。
同じ動きを忠実に再現することと、同じ作品を忠実に受け継ぐことは、必ずしも同じではない。
大沼版は、田村版の感情をコピーしなかった。
だからこそ、『流れ弾』を壊さずに、別の『流れ弾』へ変えられたのだと思う。
二つの『流れ弾』
田村保乃版は、
傷つきながら、それでも他者へ問い続ける『流れ弾』。
大沼晶保版は、
他者に染まらず、自分の目で判断して生きる『流れ弾』。
田村は傷ついている。
でも、その傷つきの中でも他者を諦めない。
大沼は強い。
でも、その強さを他者へ押しつけない。
どちらが優れているか、ではない。
強さの種類が違う。
そして、同じ『流れ弾』が、その両方を受け入れている。
私はそこが一番面白かった。
田村保乃は田村保乃の『流れ弾』を作った。
大沼晶保は大沼晶保の『流れ弾』を作った。
同じ曲。
同じ振付。
それでも、二つの独立した『流れ弾』が成立している。
だから私は、どちらも優れていると思う。
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