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【√と彼らの記憶遊戯】第一章_4話(2/4)「花見と追憶」

 しばらくおはぎやお茶を楽しんでいた俺だったが、おはぎを2つ食べ終えたところで口を開く。
「俺は、昨日楓と会いました。ヨネさんは楓のことを知っていますか?」と尋ねる。
 人格同士で記憶の共有はされるのか、それが今の疑問だった。

「知っておるよ。外に出られる人格未満というのじゃろうか。あたしが光の玉のような形をしていた時からも、楓を通して外の世界は見えておった。」

「頭の中に映画館のスクリーンのようなものがあるといえば伝わるじゃろうか」
そういって、ヨネさんは目を細めるとお茶を飲む。

「ヨネさんが表に出てきたのは一つの人格になった、ということですか?」と俺は尋ねる。
「こうして趣味趣向や性格が違って表に出て来とるのじゃからそうじゃろうなあ。」とヨネさんは、頭上の桜を仰ぎ見ながら言った。

「交代したのはいつですか?」
「今朝じゃ。あたしが生まれたのも今朝。誰かに背中を押された気がするのう」とヨネさんが答える。

__そして、目が覚めたのか。背中を押した誰かとは楓ではないか、と俺は思った。
「今ごろ楓もスクリーンを通してこの景色を見ているということですね。」
「そうじゃのう。出来るだけこの桜をこの目に写してあげたいものじゃ。」とヨネさんは微笑んでみせた。

*****

 俺は、ヨネさんの方を向いてお願いする。
「俺の能力は昨日見たと思います。その上でお願いしたい。」俺は、手をついて頭を下げる。
「_____あなたを視ても宜しいですか?」
 人を視るということは尊厳を守った上のこと。相手の了承を得て初めて使っていい能力だと、俺は思っていた。

 しばらくゆっくりとした沈黙があった。
「視て良い。あの子が知りたいみたいじゃ。」と返事が返って来たのだった。

 その承諾を受けて俺は能力を使おうとした。しかし、なぜかその腕をヨネさんに掴まれて止められてしまう。

「待て。待つのじゃ。」とヨネさんは俺の意識を戻させる。そして、
「お主、本当は視たくないのでは無いか?」と思いがけないことを言うのだった。

(視たくない?俺が?突然何を言い出すのだろう_?)

「お主は何か勘違いをしているようじゃ。どんな過去があったのかはわからん。じゃが、自分の心を見ずして他人の心など視るもんで無い。」と、ヨネさんは優しい口調でありながらもはっきりと告げたのだった。

(__自分の心を見る?)

「この能力は自分に使うことが出来ないんです。」と俺が返すと、
「そうじゃのうても、分かるもんじゃよ。」とヨネさんは答える。

「おぬしは人を見る余りに少々自己犠牲が過ぎるようじゃ。」
「自己犠牲なんて。俺は、あなたのことを、神無楓のことを知らなきゃいけないんです。」と俺は、反論する。
「さっきも言ったが、口で誤魔化しても顔に出るのじゃよ。」
 そう言われて、俺はまた自分の顔を触る。

「じゃあ、どうしろというんですか?俺は行動しなきゃいけない。ここで知ることをやめるたら……」
(_____兄さんは帰ってこない。そういう契約だ。)

しばしの沈黙の後、ふいに
「紫ボブヘアは好奇心の塊じゃったろう?」とヨネさんが言った。
「楓のことですか?確かに、見えたものの中には純粋な好奇心がありました。」と俺は答える。
「……そうじゃ……楓の知りたいという好奇心に押されてお主は一度、力を解放した。」
「じゃが、こうして根本はまだ解決してないように見える。なぜかのう?」とヨネさんは眼鏡の奥からじっと、俺を見る。

*****

ヨネさんは空になったコップにお茶をつぐと飲むよう、促す。

「__お主がそう焦っている理由を聞かせてはくれんかのう。」それは年長者のような暖かい眼差しだった。

(この人になら話せる気がする。)
俺は、お茶を一口に飲み干すと話し出した。

「俺には大事な兄が居たんです。あと、信頼していた先生も。」

「でもある男によって突然、その日常が崩されました。」ぽつり、ぽつりと話す。

「この一年間で能力を取り戻せなかったから……その時、俺は真実を見ることができなかったし、兄さんの無罪を晴らせなかった。__俺は無力だと痛感しました。」
淡々と喋っているつもりだった。

「それなのに……能力を使うことが、知ること、行動することが……怖いなんて、いまさら言ってられないでしょう?」__そう言った俺の声はいつしか震えていた。

「……あなたがいう通り、俺はまだ能力を使うのが怖いのかもしれません。でもどうしたらいいんですか?行動しなきゃ変わらないのに俺は……!」

こんな弱音を人に吐いたのは、いつぶりだろう__。

*****

「____であればこそ、過去の清算じゃ!」と突然、ヨネさんは言った。

「わしは、夢見の力を持つ。過去を夢として見せてやる力じゃ。」

「そんな力があるんですか__?」と俺は驚きを隠せない。

「__お主は向き合う覚悟があるか?」とヨネさんが問いかける。

__過去。きっとそれは能力のトラウマを抱えたきっかけの出来事だ。
(それでも、もう後に引くわけにはいかない。)

「お願いします。」と俺は、真っ直ぐヨネさんの目を見て言った。

返事を聞いたヨネさんは、俺の頭にポンと手を置くと_____。

追憶ついおく』_(レミニセンス)

と唱えた。
 直後、急に眠気が襲う。

 だんだんと意識が遠のいていくなかで、ヨネさんが
「いってらっしゃい」と送り出してくれたような気がした_____。

_つづく


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