【√と彼らの記憶遊戯】第一章_4話(3/4)「蓋を開けた過去」
⚠️読む前にご確認ください!
本エピソードには、主人公が過去と向き合う大事なシーンが描かれています。中には心理的負担の大きい描写を含みます。苦手な方はご注意ください。
また本話は、次の4話(4/4)と続けて読むことをおすすめします。 その方がスッキリとお楽しみいただけるはず……! カカオ茶豆13☕️
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キーンコーンカーンコーン……
(この時間にチャイム……いやこの音は……中学の)
時計は12時半を指しているからこれは昼休みのチャイムだ。それなのに外は夕暮れの景色。
時間が歪んだような情景に、これがヨネさんが見せる俺の過去の追憶、夢であることを実感する。
気が付くと、俺は中学3年の教室に居た。
(……やっぱりここに来るのか…)
*****
_____小学校の頃から俺はクラスの学級委員を任されることが多く、それは中学でも変わりなかった。
クラスの誰よりも生徒間のいざこざには敏感で、どこかのグループで揉め事があれば話を聞き、折を見て仲裁に入ることもある。面倒見がいい奴。
しかし、そんな俺でも限度がある。揉め事の仲裁に入れるのは男子に対してで、女子グループでのいざこざを納める自信は全く無かった。
異性の自分が関わることでかえって誤解を生んでしまうのもよくない、そう思っていた。
しかし最近気になることがあった。
(……前の席の女子。最近、一人でいるのが目立つ。)
見た目は、正直言うと何処にでもいそうな感じだが、コミュ力が高く、クラスでもかなり目立つグループにいた。
クラスの誰にでも話しかける人あたりの良さや飾らない性格から、特に人から嫌われたりするような奴には見えなかったが。
そんな彼女が最近、昼休みに1人で教室を出て行き、どこかでお弁当を食べているようだった。
俺は気になって、女子の学級委員に話を聞いてみたが、
「あー、ちょっと恋愛で揉め事あったみたいだよ。まあ、下手に関わって大きな問題にするより自然に仲直りするのを待った方がいいんじゃない?」
と意外にあっさりとしていて、女子が言うならとその場は結論づけた。
それでもある日、俺は彼女の様子が気になって、昼休み1人で教室を出ていく彼女を付けていった。向かった先は屋上。彼女はそこで弁当箱を開く。
(勝手に視るが、学級委員の仕事としてってことで許してくれ)
俺は彼女に能力を使った。
『魂の脚本 』_(スクリプト・オブ・ザ・ソウル)
しかし見えたのは、
『お弁当、おいしい、ウインナー』
と言った具合に呑気なものだった。
彼女の表情や態度からも悲しそうな様子はなく、むしろ凛としていた。
(__呑気な奴だな。まあ、そのうち時間が解決するってやつか?)
【あのとき俺は、「深刻な事態じゃなくてよかった」と心のどこかで安堵して、それ以上能力でみるのをやめた。】
【そしてそれが、俺が彼女を見た最後になってしまった____。】
*****
____それから三日が経っても、彼女は学校に来なかった。
届ける奴がいなければ、机にはプリントが溜まっているはずだ。
彼女の家を知ってる奴はいないか、とクラスを聞いて回ったが、誰一人知っている生徒は居なかった。
___クラスの誰とでも話せると思った彼女は、実はだれとも深く関わっていなかったのだった。
(まあ仕方ない。とりあえず荷物を集めて、それから担任に住所を聞いて、うちに届けたらいいか。)
そう思い、誰もいない教室で彼女の机の中を見た。
______は?
バサバサバサッ
机いっぱいに詰め込まれたプリントが床に落ちた。
明らかに多いから、ここ1週間のプリントだけではないことは容易に想像できた。くしゃくしゃに丸められた紙屑や折られた紙飛行機が大量に床に散らばる。
_____これはいじめだ。紛れもない。
(これは誰がやったんだ?いつから?彼女はこれを見たか?それとも受け取っていて自分で机に押し込めた?いや、でも3日前まで彼女は平気そうにしてて、でもこれは今日1日とかじゃない量のプリントを荒らした紙クズで)
_____なぜだ?なぜこうなった??
「魂の脚本 !………………魂の脚本 !!魂の……!!!」
俺は、混乱のあまり能力を使い続けて__。
暴走した能力は、机の紙屑から際限なく暴力的な悪口や虚言の文字を拾って頭に流し込む。やがて、それは脳をじわじわと焼きつけるような痛みに変ってゆく。
教室のドアに向かって一歩進もうとすると、みるみると足元は文字で埋め尽くされ、まるで行手を阻むようだった。
*****
俺がフラフラと廊下を歩いていくと、彼女の居た女子3人のグループとすれ違った。
_____体は悲鳴を上げているのに能力で視ることが止められない。俺は、確かめずには居られなかった。
「魂の脚本 。」
『八方美人、いい子ちゃん、媚び売り』
(彼女のことだろうか)
俺はすれ違った後、空き教室の陰に隠れて女子たちの会話を聞いた。
「ってかあの子さあ、誰からも好かれようとして自分持ってないスカスカじゃん!マジ目障りだったわー」と女子Aが言った。すると、
「可愛くないくせにうちらのグループ入んなってんの」と女子Bが半笑いで言った。
「〇〇君に告白されてちょっと浮かれてたみたいだけど、実は彼女のあたしが仕組んだんだよね」と女子Aが言った。
「なにそれ、自作自演ってこと?性格わるー」と女子Cがケラケラと笑う。
歩き去る廊下にキャハハと彼女たちの笑い声が響いた。
どうやら、恋愛の揉め事は彼女をグループから外すために仕組んでいたらしい。ならば、教室の机を荒らしたのも彼女たちか。
(知らせなければ…そうだ、担任。職員室は…どこ……だった…か)
廊下がやけに長く感じた。
その間も文字は際限なく流れ込む。
_____それはいつかの廊下での会話や学校に渦巻く誰かの悪意の渦だった。
*****
俺は、息を整えてから職員室に入ると、担任にクラスでいじめがある事を伝えた。
しかし担任は、
「そうか。」と一言。驚いたそぶりがなく落ち着いているのだ。
そして、能力を使いっぱなしの俺は視てしまった。
『可・哀・想』
(かわいそう?…それだけ??担任なのに???)
「…………先生は知ってたんですか?」と俺は、落ち着くよう努めて尋ねる。
「いや、知らなかった…報告助かったよ。この件は早急に対処するから、お前はもう帰れ。」と担任は言うが、その裏に視えたのは_____
『厄介・忙しい・無関心』
(…………ッ!!)
悪意のない顔の裏に、一連の出来事をもみ消しかねない冷たい文字が視える。
(視たくなかった。)
目の前の教師は担任でありながら、彼女がいじめに遭っていることを知りながら放任した。そしてこの担任は教頭の息子だ。厄介ごとを揉み消すのなんて簡単で……。
俺はたった今知りすぎてしまった。おそらく明るみになり得ない領域。
【だから、もう視なかったことにしたかった。全て忘れたかった。】
(いや、違う。俺は、見てないんだ。だって……)
_____でもそれじゃ俺は、他の奴らと同じ加害者だ。
そして能力を使い過ぎた反動か、脳裏に焼き付いていた文字は浮かび上がり、脳内で勝手に渦を巻いて、まるで自分に降りかかったかのように苦痛を訴えかけてきた。
嗚咽が溢れ、気付けば視界が暗転し、職員室から出た先の廊下で俺は倒れた_____。
目を開けた時には迎えに来た兄さんの心配する顔があった。
*****
兄に止められながらも無理やり出席した次の日。
朝の会では、担任から生徒アンケートが配られた。
【__この日からだ。俺が能力を使わなくなったのは】
(ああ、どうせアイツらは反省してない。)
(周りの奴らはめんどくさがって興味を持ってない。)
(担任は形式上やって見せてるだけ。)
そして放課後、俺は事情を聞くためにと、教頭室に呼び出された。
向かう廊下でうちのクラスの一軍女子たちとまたすれ違った。彼女らも呼び出されたのだろうが、キャッキャと笑い合う様子を見て目を伏せる。
(もう視てられない。)
__しばらくして彼女のロッカーの荷物やネームプレートが無くなり、彼女が居た跡は全て消え去っていた。
(ごめん、俺は何もできなかった。)
*****_____急に、場面が切り替わった。
それはアパートの一室。キッチンで料理をしている兄さんとリビングのソファーで横になっている俺だった。
「なあ、いじめで1番タチ悪いのって誰かわかる?」と兄さんが尋ねてくる。
【そう。その頃、他の学校で教師をしていた兄は、ある日夕食を作りながらそう聞いてきたんだった】
(主犯の一軍女子たちか、冷徹な教師か、教頭か…………)
俺は答えが纏まらずにに口篭ると、兄さんは呆れたようにため息をつく。そして、
「ちゃんと人と関わらなかったお前だよ!」と俺に容赦なく言い放った。
(…………は?)
「……なんでだよ!!俺は彼女の事気にしてたし、能力使って様子も見た!それに解決しようと働きかけてただろ!」と俺は反発する。
(それにトラウマ物の経験をした弟にかける言葉がそれか!?)
__俺は、兄さんの後ろ姿を恨めしく睨む。
(あの日、廊下で倒れた俺を学校まで迎えにきてくれたじゃないか。事情はその時に全部話したはずだ。)
「特に彼女との関わり方。お前が視ていたのは表面的な文字だけで、その奥にいる彼女自身を視ようとしてたか?」
兄さんはそんな俺を知っていながらもキッパリと指摘する。
__『お弁当、美味しい、ウインナー』俺はあの日見た文字を思い出す。
「あの日、屋上で彼女に声を掛けることはそんなに難しいことだったか?」
と兄さんは問いかける。
(返す言葉が無かった。あの時、あの屋上には……誰の目もなかったというのに)
「方法なんて他にもあっただろ?彼女とメッセージなり、直接やり取りはしたか?」
「……してない。」と俺は、俯いて答える。すると、
「なあ、お前は本当に、彼女個人を助けたかったのか?」
「本当はいじめなんて無いと、良いように現実を捉えたかっただけじゃないか?」
(____ッ!)その言葉は深く深く突き刺さった。
「学級委員として振る舞った、それだけにしか聞こえなかったが?」兄さんは、さらに容赦なく言ってくる。
「おれ…は……………………うッ……ぅヴッ……!」
_____その瞬間、俺の目からは大粒の涙が溢れて止まらなくなった。
「おい……泣くのかよ…………」と料理の手を止めた兄さんがこちらに来る。
「…俺も担任と同じだ……大ごとじゃないから大丈夫だって思いたかったッ……!でも気付いたら俺の手に負えないくらいになって、彼女の席は無くなって……」
うッ……ぅヴッ……ヴヴヴァァァッ……!!
その日、俺は兄に背中をさすられながら、泣きじゃくった。
【あー、泣き方カッコ悪……____】
「またお前は……ろくに相談せず一人で背負い込んだな。兄さんに相談しろっての…………」
【兄さんはもういないよ。それも…俺が変わらなかったせいだ。】
*****
やがて視界がぼやけて夢から覚めていくのが分かった。まるで走馬灯のように駆け巡った情景や言葉の数々が今でも残って、頭がぼうっとする。
_______のう。お主や
不意に明るいところから声がした。
ぼやけた輪郭がはっきりしてくると、俺ははっきりと夢から覚めたようで、桜の木の下で____。
ヨネさんに膝枕されていた。
_つづく
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