【√と彼らの記憶遊戯】第一章_3話(4/4)「ボクの回想②」
__どうやらこの子の体は、中3の秋ごろ、突然能力の発現によって複数の人格を持ったが故に不安定になったそうだ。それでも人格たちが協力して学校には通えていた。
しかし、中学の卒業式の後、突然に傷だらけの状態で救急で運ばれ__。
それからたった今まで昏睡状態にあったらしい。
自宅の部屋で療養ができたのは、この子の父親が診療所の開業医で母親が看護師だからだ。母親はよその大きな病院で働いていたようだったが、仕事を辞めると1年間付きっきりで楓の体を看護していたようだった。
「原因不明の植物状態で、運ばれた先の医者にはもう起きないかもしれないって言われたわ。でもね心肺機能は働いていてね、心電図がとめどなく波を打つの。中で生きようとしてるのが伝わってきた。」ぐっと何かを堪えるような母親の表情だった。
「この子の中の誰かが、いやみんなが生きようと頑張っていて、そのうち起きてくるんだと信じてずっと……待ってたわ______。」
涙を滲ませたかに見えた母親は、一瞬だけ後ろを振り返ると、くるっと表情を変えて、またボクに微笑みかけた。
(ボクにとっては未知の話。それを重く受け取らせないための配慮か。)
(病室の一角を普通の部屋のように飾り付けたのは母親の強い信念、優しさだったのかもしれない。)
そう、ボクは理解した。
「……っそうそう!新人さんなら、名前を付けなきゃね!」
「名前?」唐突なことにボクは聞き返してしまう。
「そう、名前。自分で決めてもいいのよ」
(この身体は楓のものだ。そんな僕が名のっていいのだろうか__。)
そんなボクの複雑な心境を察したのか否か、母親は
「直感で決めるのよ。今まで他の子もそうしてきたんだから、大丈夫。」
と言った。
ボクはしばらく悩んだ末、一番ピンときた名前を名乗ることにした。
「___それならボクは、√(ルート)だ。」
(うん、これでいい。)
「何か……おしゃれな名前ね?」と母親は首を傾げて言った。
******
「ところで、学校は……?」と、先ほどからボクを蝕み離れない疑問をとうとう口に出した。
心臓がまた高鳴る。
「あなたは首席で入学してるから、2年に飛び級出来るそうなの。」
「それじゃあ……」それは一筋の希望に思えた。
「2年生の登校日は7日からよ。でも起きたばかりだし無理はしないで――」
と心配する母親をよそに、
「__っ行きたい!!!」
__ボクは体の底から叫んでいた。
あと5日、起きるのが遅ければ、神無楓は除籍になっていたそうだ。
******
しばらくして、母親に案内されたのは収納部屋。ウォークインクローゼットだった。
そこにはカラフルな私服や制服、小物類やウィッグまでもがズラリと並んでいる。
「お店みたい……!」と思わずボクは目を輝かせる。
「あなたが気になった服を選んでね」と母親はクローゼットに招き入れる。
(ウィッグは一番最初に目に止まったこれ!)
と、紫色のボブヘアのウィッグを着けてみるとしっくり来た。
(一応着る予定…?の紺色のブレザーと、中には白いシャツとエンジ色のリボンタイ、青い千鳥柄スカートは膝上丈なのがいい!)
ボクはクローゼットに沢山ある中からそんな制服を選んで着てみた。
「うーん、やっぱりスカート短すぎかな?……いや短い方が可愛いよね。」
と母親に意見を求めてみる。すると、
「かわいいわねえ!」と手を顔に添えて嬉しそうにほころぶ母親だった。
「ボクって結構可愛いもの好きかも!」と母親の反応に思わず嬉しくなってしまう。
「そう!なら男の娘ね!……いや、身体は女の子だからもはや女の子?ややこしいわね……?」と考える仕草をする母親だったが、
「まぁ、どっちでもいいのよ。あなたがどんな子でも、私の子どもなんだから」と結論づけたようで、カラッと笑った。
(__看病して、この子のためにあれこれ悩んで、いいお母さんだな。)
ボクは、ボクを受け入れてくれた母親に感謝した。
*****
そして、登校日の朝。ボクはこの身体に誓ったのだった。
ボクは微かに感じたこの体の意思に従う______。
(__自分は何者なのか、能力は使えるのか、楓や他の人格たちに何があったのか、分からないことは山ほどある。だからこそボクは知りたい____。)
今日彼に出会って、何かが変わる予感がしていた。
(……名前は、何となく名乗れなかった。楓なんて本当は居ないのに__。)
それでもボクは思う。いつかこの意味を、由来を彼に話す時が来るのだろうと。
________。
ボクは、夕暮れの教室で大きく伸びをする。
「うーん!帰ったらまた、卵がゆ作ってもらおーっと!」
そして駆け足で教室を後にした_____。
第一章_3話:完
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